14 ケイロン・キロンという男。
14話
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
オヤジは母様をなんとか説得していた。最終的に母様が折れてワン・シー一族を受け入れる方向で話が決まった。
日にちが経つのは早いもので、ワン・シー氏族が来る日になってしまった。と言っても俺がすることは特にない。
今日の午後に着く予定なので、明日の夜に食事会と挨拶をするそうだ。今日の夜では疲れてそれどころじゃないらしい。
体験したことは無いが地方間の移動、道中の魔物との戦闘はそれだけ大変ということだ。
俺は朝ご飯を食べ終わり、庭まで出てきた。転生したことが両親にバレているので、一言言っておけば、比較的自由に出来る。
もうすぐ5歳になる。生前と合わせると、32年は生きているので思考はそれなりだ。
若返っている分、記憶などの吸収力は想像以上だ。興味関心があるものはすぐに覚えてしまう。27歳も若いと思ってたが、5歳の若いって凄い。だが、思考に身体機能が追いついていない。
日常生活程度なら問題ないが、走ったり、ジャンプしたりと激しく動くと転んだり、想像以上に飛ばなかったりと自分の身体を思うように動かせない時がある。
外に出て身体を思考に合わせるのが最近の日課になっている。
両親に言わせれば、十分に動けている。5歳から徐々に身体が発達して動けるようにから無理はするな。と、いうことらしいが、身体を少しでも違和感なく自由に動かせるようになりたかった。
準備運動をしていると歩いてくる男性がいる。
いつもの様に俺に声をかけてきた。
「おはよう。シー坊。毎日朝からご苦労なこった。」
「おはよう。ケイロン。毎日子供のお守りご苦労なこった。」
「はは。言ってくれる。それじゃ、今日も始めるか。」
そう言って、素早く距離を詰め拳を突き出してくる。
「ちょっと待て。ズルいぞ!」
慌てて、拳を回避するとファイティングポーズを取る。
「始めるって言うだけマシだろ?敵は急に来るもんだ、ぜ?」
有無を言わせずに次の拳を俺の腹のみぞに繰り出してくる。
ギリギリで後ろに下がりながら回避。
「それは悪手だ。」
さらに詰めてこられて足払いをされる。
「って。」
あっという間に転ばされる。
「ほい。死亡。」
倒れた俺の顔に拳を突きつけられて終わり。
「前に出て、攻撃しても、避けて、反撃してくるだろ?」
「当たり前だろ?俺は人形じゃないんだぜ?動くし、考える。俺だって殴られりゃ痛い。そりゃ、避けるだろ。」
「なら、どうしろっていうのさ。」
「それをどうするか考えて対応するのは、お前さんの仕事だ。」
「あーちくしょう。次は上手くやってみせるよ。」
俺は多少の悔しさを感じつつ、文句を言いながらもケイロンが手を出して起こしてくれるのに素直に応じた。
「五体満足に次があるってのは幸せなことだ。それを活かせよ。シー坊。それじゃ、いつもの走り込み始めるぞ。」
微笑したケイロンは答えて、ケイロンに倒された後に言われるいつもの言葉を聞きつつ俺は本来の運動に精を出すのであった。
彼はケイロン・キロン。オヤジの部下の1人で、俺とアーラシュの訓練、護衛役をやってくれる人だ。
言葉遣いは悪いし、子供相手だろうと容赦がない。
さっきやってたのは、頭のおかしい継続型の訓練だ。
1日。1回。ケイロンがどこかのタイミングで俺に奇襲してくる。という訓練だ。
当たり前のように、襲撃してくる。襲撃がない日もある。勉強中、訓練中、トイレ、寝る前、どんなタイミングでいつくるのか予想がつかない。
さっきも始めると言われて、走り込みなど体を動かす訓練を始めるものだと思ったが、実際は奇襲を始めるという事だった。
そんな彼だが、俺もアーラシュも大好きだ。
言葉遣いが悪いし、子供にも容赦はない。頭のおかしい訓練だって平気でする。彼はいつだって俺たちを特別扱いしない。
悪かったら怒るし、良かったら褒めてくれる。なぜ、いけないのかを考えさせて、時にはアドバイスをしてくれる。共に笑ってくれ、遊んでくれ、泣いてくれる。俺たちにとって、ケイロン・キロンは年の離れた兄のような存在だ。
それが、ケイロン・キロンという男である。
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