10 心が読める。
10話
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「アーィ」
母様。良い子で待ってます。何もしません。
…ところで、母様。いつになったらお客さんの所に行くのですか?
「キャンディが帰ってきたら御客様の元へ向かいます。呪文作成の危険性が分かっていない我が子から目を離す親はいませんよ?」
にっこり笑われた。
信用ゼロにございますね。わかります。
数分でキャンディが戻ってきて、札を部屋に貼るのを確認すると母様は部屋を出て行った。そして、キャンディが部屋に待機もとい監視をしていた。
さらに、30分もしないうちに母様が戻ってきた。
「さて、シーリィタ。色々と聞きたいこともありますが、まずは母がなぜ貴方の考えが読めるのかを説明しなければなりませんね。」
「よろしいのですか?ツンディナ様?」
少し心配そうな表情をするキャンディに優しい笑みを浮かべながら母様は答えた。
「構いません。いつか話さなければならないことですからね。1歳にもならないシーリィタに話すことになるとは予想もしてませんでしたが。…シーリィタ。母様はね、呪文で誰でも心が読めてしまうの。だから貴方の思ったこと、言いたいことがわかるわ。」
え?ふぁ?マジで?本物のエスパーというか、さとりだったのか。
…ということは、俺の心の声ダダ漏れですか?
「そうね。ダダ漏れだったわ。呪文を使っている時だけね。」
あんな発言やこんな発言もダイレクトに聞こえたんですか?
「そうね。母は注意はしたし、注意に素直に反応してくれる良い子だって分かってますわ。その、なんとも言えない気分になるわよね。お互い。」
うぎゃー。…死にたい。生後8ヶ月だけど死にたい。母様に淡い恋心を抱いたとか、キャンディと双璧だとか、その他諸々伝わってたのは無理。恥ずかしさで死ぬ。
でも、妙に納得できたのだ。母様は常に的確な優しい言葉を俺にかけてくれた。本当にエスパーだと思ってた。いや、現実に本当だとは夢にも思わなかったが。
「そうよね。そういう反応になるわよね。ごめんさないね。勝手に心を読んで、嫌われても仕方のないことだわ。無理だと言うなら母は極力あなたには近づかないようにします。」
母様が泣きそうな顔になった。その後の結末を知ってるかの様な物悲しい顔だ。
驚いたし、死にたくなった。多分だが、嫌悪感に近いものも感じたと思う。それは事実だ。
心を隠せないならばそんな感情も伝わってるはずだ。そりゃ、嘘がつけなかったり、思ったことダダ漏れになったりする。多分、きっと、これが元で喧嘩もするだろう。
で、だ。だからと言って母様が俺の前からいなくなる?
それは嫌だ。
こんな美人が俺の母親なんだぞ?それを心が読めるなんて理由で遠ざけることがあり得ない。
なぜ、母親が美人で優しい。という、勝ち組ポジションを自分から放棄しなくてはいけないのだ。こんなにも、俺のことを気にかけてくれる母親なんだぞ?母親でなければ、惚れているって本当だぞ?
母様は多分気づいていると思うけど、改めて。
俺は前に生きていた時の記憶がある。だから、普通じゃない。
母様が心が読めて普通ではないなら、俺も生前の記憶がある赤ちゃんだから普通ではない。記憶があるすでに大人の赤ちゃんなんて気持ち悪いだろ?
自分語りなんてがらじゃないが、家族がバラバラって辛いんだ。
仕事で誰もいない家で食う飯は美味いか?
毎年恒例でどこかに出かける家族を羨ましいと思ったことはあるか?それに同伴したことは?
毎日両親が言い争いしてるのを見たことがあるか?
1人暮らしで誰もいない家に帰る虚しさを知ってるか?
生まれ変わって、俺は、家族の暖かさを知ってしまったんだ。
オヤジは忙しいのに意地でも晩飯に帰ってくるアホだ。
母親は美人でいつも気にかけて優しい。
アーラシュなんてまだ4歳でも楽しそうなんだ。
キャンディや他のメイドさん達が何だかんだ言って毎日楽しそうにお世話してくれる。
それを遠ざける?俺には出来ない。勝ち組ポジションを自分から放棄するなんて俺にはできない。
それに比べたら、心が読める母親なんて軽いんだよ。
俺は言ってやった。思ってること全部めちゃくちゃだけど、ぶちまけた。本心を。
「シーリィタ。ありがとう。認めてくれて、ありがとう。」
母様はベットの俺に覆いかぶさる様にして泣いた。
「ツンディナ様。良かったです。」
キャンディもボロボロ泣いていた。
きっと、母様もキャンディも、もしかしたらオヤジも心が読めるのという事で想像もつかない様な苦労があったんだろう。そんな風に感じた。
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書いてたらなぜか重くなった。




