日記とリィナと <萌乃>
一方、スペードの7号室。
萌乃の部屋に不思議なものが置いてあった。
前に泊まった者の忘れ物だろうか?
それは日記のようであった。
「なんやこれ……」
思わず萌乃は、日記を手にする。
「……開いてみても、ええんかな?」
気になって、恐る恐る、ちょっと開いてみると。
『彼にログを渡すな』
殴り書きで急いで書いたような、そんな字でそんな一文が書かれていた。
「……ログって、なんや……?」
ぴらりぴらりと次々とページを捲ってみるものの、それ以上のことは書いていなく。
すると、部屋の扉から、ノックの音が鳴り響いた。
「あっ、あかんっ!」
びくりと、思わず萌乃は体を震わせ、日記を閉じ、元の場所に戻した。
そう、何事もなかったかのように、そのままの場所へ。
すると入ってきたのは、この店のスタッフ、リィナであった。
「す、すみません、ここに忘れ物しちゃったみたいで、取りに入ってもいいですか?」
部屋に入ってくると、すぐさま日記の元へ駆け寄り。
「……よかった、ここにあった」
ほっとした様子で手にすると。
「それでは、お騒がせしました」
ぺこりと頭を下げて、部屋を出て行こうとするのを……。
「あ、あのっ!」
止めたのは、萌乃だった。
「あの……彼って?」
萌乃は思わず、日記に書かれていた彼のことについて尋ねる。
「え? 彼? ダレのこと?」
しらばっくれるかのように、リィナは首を傾げる。
どうやら何も知らないのか、それとも……。
「知らないんですか? ……ログって、何ですか?」
萌乃の突っ込んだ質問に。
「!!」
リィナの表情が急変した。
先ほどの温和な笑顔が消え、現れたのは、鋭い視線。
まるで、相手を切り裂くような、そんな凍てついた瞳だった。
「この中身を、読んだのかっ!?」
と同時に出てきたのは、拳銃。
萌乃にその拳銃を突きつけ、睨みつけていた。
その急展開に驚きながらも、萌乃は冷静にその拳銃を掴み。
「……少し、落ち着こうか」
困惑しながらも問い質すことを忘れない。
「なんなのか、教えてください」
と。
長い時間かもしれない。
だが、実際に過ぎた時間は、ほんの数分……だったかと思う。
先に口を開いたのは、リィナだった。
「………本当に、知らないのか?」
どうやら拳銃を突きつけたリィナも困惑している様子で。
「あの組織の人間じゃないということか……」
呟くようにそういうと、こほんと咳払い。
そして、突きつけていた拳銃を下ろし、どこかへと仕舞うと。
「驚かせてしまって、申し訳ありませんでしたー。ちょっとしたアトラクション、楽しんでいただけましたか? 食事の用意ができましたら、また呼びに来ますね」
そう言って、リィナはさっさと仕事に戻ってしまうのだった。