三人目の客と少女 <左京>
新たな客がまた一人、オーベルジュを訪れる。
彼は左目に包帯をしている男性だ。
過去に何があったのかは、知らない。
だが、この地を自分の、新たな居場所にしようと考えていた。
「あ、よ、ようこそ、クローバーリーフへ」
その風貌からか、リィナは緊張した面持ちで続ける。
「ご予約の……えっと、代々木 左京さまですね。お部屋にご案内します。それから……その、長期滞在とのことで、お間違えありませんか?」
「……あっている」
静かに彼、左京は答えた。
「よかった。えっと左京さまの夕食は、日替わりで他のお客様と別メニューとなりますので、ご了承くださいね。えっとお部屋はクローバーの1号室になります。ご案内しますね」
鍵を手にリィナは、左京を部屋へと案内する。
やはり、緊張しているらしく、どこかぎこちないのは気のせいではないだろう。
「あ、大浴場は1階にありますので、お部屋のバスルームが狭いと感じられたら、そちらのご利用もどうぞ。タオルのレンタルもフロントで行なってますので、どうぞお気軽に」
だが、最後にはスマイルを忘れない。
「ありがとう」
その左京の微笑みに、リィナも嬉しそうに。
「その……嬉しいです」
と微笑み返した。
一通り部屋の説明を終えたリィナ。
扉を開けて、部屋を後にしようとしたとき、ふと、その足が止まった。
「あ、この奥の……あちらの黒い扉、見えますか? あれ、屋根裏なんです。そちらには入らないようにしてくださいね」
指差した廊下の奥。そこに黒い扉が見えた。
恐らく、そこがリィナの言う、屋根裏への扉なのだろう。
「あの黒いトビラか……わかった」
「それではごゆっくり。今の時間なら日が陰ってますので、散歩にはいいですよ」
そういって、リィナはようやく、部屋を後にしたのだった。
「散歩でもしにいくか……」
やることもなく、左京はそう呟き、部屋の扉を開けた、その瞬間!
「きゃっ!!」
そこには、金髪に白いドレスの可愛らしい少女が立っていた。
というより、左京の開けた扉にぶつかったというのが早いだろう。
「ぅあっ!? ったくだれだよも……ってあれ?」
左京の驚きに、少女もとても驚いている様子。まじまじと見れば、少女は幼く、年は6歳くらいに思われた。
「あ、えと……こんちは」
そう挨拶していくと、すぐさま少女は……黒い扉、いや、屋根裏への扉を開けて、その中に入ると、勢いよく音を立てて入ってしまった。
「……あすこは、開かずの扉じゃ……」
思わず決め付けるものの、近寄り確認してみると、どうやら屋根裏への扉は、鍵がかかっていない様子。
「……なんか気になるな」
そう呟いた瞬間。
がたんごとんという音と共に。
「きゃー!!」
と言う声も。
結局、左京はそれ以上は踏み入れず、自分の部屋へと戻っていった。
左京と少女の出会いは、こうして終わりを告げたのであった。