二人の客 <せな&萌乃>
そんなこんなで、開店を迎えたオーベルジュ。
そんなある日のこと、予約していた客がここに訪れた。
「ようこそ、クローバーリーフへ。ご予約のゆゆぎせな様ですね。お部屋に案内しますので、どうぞこちらに」
やってきたのは、予約していた客、せな。
大きな荷物を手に、可愛らしい少女は、少し照れた表情で翔を見上げる。
「にゃは、は~い」
直視できないのは……。
(「こ、この人、格好……いい……」)
翔のビジュアルのせいだったり。
と、そのとき、また来客を告げるベルが鳴った。
「おや、またお客様ですね。では、一緒にご案内しましょうか。飯尾 萌乃様もどうぞ、こちらへ」
やってきたのは、茶色を帯びた黒髪をポニーテールにした女性。暑いのか袖を捲くっている。
そんな二人の荷物を翔は、さり気なく持ってやった。
「あひゅ……ありがとうございます」
せなの鼓動は早まり。
「おぉ、おおきに」
萌乃も笑みを見せる。
「笑顔が、可愛いですね」
と翔がせなに微笑めば。
「え? あぁ……いや、ありがとう」
「どういたしまして」
でも、ちょっとせなは焦り気味。
(「もしかして、気づかれた?」)
それを誤魔化すかのように、せなは口を開く。
「このお店のオーナーさまって翔さんなんですか?」
「ええ、俺がこの店のオーナー。どうぞよろしく」
ぺこりと頭を下げながら、階段を上がり、部屋の前に到着する。
まず、案内するのはせなの部屋。
「あ、せな様のお部屋はこちらのハートの4号室です。日当たりのいい部屋ですよ。小さいバスルームもついていますが、1階には大浴場もあります。よければご利用ください。空調はそちらのリモコンでクーラーを調整してくださいね」
そこで言葉を区切り、にこっと微笑む。
「なにかあればフロントまで……待ってるぜ」
そう言いながらも、萌乃への気遣いも忘れない。
「君も、可愛いね……」
「あ、いや……」
「あっと、萌乃様の部屋はせな様の後でご案内しますね。こちらの部屋も良いですよ」
「はい。あっ、なにもあらへん」
萌乃も翔の対応に、ちょっと、どきまぎしていたりする。
「はーい、ありがとねッ。あ、そうだ……お部屋には誰もいてくないの?」
せなの甘える言葉に翔は。
「お一人と聞きましたが?」
そう言いながらもそっと、せなの手に何かを握らせた。
せなは、そっとその手を広げると、そこには、翔の携帯番号が書かれたメモが。
「何かありましたら、またフロントまで」
執事のように丁寧なお辞儀をし、翔は部屋を出て行った。
一方、萌乃の部屋はというと。
「それでは、何かあれば、またフロントに来てくださいね」
「あっ、はい」
案内されたのは、スペードの7号室。
眺めの良い部屋だった。