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ウィナーズ・フィスト

 「二人ならって、レミィ、もしかして……」


「えぇ、たぶん想像の通りだと思います、リシュアさん。私の特大の火属性魔法をライナさんのパンチに纏わせるんです」


 握りしめたままのライナの拳に目を落として、レミィは自信に満ちた口調で言った。


「なるほど、確かにそれならいけるかもしれないな。いや、きっといける……」


 レミィの考えていることはレイトにも凡その予想はついていた。


 目の前のこの強固な氷を消し飛ばす威力はあれど、その範囲が家自体も巻き込みかねないレミィの魔法と、破壊範囲はほどほどに良いが、氷を打ち砕くには若干威力不足のライナの拳打。この二つを合わせれば、威力、破壊範囲共に最適な一撃が生まれるはずだ。だが、一つだけ深刻な不安要素が残っている。


「……どうでしょうか、ライナさん。あとは私の全力の魔法をライナさんの鎧で防ぎきれるかどうか、ということくらいなんです。なにしろ強化系魔法じゃなくて、全力の攻撃魔法をぶつけて纏ってもらうので……」


 まさしくレイトが脳裏に浮かべていた「不安要素」を、レミィは口にした。


 もし自分の魔法がライナの魔力の鎧の耐久力を凌駕してしまったなら、間違いなく彼女の命の保証はない。レミィの考える「協力技」を実行すれば、彼女にとってはリスクは無いが、ライナは命を賭けなければならないのだ。


 おどおどと聞くレミィの前で、ライナは俯いたままプルプルと震えている。


「…………ごめんなさい、いくら何でも危険すぎますよね……。何か、他の方ほ「いいぜ、やってやろうじゃん!」」


 言葉を遮り、やたらと目をキラキラさせたライナがレミィの両肩を強く掴んで言った。目を丸くするレミィの前で、ライナ一人がニカッと笑う。


 どうやら震えていたのは恐怖とは全く逆の理由からだったらしい。


「え、えぇ……本当にいいんですか……? 下手したら右腕が灰に……」


 胸の内の不安要素を打ち明けるレミィに対して、ライナはまるで他人事のようにうんうん頷いている。


「安心しろよ、レミィ。幸か不幸か私の魔力の鎧は最強なんだぜ? 何もかもを溶かしちまう体液だろうが、ブラックロータスのオリジン・アーツだろうが、すべてを無傷で打ち消してきた私の鎧を信じて、レミィは全力の炎を私のこの腕に纏わせてくれればいいさ」


 確証などどこにもない。ただ、彼女の今までの経験と直感から生まれたに過ぎない発言。しかし、そう言い切るライナの自信に満ちた表情は、それだけでレミィ達三人に「いける」という三文字を確信させるには十分だった。


 彼女の自信に、レミィは乗った。


「……わかりました、ライナさん。あなたのその自信に、私は挑みます」


 その言葉にライナは深く頷いて、再び氷に閉ざされた扉の前に立つと、腰を低く落とし、右の拳を背中の後ろへ引き絞り、拳打の構えを取った。


「私はいつでもいけるぜ。さぁ、来い!」


 いつも通りの前向きなライナの姿に一度、クスッと笑って、レミィは両手をライナの右の拳に向けた。「お二人は少し下がっていてください」とレイトとリシュアに伝えてから、彼女は全力の魔力を込めた詠唱を開始する。


「舞い踊れ火の奔流、咲き誇れ豪熱の大輪。我が腕に寄りて、万物を赤く照らせ。原初の開花の時は来たれり……」


 詠唱と共に、レミィの両手に二輪の真っ赤な花が咲いていく。徐々に大きく、徐々に明るく。花弁は重なり合い、美しい紋様となって魔法陣を編んでいく。


 そして。


擬似進化(エボルヴ)新生の極大神炎フラワリングエクスプロード!」

 

 彼女が魔法名を言い放つと同時に、紅蓮に輝く炎が渦を巻く無数の小さな花弁となってライナの右の拳へと吸い寄せられるように向かっていく。


 拳に届いた花弁達は、彼ら一枚一枚が宿したエネルギー、常人であれば一枚触れただけで火傷では済まないほどの超高熱の全てをライナの拳に纏わせる。


 そして、全ての花弁がその力を纏わせ終えた時、ライナの拳は太陽にも似た輝きを放っていた。


 それほどのエネルギーだというのに、少し後方に下がっているレイトが一切の熱を感じないのは、ひとえにライナの拳にエネルギーの全てが押し込められているからだろう。


「平気ですか、ライナさん。熱いとか痛いとか、そういうのはないですか?」


 紅蓮に輝くライナの腕の様子に、レミィは心配そうに聞く。


 だが、そんな心配はよそに、ライナ本人はといえば心底嬉しそうな表情を浮かべて笑う。


「あぁ、ちょっと普段より体温が高いように感じる以外は平気さ。腕だけじゃなくて全身に力がみなぎってきてる。これなら間違いなく、目の前の壁をぶち抜ける!」

 

 行くぜ! と言わんばかりの勢いで、足を踏み込むライナ。が、しかし、まだ腕を引き絞った姿勢のままで、唐突に彼女は動きを止めた。

 

「ど……どうしました?」


「ん? あぁ、いや、大したことじゃない……いや、あるか?」


 慌てて駆け寄るレミィに左手をヒラヒラと振って、真面目な顔でライナは言う。


「いや、考えてみたらさ、これが私が初めて使う魔法みたいなものだろ? だから、何かカッコいい技名が必要だなって」


「……アハハ……。ライナさんらしいです。でも、それは大事なことです。なにせこれはライナさんだけの奥義なんですから!」


 ライナの考えを笑うことなく、レミィは大きく頷いた。


「それじゃあ少し時間をくれ」

 

 それっきり、未だ拳は肩の後ろへ引き絞ったまま、ライナは目を閉じ沈黙する。時々眉間にシワが寄るあたり、技名の決定は困難を極めているようだった。とはいえ、それは無理もない。なにしろ、いくらレミィのサポートがあったからこそとはいえ、本来なら魔法の類は一切使えないはずのライナが使う、人生一発目の魔法技なのだから。


「……決めた!」


 五分ほど悩みに悩んだであろうライナは、突然カッと目を見開いて叫ぶ。


「ようやく決まった。私の技名!」

 

 もはや表情だけではない。全身から喜びと興奮を迸らせて、ライナはさっきよりも勢いよく足を踏み込み、全身全霊を込めた紅き拳の一撃を氷壁へと撃ち込んだ。


「バーニング・エクストリーム・フィストォォォォォッ!」


 至極単純にして勢いのある技名と共に、轟音を響かせて氷壁に炸裂した彼女の拳は、そこに宿った圧倒的な熱量を一気に氷壁へ向けて爆発させると、氷壁に張り巡らされた魔力の防御網もろとも、瞬時に蒸発させ、半径1メートルほどの巨大な穴を目の前壁に開けた。



 

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