表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/171

はじめてのダンジョン攻略(前編)

 ゴブリン達が逃げ出してきた廃坑。手帳の地図での正式名称「旧エトラム第二炭鉱」という名のその内部は、ゴブリンの案内がなければあっと言う間に迷子になってしまいそうな程、複雑に通路が分かれ、広がっていた。


 坑内のいたるところに折れたツルハシや、錆付いたトロッコが残されているものの、坑道自体はゴブリン達によって整備されているようで、坑道を支える柱や梁のあちらこちらに真新しい補強がなされている。


 そんな廃坑の中を、レイト達三人は数匹のゴブリンの先導の下で例のモンスターとやらがいる地点へと進んで行く。


「それにしても、そのモンスターはいったい何の種族なのかしら……」


 ランタンと、壁に備え付けられた松明の炎にオレンジに照らされた坑道を進みながら、リシュアは独り言のように言う。


「実際に対峙してみるまで分からないよな……。特に鳴き声が聞こえるというワケでもないし……」


 リシュアの言葉にそう返事をしながら、レイトは改めて坑道内の音に意識を向ける。が、相変わらず聞こえるのはレイト達一向の足音と、天井から染みた水が垂れる音くらいで、特にこれといったモンスターの声は聞こえては来ない。


 もうこの廃坑内にはいないのか、それとも息をひそめてじっと獲物がのこのことやって来るのを待っているのか。どちらにせよ、敵の情報がほとんど不明というのは少し気持ちが悪い。こちらが気付いていないだけで、既に敵のモンスターはレイト達の存在を既に感知している可能性も十分にあるのだ。

 

「そうねぇ……。ライナ、ゴブリン達からそう言った情報は何もないの?」


「あぁ、さっきも言ったけど、私はゴブリンの言語が完璧ってわけじゃないからな……? 雰囲気で理解してるだけだからな……? 流石にモンスターの種族とか、そんな詳しい部分はわからねぇんだ…………。ただ、攻撃しても死なないとか、直ぐに復活するとか、そんな感じの事は喋ってた気がするけど」


 両腕を頭の後ろに組んで、軽い足取りで先導のゴブリン達のすぐ後ろを歩くライナは気楽そうに言う。


「ほんと、ライナは呑気よねぇ…………でも、不死の敵が相手って、私達でどうにかできる案件じゃなくない? 封印魔法とか、私使えないわよ? レイトは? 実は密かに習得してたとか、そういうのはない?」


「……封印魔法を習得するくらいなら、転移魔法か、後遺症の無い普通の強化魔法を習得してるだろうな」


「呑気も何も、まだ本物と会ったわけでもなし、気にしてもしかたなくないか? ま、どうにかなるだろ。不死じゃないけど、最強無敵の防御なら、ここにいるからな!」


「まったく、あなたのそのポジティブさ、少し分けてほしいくらいよ…………って、あら?」


 視線の先、坑道の十メートル程向こうに、大きく開けた空間が見えた。 


 そして、それを合図にしたかのように、先頭を歩いていたゴブリン達が一斉に足を止め、後ろを歩くライナに、怯えた様子でしきりに何かを伝えようと、身振り手振りを混ぜながら話しかける。


「「$&(&’’)%$#%&!!」」


「……ふむ…………あー、はいはい。おーけーおーけー」


 ゴブリン達の言葉をひとしきり脳内で理解したらしいライナは、怯えなど微塵もない明るい笑顔でゴブリン達に頷いてから、二人の方へと向き直った。


「うん。ここから先がゴブリン達の居住区域で、モンスターの襲撃があった場所なんだってさ」


「…………いよいよってわけね……サーペントがでるかオーガが出るか…………」


「あぁ、気を引き締めていこう……」


 各々の武器を手にするゴブリン達に続き、レイトも剣を抜き、ゴブリン達の居住区域へと足を踏み入れる。


「あの、さ……私、モンスターの正体分かったかも」


 松明の炎が消え、真っ暗な空間をランタンで照らしながら、リシュアが開口一番そんなことを言った。


「……奇遇だな、俺もたぶん同じことを考えてるよ…………」


 おそらく居住区における広場的な役割を果たしていたらしい目の前に広がる空間の床には、元々テーブルや椅子だったのであろう家具の残骸が散らばり、その上をうっすらと青みがかった粘性の液体が、帯状に何本も走り、広場から放射状に広がる坑道の奥へと消えていっている。まるで何かが這いずり回った跡だ。


 移動の跡にここまでべったりと粘液を残していく種族は、そうはいない。というよりもむしろ一種類の種族に絞られてくる。


 ギルド配布の冒険者手帳のモンスター図鑑の最初のページに示されている、どちらかといえば雑魚の側に分類される不定形のモンスター。動きののろさと攻撃の単調さのおかげで、もっぱら新米冒険者達の魔法攻撃の練習台にされるそのモンスターの名は…………


 ぶにゅん、もにゅん


「……来たわね。ウォータースライムが」


 そう、スライム。丁度酒樽ほどの大きさの深い青色をした半透明のゼリー状のまるい物体が、コミカルな音を廃坑内に響かせながら、あちこちの坑道から姿を現し、ランタンの光をテラテラと反射している。


「え!? モンスターの正体って、スライムなのか!?」


「あぁ、そうみたいだな」


 既に武器を構えたゴブリン達の横に歩み出て、レイトは剣を、ライナは拳を構える。


 相手がスライムなら、剣や槍など、武器で戦う場合の立ち回り方はスライムの属性に関係なく基本同じである。むしろ一つしかない。スライムののろい攻撃をかわしながら肉薄し、その中心に位置する球状の物体、通称「コア」を斬るなり刺すなりして壊す。それだけの簡単な仕事。


 ゴブリン達が「不死」のように言っていたことは気になるものの、どこからどう見てもスライムとしか判断できないのだから、とりあえずコアの破壊を最優先に動く以外にやり方は無い。


「よっしゃ! 討伐一番手は私がもらうぜ!」


 早速ライナが広場一杯に響き渡る威勢のいい声を上げながら、目の前の坑道から出て来たウォータースライムへ向かって突進していった。

 

「「「%&((’&&’)’!!!!!!」」」


 彼女の突進に続き、ゴブリン達も一斉に咆哮し、攻撃を開始していく。


「よし、それじゃあ俺も戦闘開始といきますか!」


 ライナとゴブリン達の熱気につられ、レイトもスライムの群れへと駆けだす。そんな彼の背中を眺めながら、リシュアはクスリと笑う。


「まったく、元気がいいんだから……」


 だが、三人はまだ知らなかった。ゴブリン達の「不死」という発言の真相を。




 

 


 


 




 


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ