冒険者らしきこと(後編)
「……うわぁ……村長さんの言ってた通り、うじゃうじゃいるわね…………」
グリューダの訪問から五分程の後、レイト、リシュア、ライナの三人は、村から僅か十数歩ほどの位置にある巨岩の影に身を潜めている。
その岩を挟んで三人から五十メートル程先の木々の間で、グリューダの言葉通り、剣、槍、弓といった多彩な武器で武装した小柄なゴブリン達が集まり、何やら話し込んでいるようだった。
「いったい何を話してるんだろうな……。あのゴブリン達」
岩の影からゴブリン達の様子を眺めながら、レイトは独り言のように言う。
地面に何やら地図らしき紙を広げ、しきりに木の棒で何かを指し示す様はある種の軍議のように見えるものの、肝心の中身は、当然ながら全く分からない。
「$%&#’&%&!」
「「「#$ー!!」」」
耳をすませば何やら言語らしいものは聞こえるが、人間であるレイトにゴブリン語を理解できるわけもなく、隣でリシュアも首をひねっている。だが、二人の隣で、一人だけ、何やらうんうんと頷いているエルフがいた。ライナだ。
「なるほどなるほど。あー、はいはい、そういうことか」
え、というポカンとした表情の二人の横で、どうやらライナはゴブリン達の軍議の内容をだいたい理解したらしく、満足そうな顔でそんなことを呟いた。
「…………ちょちょ、ちょっとライナ。お前、あのゴブリン達の言っていること分かる……のか……?」
「ん。まぁ、大雑把に、だけどな。以前、数か月ほどゴブリンの村に滞在することがあったから、そのおかげってことさ」
「はー、これは意外な一面ね。と、それはともかく、ゴブリン達の話している内容を教えてほしいんだけど」
「あ、はいはい。えーっと…………簡単に言うとだな、あいつらの暮らしてる廃坑に、突然かなり強いモンスターか何かが襲ってきて、廃坑内から逃げ出してきた。でも、どうしてもあの廃坑を取り戻したくて、どうにか敵を倒せないかを模索中。って感じ。ちなみに、村を襲うとか、そんな雰囲気の会話は私が聞いた限りでは出てこなかったな」
ライナの言葉に二人はホッと小さく溜息をついた。少なくとも今のところはトリネコが襲われる心配はない。
「これでひとまず村の安全は一安心ってわけわけだな。……とはいえ、これじゃあ根本の解決には至ってないんだよな……」
そう、ライナの通訳が正確ならば、ゴブリン達が逃げ出してきた廃坑には、「かなり強いモンスターか何か」がまだ残っているはず。ゴブリン達がトリネコの村への敵意を抱いていないとしても、廃坑内にいるモンスターが村を襲うという可能性もあるのだ。
そもそもレイト達がグリューダから受けた依頼の内容には、「廃坑内の調査」も含まれている。三人がそのモンスターと対峙することはどう頑張っても回避不可能な確定事項だ。
「……そうね、廃坑内のモンスターってのがどういう種族なのかは分からないけど、そいつを倒さないと、村長からの依頼は達成されたことにはならないわね」
「正直なところあんまり乗り気はしないが……誰かさんが自信たっぷりに「この依頼は私達が完璧に解決して見せます!」なんて、村長の目の前で宣言していたし、今更引き下がれないもんな…………」
「うぐっ……。だ、大丈夫よ、この滞在で私もある結構な数の攻撃魔法を開発したし、大抵のモンスターなら倒せるわ。それに、なんていったってこっちにはいかなる攻撃も通じない最強の盾役もいるんだから。ね、ライナ……って、あれ?」
隣でさっきまでゴブリンの会話を熱心に聞いていたはずのライナがいつの間にか消えていた。
そして、その直後。
「「「$&’(%$’)-!!!!!!」」」
というゴブリン達の妙に威勢のいい叫び声と共に、
「よっしゃ! 廃坑のモンスターをぶっ倒しに行くぞぉっ!」
と、さっきまで隣で効いていた声が聞こえてきた。
「……うん。何となくそんなきはしていたわよ…………」
「まぁ、あの性格なら、仕方ないよな……」
岩陰から覗いた二人の視線の先。いつの間にか、よく訓練された兵士のように五列縦隊の形に整列したゴブリン達の先頭にライナが拳を掲げて立っていた。
そのライナが、レイト達の視線に気づいたのか、ニカッと笑って二人を呼んだ。
「おーい二人とも! こいつらが廃坑を案内してくれるってさ!! 早く行こうぜ!!」