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人と魔族と(中編)

 窓の外に夜の帳が下り始めた頃、レミィの眠るベッドルームの隣で、レイト達三人はテーブルを囲み、早めの夕食を摂ることにした。夕飯は、ライナがその無敵に近い防御力をフル活用して仕留めた大熊の肉と、村長から分けてもらった野菜を使ったシンプルなシチューと黒パン。ちなみに料理人はライナだ。


 ガスランプの灯りで仄かなオレンジ色に照らされた温かな部屋の中に食欲をそそる匂いがあふれているが、ライナを除く二人のスプーンを口へ運ぶ手は重い。リシュアに至っては、シチューにもパンにも、まだ一口も手を付けていなかった。


ふぉうひはんは? (どうしたんだ?) ふぁふぇふぁいほか?(食べないのか?)


そんな二人の空気をよそに、口いっぱいにパンを頬張りながらライナが聞き、飲み込まないうちにシチュー皿を傾けて残りのスープを全てズズっと口へと流し込んだ。


「ちゃんと飲み込んでから話しなさいよ……。まぁ、それは置いとくとして……どうしたも何も、レミィの事を考えると、あまり食欲が湧かなくてね…………あなたは平気みたいだけど……」


「?」 


 リシュアの言葉に、ライナは不思議そうな顔で首を傾けながら、最後までとっていたらしい数個の肉を次々にフォークで口に放り込んでいく。


 それらをもはや噛んでいるのかすら怪しいスピードで飲み込んでから、ライナは再び口を開く。


「もぐ……んっ。そりゃ私だってあいつのことは心配で仕方ないさ。だけど、今それを気にしてもどうしようもないだろう? レイトはもちろん、それにリシュアだって疲れてるはずなんだから、今はしっかり栄養と休息はとらねぇとだめだろ」


「え、えぇ……それはそうだけど…………」


 ライナの言葉に、リシュアは皿と口の間で止まったままのスプーンに視線を落とす。スプーンの表面に自分の顔が情けなさげに歪んで映っている。


 昏睡から目覚めたばかりのレイトはともかくとして、彼女に食欲が湧かない原因は、なにもレミィの事だけではなかったのだが、それを反論したところで何の意味も持たないと、リシュアは重たい手つきでシチューを口へと運んだ。


 そんなリシュアの様子に小さく頷いて、ライナはコップの水を一気に飲み干して席を立つ。


「…………プハッ、御馳走様! あいつの様子は私が見ておくから、二人はゆっくり食べるといい。私の作った料理を残したら許さねぇからなっ」


「え、えぇ……」


「あぁ……わかったよ……」


 二人の返事に少し満足そうな様子のライナがレミィの眠る部屋へ消えた後、しばし食事の音だけが響いていた。


 そして、二人がほとんど料理を完食しかけた頃。


「ねぇ、レイト」「なぁ、リシュア」


 二人の声が同時に重なり合い、部屋に響く。


「「…………」」


 二人の間を流れる微妙に気まずい空気。お互いに譲り合う雰囲気の中で、先に動いたのはリシュアだった。


「レイト、あなたの身体の事なんだけど…………」


 彼女の言葉にレイトはあぁ、と頷く。


「丁度俺もそれを聞こうと思っていたところなんだ。ほら、あれだろ? 魔族化の……」


「…………えぇ、そう。そのことについての話よ」


 スプーンを置き、険しい表情でレイトを見据え、リシュアは口を開いた。


「あなたもたぶん気づいているとは思うのだけど、あなたの中の魔力がジルバの時以上に魔族のものに傾いてきているわ。このままアレを使い続ければ、完全に魔族になるのも時間の問題よ……」


「……やっぱりか…………あの精神世界的な場所も、少し変化していたし。同じことをあの影からも言われたからな…………。それにしても、あの影はいったい何なんだろうな。正体を聞いても教えてくれないし……」


「……推測だけど、その影自体があなたの内に潜んで、大きく膨らみ続ける魔族の一面なんじゃないかしら。このまま魔族化が進めば、その影ってのがあなたの人格を喰らい尽くして、表面に現れるってことも十分にあり得るわよ……」


「人格を喰らう……?」


 予想だにしないリシュアの発言に、レイトは思わず聞き返した。体が魔族化するというのは分かるが、人格を喰らうというのは一体どういうことなのか。


「えぇ、そう。魔族化ってのは単に体が変異するだけ、みたいな簡単な話じゃないのよ。…………そうね。まずはジルバで話せなかった、人と魔族の関係の部分から話しましょうか……」


 コップの水で喉を潤してから、リシュアは遥か昔に起きた一つの事件、人と魔族の忌み嫌い合う関係を産み落とした出来事を話し始めた。







 






 


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