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ジャングル・サバイブ

 あれから二日後の朝、温泉と最上の料理たちを堪能したレイトとレミィは未だアイリスアイスに未練たらたらのリシュアを引っ張って、皇都フラムローザを目指して出発した。


「それにしても、良かったですね、温泉。それに料理も。私、あんなに美味しいもの食べたの初めてです!」


 街道を歩きながらレミィが弾んだ声で言う。


「……あぁ、俺も同じだな。あれは一度食べたら忘れられない味だよ」


 そう返事をしながらレイトは昨晩三人で食べた一人五万ラルドの超高級フルコースの味を思い浮かべた。


 高級食材であるガーネット・シュリンプを使った上品で爽やかな前菜の「エビと冬野菜のゼリー寄せ」から始まったアイリスアイス近海で獲れた魚介をふんだんに盛り込んだ料理たちは、どれも言葉よりも先に、自然に笑みがこぼれてしまう程の美味しさで、しばらくの間は長旅用の干し肉なんぞマズ過ぎて食べられなくなるのではと心配したほどだった。


 が、それ以上に鮮明に記憶に残っているのはテーブルの丁度正面に座っていたレミィの顔だった。


 料理を口に入れるたびに太陽のように明るい笑みで笑う彼女の顔、その笑顔に嘘偽りはないのだろうが、それでもレイトはその笑顔の合間合間にほんの一瞬だけ落ちる影を忘れることはできないでいる。


 それはおそらくリシュアも同じで、その証拠に彼女は昨日から一言もミストレアを消したブラックロータスのメンバーについて尋ねようとはしない。


 だが、相手がガルアス側に加担している以上、いずれ戦闘になることは避けられないのだ。


(いつか来るその日までにどうにかしてやらないとな……)


(どうにかレミィの心の傷を治してあげる方法を考えないとね……)


 互いに口にはしないがそんなことを考えながら、一行はひたすらに皇都を目指して足を進めていくのだった。


*   *   *


 「……」

  

 アイリスアイス出発から三日。三人は密林地帯に差し掛かっていた。


「……どうして冬なのにこうも蒸し暑いのよ! 冬なら冬らしく、もっとカラッとしてなさいよ!!! だいたいどうしてこんなに青々と草木が生い茂ってるのよ・・・・・・」


 大陸一有名な広大な密林地帯「グリーズベル密林領域」に踏み込んでから一時間もたたないうちに、先頭を行くレイトの後ろでリシュアが溜まりに溜まった苛立ちを声に変えて吐き出した。


「……そんなこと俺が知るわけないだろ……」


「うぅ……私、もうこれ以上脱げるもの無いですよ」


 うんざりした表情で言い返すレイトの横で、マントと上着を小脇に抱え、袖を肩ギリギリまで捲り上げたレミィが蚊の鳴くような声で言う。


 季節は二月。まだまだ冬真っ盛りというシーズンにおいて、このグリーズベルだけは違った様相を呈している。


 この領域に充満する高密度の火属性と水属性の特殊なマナのおかげで大気は常に湿度、温度共に高く、季節を問わず真夏さながらの蒸し暑い空間を保っているのだ。三人のようにな冬用の装備の冒険者が踏み込もうものなら、待っているのは生き地獄である。


 別に面積が大陸一位などではないが有名なのはそのためだ。踏み込んだっきり戻らない冒険者や学者の数は優に百を超え、いつしか「人食い密林」とまで呼ばれている。


 「こんなことになるなら、せめてこの密林を抜けるところまでリョウジにテレポートで運んでもらえばよかったわ……」


「よく言うよ。フラムローザまでテレポートを提案してくれたアイツに「遠い道のりを歩くのも、鍛錬の内だから私たちは歩くわ」って断った挙句、街道を行くよりもこの森を突っ切ったほうが早いって言ってたのは誰だったっけな?」


「うん。ごめんなさい。……今からでも彼を呼び出そうかしら」


「やめとけ……少しくらいあいつを休ませてやってくれ。それにほら、あと十キロほどであの懐かしい雪景色と再会できと思うし」


 手帳に汗で染みを作りながらレイトは告げる。手帳が表示する地図は十キロほど先で密林を示す濃い緑色が消え、ぽつぽつと木が散在する平原が広がることを示している。


「……十キロって、普通に進んでも数時間はかかるじゃない……」


 そんなリシュアの文句を半分聞き流しながら、レイトはひたすらに目の前の枝葉を払いのけ、道なき道を突き進んでいく。


「あ、そういえばレイトさん気を付けてくださいね。この密林、結構危険な化け物がいるって話ですから」


「そんな大事なことはせめて入り口で言って欲しかったんだけど……。なぁリシュア、やっぱり、あいつに頼んでテレポートを……」


 ぶにゅん


 ふいに足元でそんな間の抜けたような音がした。おまけに足裏の感覚も今までの土や木の根とは違う、妙に弾力がある新感覚のものだ。


「え?」


 ふと足元を見ると、丁度足の下から妙に鮮やかな黄緑色の尻尾の様なものがドクドクと小刻みに脈を打ちながら目の前の茂みの奥へと伸びていた。


 その直後だった。茂みがざわざわと小刻みに震え、それまで周りと変わらぬ色や形状をしていた枝や蔦、葉が一斉に尻尾と同じ鮮やかな黄緑色へと変わり始め、心なしか三人の方へ伸びてきているようにも見える。


「れ、レイトさん。逃げましょう。こいつがさっき私が言ってた危険な化け物の筆頭。移動型食肉植物、通称「人食いカズラ」です!!!」


 その鬼気迫る叫び声にレイトとリシュアが本能的に全力で回れ右して走り出すのと同時に、人食いカズラが枝や蔦に擬態させていた触手達が一斉に空中を走り、三人へと襲い掛かった。












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