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大逃亡は机から

 「……なるほどね。ミストレアは間に合わなかったか……」


 バルバロッサから一通り話を聞いたリシュアはテーブルの上で組んだ手の上に顎を乗せ、目を閉じた。。


「申し訳ないリシュア様。我らの探知能力がもう少し高ければ……」


「私に謝ることは何もないわ。奇襲をかけて来たのがブラックロータスなら、自分の魔力を使わない奴らのオリジンアーツの前にはどんな強力な魔力探知も無意味だから。でも、ガルアスがブラックロータスを雇ったのだとしたら、ガラルとアインズはもう……」


「……その可能性は大いにありますな。ヴァルネロのいるジルバとて、再び攻撃されないという保証は……」

 

「そうね……件のミストレアを消した奴の情報はレミィから聞くとして、まずはガラルとアインズ、そしてジルバの人々の安否確認と避難が最優先か……」


「ですな。しかし仮に三つの街が無事であったとして、それほどの人数を匿える避難先は……」


「あるわ。私が知る限り一か所だけ。海を越えた先にね」


「……あぁ! 東方か!」


「そ。東方で最大の島「桜花」。あそこを統治している魔族、いや妖の首領と私の父は親交があったから。事情を話せば何とかしてくれるかも……」


 ミラネア皇国のある大陸を離れ、船で数週間ひたすら東へ進んだ先にある東方の群島領域。他の大陸諸国との国交は殆どといっていいほど無く、ガルアスの目から逃れて暮らすには格好の場所だろう。たった一つの難題を除けば。


「なるほど、確かにいい案ではある。あそこは穏やかに過ごす分には種族問わず海外からの流入者にも寛容なはず。……しかし、問題は、どうやってガルアスに悟られぬように三つの街の住人を避難させるか、ですか。大人数でぞろぞろと沿岸まで行進するわけにも行きますまい……」


 バルバロッサが例のたった一つの難題を指摘する。


 要するに、東方にたどり着くまでが大問題なのだ。


 ジルバをはじめ、残りのガラルとアインズの街はどれも大陸の内部にある。海路は船で行くとして、そもそも港のある沿岸部まで街の住人を連れて行くという時点で、日数的にも、彼らにかかる負担的にも実行は不可能と言ってもいい。おまけに沿岸部へ向かう途中でブラックロータスなり魔王軍なりに襲われでもすればそれこそ元も子もない。


「もちろん、そのことについては考えがあるわ。今回の避難は時間をかければかける程襲撃のリスクが増すんだから、一瞬で東方の島のどこかまでテレポートさせればいいのよ。一人、適任がいるもの。ね? リョウジ」


 ポンっと隣に座るリョウジの肩を叩きながらリシュアが言う。


「……僕? いや、マジで? 僕が全員テレポートさせるの? いくら何でも重労働過ぎない? 給料とかもらえるの? もらえない? あ、そう……」


 あからさまに面倒くさそうな顔のリョウジ。が、無言でニッコリと笑みを浮かべるリシュアの謎の圧力が彼に頭を縦に振る以外の動きを許さない。


「どうせ女神様からもらったチート能力とやらで広範囲の転移くらい使えるんでしょ? というか、そもそもリョウジが無理って言うならこの計画、全て水の泡なんだけど?」


 無言で一分ほど見つめ合い、バチバチと目線で斬り合いを繰り広げる二人。


「……わかった。わかったよ。やるよ。その代わりこの仕事が終わったらしばらくはゆっくりしてもいいよね……?」


 戦いの末、先に折れたのはリョウジだ。


「えぇ、もちろん。それじゃあ早速だけどバルバロッサ。リョウジを連れて各街の安否確認と桜花のカムイへの挨拶をお願いしてもいいかしら。桜花には特殊な転移阻害の結界が張られているはずだから、そこは転移と空の旅を使い分けてちょうだいね。街のみんなを転移させるにしても、まずはカムイに話を通して限定的に結界を開けてもらわないといけないから」


「御意。それでは我らは先の雪原でルシアを回収してから早速動くとしよう。して、リシュア様はこれからどのように動くおつもりで?」


「そうね。とりあえずレミィが落ち着いてから、この皇国の皇都フラムローザに向かおうと思ってるわ。まだ本格的にガルアスが動き出す前にこの国の情勢も見ておきたいし、どうにかして第三皇女様には一度会っておきたいから」


「なるほど。ではそちらの方は任せましょう。お気をつけて。また何かあればリョウジ殿から連絡が行くでしょう。それでは、我らはこれにて。レイト殿、リシュア様をよろしく頼む」


 深々と別れの礼をしてから、バルバロッサはリョウジを連れてギルドの入口へ向かう。


「リシュア、レイト。今度は仕事無しで会えることを祈っとくよ。また連絡するから」


「おう」


「えぇ、頼りにしてるわ」


二人の返答にリョウジは苦笑いを浮かべ、ヒラヒラと手を振りバルバロッサに続いてギルドを出て行った。


「「……」」


しばし二人の間に漂う静寂の中を周囲のテーブルから流れる賑やかな声が軽やかに流れていく。


 そして、そんな静寂が五分を過ぎた頃、リシュアが唐突に言った。


 「……さて、と。それじゃあ私達も動きましょうか」


「ん? 動くって、何処へ? 皇都へはレミィが落ち着いてからの出発じゃないのか?」


「ん? 何言ってるの? そっちより先にやるべきことがあるじゃないの。一体なんのためにアイリスアイスに来たのよ。今日明日は温泉でゆっくりするに決まってんじゃない。ねっ?」


 一体どこで稼いできたのか、服の内から二百万ラルドはあろうかという札束をチラつかせながら、リシュアはニッと笑った。

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