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ロータス・エクスプロード

 「⁈ いったい何を……? 俺は四帝に跪かれるほど強くもなければ立派な人間でもないぞ」


「いやいや、何を言うか、レイト殿。我が主たるリシュア様と共にガルアスを倒さんとするその決意。それだけでも我にとっては敬意に値する。せめてこれくらいはせねば、私の気持ちが収まらんのだ」


「……俺達はあなたの同胞を、あの黒龍達を何十体も殺したんだ。むしろここで跪くべきは俺たちの方だっていうのに。あんたはそれでいいのか?」


「あぁ、あの黒龍達は我が里の家族も同然。空からあやつらの亡骸を見たときは我もルシアも胸を裂かれるような思いをした。だがな、そこで今冷静さを欠いてここにいる冒険者を殺したところで何になる。……レイト殿とレミィ殿を含め、冒険者達は皆アイリスアイスを守るために戦ったのであろう。なれば我にはそれを責めることなどできまいよ。確かに怒りはある。心のうちで未だ哮り、燃え上がる怒りが。……だが、それを向ける先はここにいる冒険者達でも、ましてや人間でもない……」


 ポタリ、と、跪いて下を向いたまま語るバルバロッサの目から一粒の雫が落ちて雪を穿つ。


「……憎むべきは裏切りの将ガルアスだ。奴さえいなければ里と民を消し飛ばされることも、黒龍達がこのような故郷から遥か遠くの土地で命を落とすこともなかった……!!!」


 悲しみと怒りに身体を震わせ、彼は感情のままに叫んだ。


「……⁈ ちょっと待ってくれ……消し飛ばされた? ジルバみたいに魔王軍に占領されたとかじゃなく、消し飛ばされただって⁈」


「……そうだ。奇襲に関してはリシュア様からの伝言をリョウジ殿から聞いて知っておった。ゆえにあの日も地上には里の各所に騎士部隊を配置し、我はルシアとリョウジ殿を乗せて十数騎の龍騎兵と共に里の上空から周囲の警戒をしていたのだ」


 重々しげに立ち上がりながらバルバロッサは語る。


「ほんの微弱でも魔王軍の転移や魔法の発動による魔力の反応があれば感知の力で即座に位置と規模を把握し、先制で攻撃を仕掛ける。そのような布陣を敷いていた……」


 だが。とバルバロッサは両の拳を握りしめて言う。


「あの日、結局我らはおろか、里で最も感知能力が飛びぬけているルシアでさえ、里が巨大なクレーターと化すその瞬間まで魔力の反応の片鱗さえ感知できなかった。唯一感知できたのはそれからすぐ、黒いフードを被った人影が二人、転移魔法を使用した痕跡だけだった。にわかには信じがたいのだが、敵は一切の魔力を使わずに里を丸ごと消し飛ばすほどの爆破魔法か何かを放ったと、我にはそうとしか考えられぬ……」


 「魔力を使わずに撃つ魔法」


 その言葉にレイトには一つだけ心当たりがあった。


 脳裏にぼんやりと浮かぶのは、ほんの数日前までレミィの頬に刻まれ、彼女の心をある種の呪いのように縛っていたあの黒蓮華の紋様。


 そしてそれは直ぐにレイトの中で確信に変わった。


「……っ」


 服の裾を引っ張られる感覚。レミィの手。カタカタと震える彼女の手が、まるで救いを求めるかのようにレイトの服を掴んで離さないでいる。


(クソッ……なんて運命だ……)


 隣で震えるレミィの様子にレイトはグッと唇を噛みしめる。


 バルバロッサの話からしてガルアス側があのブラックロータスを傭兵として雇っているのは間違いない。そしてそれは遅かれ早かれレイト達が奴らと対峙することを、なにより一族から追われ、逃げてきたレミィが再び彼らと向き合わねばならないことを、その運命の残酷さを示している。


「……うぅ……なさい……ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」


 レミィの呼吸が急速に早く、浅くなっていくのが目に見えて分かった。体はガタガタと震え、服を通じて肌に触れる彼女の手がその熱を失っていく。


「おい、落ち着けレミィ!」


「⁈ どうされたレミィ殿!」


「あぁ……! うぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 その場で頭を抱えてうずくまるレミィには皆の声さえ聞こえていない。自分を殺そうとまでした一族と対峙しなければならないという恐怖に支配され、レミィはただ呪詛のように誰に向けるでもない謝罪の言葉を溢し続けている。


「……レイト、一体レミィちゃんに何があったんだ? ……いや、まずは理由より先に彼女を落ち着かせるのが先か。ルシアちゃん。頼める?」


「……御意」


 リョウジの言葉にルシアは無言でうなずいてレミィの前にしゃがみ込み、そっと両の掌を彼女の額にかざした。


 ポゥとほんのり金色を帯びた優しく温かい光がレミィを包み込んでいく。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ……ん……なさ……」


 スゥとレミィの身体から力が抜け、そのまま彼女はルシアの腕の中へ倒れこんだ。


「……安心して。ただ眠らせただけだから。それと少し、頭の中を覗かせてもらった。それだけよ」


 死んだように眠るレミィの身体を抱え上げて立ちながらルシアは言う。


「……ありがとう、ルシア」


「礼ならいい。それよりも、聞かせてほしい。この子と私達の里を消した敵について。なにか関係しているんでしょう?」


「……あぁ、多分そうだと思う。……一度街に戻らないか? リシュアも揃ってから、レミィのことと今後のことを話し合った方がよさそうだ」


 レイトの提案に、三人は静かに頷いた。


 



 







 



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