表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/171

ドラゴン・フィールド(中編)

 飛龍種迎撃の主戦場に設定されたアイリスアイスから数キロ程西の雪原は、二人が到着した頃には既に大勢の冒険者達が縄張りの如く陣を張り、各々が得物を手に一体でも多くのドラゴンを討伐せんと、来るべき戦闘の時に備えて最後の準備に勤しんでいた。


 より強力な魔法を撃つべく魔力強化のポーションを飲む者もいれば、矢に毒か何かを塗り付けている者や、レイトが見たこともない鋼鉄の大筒を地面に設置している者までいる。


 「さて、と。どこに布陣しようか。ドラゴンの群れの真正面あたりはもうほとんど押さえられちまってるけどな……」


「……そうですね……じゃあ敢えて私たちは向こう側で準備をしませんか?」


 周囲を見渡すレイトにレミィはそう伝え、他の冒険者が全くいない岩場を指差した。


「確かにあそこならレミィの超強力な魔法で他の冒険者が巻き添えをくらうこともないだろうし、何よりドラゴンが襲ってきたときに岩がいい具合に壁になってくれそうだ。よし、そうしよう」

 

 顔を見合わせ頷き合って、二人は岩場へと歩き出す。途中、後方から二人の行動を「ドラゴンが怖くなって逃げ出した」とでも思っているのであろう一部の冒険者達の罵声と嘲笑が聞こえてきたが、もちろん二人は気にしない。


 むしろ二人のことをクエストから逃げ出した軟弱な冒険者だと思ってくれている方が二人にとってはドラゴンを狩りやすい。


 のんびりと歩いて、ようやく二人が岩場の陰に腰を下ろしたその直後


「来た! 想像以上に大群だぞ!!!!」


 冒険者の誰かの大声が二人のいる岩場まで鮮明に響いた。


「始まりましたよレイトさん! 見てください、あれはもう大群ってレベルじゃないです!」


 真っ先に岩の陰から飛び出し、両掌に淡い光を灯して攻撃の準備を完了したレミィに呼ばれ、レイトも岩陰から慌てて飛び出し、目の前に迫る異様な光景をその眼で目撃した。

 

「おいおいおいおい……いくら何でもあの数は反則だろ⁈」


 二人の視線の先、西の空から急速に近づいてくる黒雲の様な塊。一見すると一つの巨大な物体に見えるそれこそが、今回の迎撃対象である黒龍の類を見ない大群だった。


「さすがにこの数は私も予想してませんでした……。いくら龍種の中ではブレスも吐けない最弱クラスの龍とはいえ、この大群で突っ込まれれば間違いなくアイリスアイスの街はあっと言う間に瓦礫の下です。ここは全力でドラゴンスレイヤーになりましょう」


「だな。しかし、この状況で言うのもなんだが、俺はいったい何をすりゃいいんだ? 得物はこの剣一本だけだし、まだ魔法の類は一切使えねぇんだけど……」


「そう……ですね。それじゃあレイトさんには私の護衛をお願いしたいです。群れを外れて別方向から突進でもされたら流石に対処できないと思うので」


「……おーけー。ここの守りは任された。レミィは存分にドラゴン共を撃ち落としてくれ」


「もちろんですとも。このパーティーに入れてもらってから初めての私の見せ場、見ててください!」


 気合の入った返事と同時にレミィは光を灯した両手をバンっと打ち合わせた。


 直後、彼女の前方の空間にいくつもの魔法陣が一斉に花を咲かせ始める。その数ざっと百。


「レイトさん。とりあえず目、閉じておいてください。あと、できれば耳もふさいでおくことをお勧めします」


 横に立つレイトへよレミィの警告。その直後、空中に咲いた無数の魔法陣が、煌々と光を放ち始めるのが見えた。そしてそれは直ぐに直視できないほどに眩しい輝きへと変わり、周囲にキィィィィィンと言われずとも耳を塞ぎたくなるような金切り音を撒き散らす。


「な、何が何やらわからないけど…………とりあえず目と耳は塞いだぞ、レミィ!」


 周囲に響く異音に負けじと声を張り上げるレイトにレミィは前を向いたままコクリと頷いた。


「おーけーです。それじゃあ行きますよ! 魔力充填完了! 多重魔導砲、発射(てぇーっ)!」


 号令と同時に魔法陣の輝きは頂点に達し、耳を塞いでいてもなお頭の中を掻き回すような轟音と共に無数の光線を、竜の群れ目掛けて照射する。


 何の効果も、そもそも属性すら持たない、ただの魔力エネルギーの塊。それが今、無数の光の奔流となって迫る黒雲を勢いよく貫く。


 途端、黒雲は無数の竜を溢しながら揺らぎ、直ぐにばらけて本来の竜の群れへと姿を変えた。先のレミィの攻撃に激高したのか、竜たちは速度を上げ、雪原の端々まで咆哮の合唱を轟かせて布陣する冒険者目がけて一斉に飛来する。


「「「「「ウォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」」」」」


 咆哮に負けじと、各々の得物を掲げた冒険者達が声を轟かせ、一斉に攻撃を開始し始めるのが見えた。


「では、レイトさん。近接戦闘は任せました。ここからが本番です!」


 今の攻撃で相当の魔力を消費したはずだというのに、レミィは汗一つかかず、表情一つ変えず、既に次弾の発動へ移りながら言う。


「応、任せろ!」

 

 レイトは叫ぶ。


 早速一体、レミィの魔法攻撃の範囲外、二人の丁度横方向から低空で勢いよく突っ込んでくるドラゴンに目標を定め、勢いよく剣を抜き放った。

 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ