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ドラゴン・フィールド(前編)

 「……結局、リシュアさん帰ってきませんでしたね……」


「そうだな…………。いったいどこで働いてんだか」


 朝、二人はギルドの簡易レストランの机で軽い朝食をとりながら、帰ってこないリシュアの事を話す。


 朝食は昨日の稼ぎから三百ラルドほど消費した結果、無償提供の黒パンとスープに小さなシーフードサラダが加わって、多少は華やかさが増えた。


「さすがに少し捜索したほうがいいのではないでしょうか……。あ、このサラダ美味しい」


「あぁ、そうしよう。どうせ今日貼られる依頼も、この街中走り回って達成しなきゃいけないやつばかりだろうし、それらしい店の中とか覗きながら行くか」


ふぇふね(ですね)


 レイトの提案に、残りのパンとサラダを一気に口に頬張ったレミィがコクコクと頷く。


「オーケー。それじゃあとりあえず今日もコツコツ稼ぐとするか」


 と、パンっと膝を叩いてレイトが立ち上がった時だった。


 カンカンカンカン!


 ふいに、そんな激しい鐘の音がギルド内に響き渡った。


「たった今、緊急のクエストが発行されました! 参加可能な冒険者の皆さまはただちに受注をお願いします!」


 そして直後に響く受付嬢の声。その声色からして、相当急を要する依頼のようだった。


「これはもしかして。チャンスなんじゃあないか?」


「……えぇ。えぇそうです! やりましたよレイトさん。これは絶好の稼ぎ時です!」


*   *   *


 「緊急クエストを受注された冒険者の皆様は、こちらで手続きと支給品の受け取りをしてから出発してください! くれぐれも無茶をなさらないようお願いします!」


 即席で作られた緊急クエスト受付窓口では、山のように積み上げられた支給品の最高級回復ポーションの瓶の横で、受付嬢が時折大声を張り上げながら、冒険者達の手帳に受注証明の判を押しては支給品を手渡し、押しては渡しを流れるような手つきで繰り返している。


「それにしてもレイトさん。いきなりSSS級の依頼に遭遇できるなんて、ラッキーですね。頑張りしだいではこれだけで目標金額達成ですよ」


 受付の列を進みながら、レミィが微笑ましい笑顔で言う。


 今回発行された緊急クエストは、簡単に言えば百体を超える飛龍種(ドラゴン)の大群の迎撃だった。アイリスアイスのギルドでも初めての内容らしいのだが、どうやら遥か西の方向からアイリスアイスの方へ向かって飛翔するドラゴンの大軍が観測されたらしい。


 そもそもドラゴンがこれほどの大群で飛ぶことはほとんど確認されておらず、当然街が襲われた際の被害も未知数。ということで、このクエストには最上位であるSSS級のランクと、一体の討伐につき五万ラルドの報酬という超高額の報酬金が設定されていた。


「目標はとりあえず五十万ラルドは稼ぎたいところだが……なにしろこの人数、あっという間に狩尽くされそうだぞ……」


 確かに一頭当たりの報酬は高いのだが、この緊急クエストを聞きつけて集まった冒険者は既にギルドの外まで列を作っているところを見るに、ゆうに百人は超えているだろう。仮に冒険者一人が一体ずつ狩ったとして、果たしてそれだけの数のドラゴンが飛来するのかどうかも怪しい。


「ふふ、大丈夫ですよレイトさん。こういうのは早い者勝ちなんですから。私に任せてください。その気になれば百や二百のドラゴン、簡単に墜として見せますよ!」


 レミィの宣言に、周囲からドッと笑いが起きた。おそらく笑った冒険者には自分よりも年若く、貧相な身なりの少女が一人で百体ものドラゴンを狩るなど、想像さえできないのだろう。


「ククッ。嬢ちゃん。せいぜい攻撃に夢中になって他の竜共に喰われねぇように気を付けるこったな」


 丁度手続きを終えたばかりの巨漢の冒険者がそんなことを大声で言いながら嘲笑の眼差しを浮かべて、ポンと軽くレミィの肩を叩いて通り過ぎていく。

 

 そして、巨漢の言葉で火が付いたらしい。周囲の冒険者達も口々にレミィに対して嘲笑の言葉を浴びせ始めた。


 が、四方八方から飛び交う嘲笑にレミィは全く動ぜず、ただ下を向いたままレイトにだけ聞こえるように呟いた。


「……レイトさん。気にしないでください。こんな嘲笑、家族達から受けた言葉に比べれば、全く痛くありませんから。……それに、これだけ私のことをひ弱な魔法使いと思っている冒険者達がいるなら、やっぱり今回のクエストは大儲けできそうです」

 

「あぁ、確かに、これなら案外大量討伐も夢じゃなさそうだ」


 彼女の言葉の真意を汲み取り、レイトはそんな独り言と共に小さく口元に笑みを浮かべた。








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