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傭兵少女と共通点

 「お、おい。大丈夫か!?」


 突然目の前で気を失って倒れた少女は、レイトの声にも反応せず、顔を半分程雪に埋めたまま動かない。


「食べ物を欲しがっていたし、空腹に耐えかねて気を失ったってところでしょうね。とはいえ、まぁ一応他に異常がないか見てみるから、レイト、その娘を焚火の傍まで運んでくれるかしら」


「あぁ、わかった」


 リシュアに言われてレイトは少女の身体を仰向けにして担ぎ上げた。手足は木の枝のように痩せ細り、彼女の身体は冗談かと思うほど軽い。


「さてと、それじゃあちょっと診させてもらいましょうか」


 そう言うなり、リシュアは横たわった少女の胸の上に手を翳すと、感知魔法で少女の身体を調べ始めた。


「うん、体温が下がってるってところ以外には特にケガや病気はなさそうね。やっぱりただの飢え…………」


 妙なタイミングでリシュアの声色が変った。表情も、つい今までの気楽な表情から、やけに神妙なものに変わっている。


「ん? 何か見つけたのか?」


「レイト、今すぐ剣を抜いて構えておいて」


 レイトの質問に答えるかわりにリシュアはこわばった表情でそんな物騒なことを言った。


 そのまま少女の顔を隠すフードに手をかけてめくり上げる。


「…………やっぱりね……」


 フードの下から現れた少女の顔、その右の頬には真っ黒な睡蓮のタトゥーが刻まれていた。


「レイト、先に言っておくけど、見たくなかったら目をつぶってなさい。私は今からこの少女を殺さないといけないかもしれない」


「は⁈ リシュア、お前いったい何を言ってんだよ……!」


 唐突にリシュアの口から飛び出した物騒極まりない言葉にレイトは思わず聞き返した。が、それが聞き間違いでないということは、ギラリと月明かりに光る爪を振りかざし、今にも少女の喉元を切り裂きそうなリシュアの姿が物語っている。


「…………その手を下げろって。自分が何しようとしてるかわかってんのか? 相手は気を失ってるし、それにまだ子供だぞ……」


「えぇ、少なくとも私たちが殺されるよりはいいでしょ?」


 少女の頬のタトゥーを指さしてリシュアは言う。


「この刺青は魔法傭兵集団ブラックロータスのものよ。あなたにはなじみがないかもしれないけど、こいつらは相当やばい集団なのよ。報酬さえ積めば誰の依頼も受ける。略奪、殺人は当たり前。戦争では勝利をもたらす最強の兵士として重宝されるし、どんな卑劣な手を使ってでも依頼を遂行するプロなの。例えばケガ人を装って、助けに来た相手をだまし討ちで殺す。なんてこともね」


 ガルアスが私達の排除を依頼していたとしてもおかしくないわ。と、リシュアは少女を鋭い眼光で睨みつけたまま続ける。


「いや、でも……、本当にお腹が空いているだけかもしれないじゃないか、もう少し様子を見ても……」


「こいつらに関してはそういう慈悲の心は抱けば抱くほど死に一歩近づいてるのと同じなのよ。パッと見てあどけない少女のように見えても、その薄皮を一枚剥いだ下は、殺しを何とも思わないような猛獣。だから悪いけどあなたが何と言おうと、私はこいつを倒す。こんなところでむざむざと殺されるつもりはないから」


 そうして一度は止めた腕を再び大きく振りかざし、制止しようとするレイトを振り払い、ついにその爪が少女の首を切り裂こうかという瞬間。


「……まって……下さい……」


 閉じていた少女が目をうっすら開き、そう懇願するように言った。


 ギャイン!


 刃と刃がぶつかるような音を鳴らして、リシュアの腕が見えない何かで弾かれる。


「ちっ……詠唱もなしでここまで強固な障壁魔法を使うなんて……やっぱりこいつはここで仕留めておかないと……って、何するのよレイト! はなして! はーなーせー!!」


 少女から距離をとったリシュアが第二撃を繰り出そうとしたところでレイトは彼女を背後からがっちりと羽交い絞めにして抑え込んだ。


「痛っ⁈ 暴れんなって、羽が当たって痛ぇ!」


「うるさい! あなたがその腕を離せばいいでしょう!? ほら、あいつ、起き上がり始めたじゃない! きっと私たちを殺すつもり……あれ?」


 リシュアの前でゆっくりと上半身を起こした少女はそのまま立ち上がることもなく、かといって何か魔法の予備動作をすることもなく、ただちょこんと座って二人の顔を交互に見て、小さく安堵の溜息をついた。


「後ろの殿方、止めていただいて助かりました。……私、別に何か依頼を受けてここに来たわけでもないですし、そもそもお二人がどこの誰だかも知りませんから……」


「依頼じゃないとしたら、ブラックロータスの人間がこんな山中に一人でいるのかしら。奴らの本拠地はここよりもはるかに南、ミラネア皇国とアストリア帝国の国境近くと聞いたけど?」

 

 腕を下ろしながらも、警戒を解かないままリシュアは少女を問い詰める。少女はと言えば、座ったままの姿勢から動こうとはせず、なにやら言い出しにくそうな顔で俯いて口をもごもごさせている。


「なによ、そんなに言いにくいことなの? もし万が一あなたの言い分が嘘じゃ無いとして……その理由をはっきり聞かない限り、私はどんな手段を使ってもここで排除しないといけないわよ? まさか組織から追放された、なんてわけじゃあるまいし」


「……⁈」


 何気なく、本当に何気なくつぶやいたリシュアの言葉に、少女はえっ、という表情で顔を上げた。

 

「……うそでしょ? 本当に?」


 なにかどこかで聞いたことのある経歴に、今度はリシュアがえっ、という顔をする番だった。




どうも、久々の投稿になってしまいましたが、いかがだったでしょうか。

しょうせつの話は頭の中でいろいろ妄想していましたが、なかなか文字を打つ時間が無くて、今に至りましたが、忘却の彼方に捨て去ることなく見に来てくださった読者の方々、本当にありがとうございます。

次回はもう少し短いブランクで更新しようと思いますのでよろしくお願いします<(_ _)>

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