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夢と螺旋と要注意

 「しかし……なんで王の間に行く階段はこんなに狭いんだよ……デカい奴なら確実に挟まるレベルだぞこれ」


 ヴァルネロ達がいるであろう、王の間に向かう三人は、人が一人通れるかどうかという狭さの螺旋階段をひたすら上へと昇っていた。窓一つなく、明かりはランタンの頼りない光だけが頼りという階段は、まるでまだ地下深くにいるような息苦しさを与えてくる。


 おまけに一段一段が恐ろしく低いせいで、昇れど昇れど上へ行っている気がしない。


「それだけ襲撃に備えていたんじゃないの? ここにもともと住んでいた領主様は。これだけ細いと大軍で攻めたところで最上階へは一人ずつしか入れないだろうし。多分よく探せば王の間への隠し通路の一つや二つ出てくるんじゃない?」


「あー、そういうことか……」


「ま、実際私たちは攻める側なんだし……今回はこの馬鹿狭い階段を進むしかないでしょうね……」


 ぜぇぜぇ息を上げながら、城の設計者を恨むような顔でリシュアがぼやく。狭さに加えて天井が低すぎるせいで、彼女の得意な浮遊移動をしようものなら頭を天井に連打するのは間違いない。


「……まさかここまで狭いとは……。リシュア殿の言う通り、抜け道を探した方がよかったかもしれんな……」


 三人の中で一番死線をくぐり、落ち着いているグランでさえも、幾度となく得物の愛槍を壁やら天井に擦りつけては刃こぼれや傷がついていないかを一々慎重に確認する始末である。


「それはそうとレイト、さっき使ってた強化魔法だけど、あれはもう使わないことを強く勧めるわ。あの強化魔法は本来……」


「あぁ、知ってる。本来はもっと長時間かけて魔力をエネルギーに変換するものなんだろ?」


「……そうだけど、どうしてあなたがそれを知ってるのよ。というか知ってるなら最初からそう言う使い方しなさいよ。あんな奇跡みたいな治療を二回連続でやり遂げる自信ないわよ?」


「いや、俺もついさっき、意識を失ってる間に知った。夢というか精神世界というか、なんか真っ白い空間で陽気な真っ黒い影が教えてくれたんだよ」


「なにそれ。内なる自分との対話とか、そういう感じ? ……まぁなんにせよその陽気な影さんの言う通りよ。あの強化魔法の使い方は超ハイリスクだからやめときなさいな。それに、別の意味でも少し不安要素があるから」


「不安要素?」


「えぇ、まぁ半分くらいは私のせいでもあるみたいなんだけど……」


そこまで言ってからリシュアは一度小さな溜息をついてから、レイトの方へ振り向いて言いづらそうに口を開く。


「仮にあの魔法が身体に損傷をもたらさない物だったとしても、あのまま使い続けてたらレイト、あなたの肉体は限りなく魔族に近いものになるかもしれないわ」


「は?」


 いったいどういうことなのか、レイトにはリシュアの言っている言葉の意味がまるで理解できず、思わず変な声が出た。


「俺が魔族に? いやいや、強化魔法を使っただけで魔族化って、さすがに冗談だろ?」


「そりゃ普通の強化魔法ならいくら使ったところで魔族化なんてしないわよ。ただ、貴方の場合は少し事情が違うというかなんというか……」


 どう説明すればいいのか、リシュア自身もいまいち頭の中で整理ができていないらしく、少しずつ、切れ切れで考え付いた言葉を溢していく。


「ソルムを出発して一番最初の戦闘で、私が使った強化魔法あるでしょ? 本来ならあり得ない話なんだけど、どういうわけかその時渡した私の魔力がまだあなたの中に残っていたらしくてね。で、それだけならまだしも、どうも私から渡った魔力とあなたの本来の魔力とが混ざり合って、あなたの体内の魔力回路に影響を与えているみたいなのよ」


「はい……?」


 気の抜けた声と共に首を傾げるレイトの頭上にはいくつもクエスチョンマークが踊っている。。


「……要するに、今あなたの体内で魔力を生成する器官が変異を起こして、魔族と同じ形の魔力を生み出し始めてるってことなのよ。わかった?」


「いや、それは分かったんだけどさ、そもそも魔力の形ってのが変わっただけで人が魔族になるもんなのか?」


「YESかNOで答えるなら、YESね。詳しい内容については話せば長くなるんだけど……そろそろ最上階みたいだし、この話はまた今度ゆっくりするわ」


 リシュアの言葉通り、螺旋の向こうにうっすらと日の光が差し込んでいるのが見えた。


 階段を登り切った先にあったのは、反対側の螺旋階段へ続く、無駄に幅の広い渡り廊下とその丁度中間にはめ込まれた巨大な観音開きの鋼鉄の扉だった。


「……ちょっと待ってね……アナライズ」


 小走りで扉の前に駆け寄ったリシュアは扉に両手を翳し、地下でも使った感知魔法を静かに唱える。


「……うん、大丈夫。ヴァルネロとアリサって子はちゃんと生きてる。……グレンって奴の反応もあるけど。ただ、ほとんど動きがないってことを考えると、ちょっとまずいかも」


 扉から手を引っ込めながらリシュアが言う。動きが無くてまずい、というのはつまり、グレンの策略である人質によってヴァルネロの動きが封じられているということだ。


「報告感謝する、リシュア殿。此処からは私とレイト殿が行こう。準備はよろしいかレイト殿」


 再度の確認を入れながらグランは槍を片手に扉の片方に掌を当てる。


「あぁ、大丈夫だ、心の準備はできてるよ」


 レイトの返事にグランは満足げに頷くと、扉を押す腕に力を込めた。


 ギィィと嫌な音をたてながら、戦場へと続く巨大な扉がゆっくりと開いていく。。





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