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夢と世界とモノクローム

 (う…………⁈)


 気が付くとレイトは見知らぬ空間に立っていた。つい先程まで戦っていたはずの薄暗い地下とは真逆、どこまでも広がる、混じりっ気のない白一色の空間。床も壁も天井も全て白色に溶けこみ、境界線さえ分からない。 


 夢かと思って頬をつねってみると思いのほか痛かった。


「……どこだよ……ここ」


 キョロキョロと白一色の世界を見渡しながらしばらく歩いてみるものの、一向に景色は白から変わることはなく、方向感覚も距離感覚も狂い始めてくる。


 それでも何か見つかりはしないかと、ただひたすらに足を動かすこと二十分。


(……ッはぁ……止めだ止め! これじゃあいくら歩いたところでキリがない……)


 レイトは怒鳴るように叫びながらその場に座り込むと、そのまま後ろに倒れこむように大の字で寝転がった。


 寝転がったところで視界に映るものが変わるはずもなく、全く変化ない白にうんざりしながらレイトは眼を閉じた。ここでそよ風でも吹けば多少は心地よいのだろうが、あいにくここにあるのは白ただ一つのみ、音もなければ当然風もない。


(……やっぱり俺、死んだってことなのか……?)


 目を閉じながら、この場所で目覚めたときから密かに考えていたことを改めて口に出し、小さく身震いする。


 考えてみればジーラフを倒して体から力が抜けていく感覚を覚えたときから、何となく『死』というものが既に自分の命に手をかけているような気はしないでもなかった。


 そのぼんやりとした予感の上にこの謎の白い空間である。もはや死後の世界とかそういう類のものとしか思えない。


(……囚われていた人たちは無事解放されたたのか……。 まぁ、ヴァルネロの方は負けるはずがないだろうけど。……リシュアには悪いことしたな)


 そんなことを考えているうちに、瞼の裏にぼんやりと、今までの大して長くもない冒険の思い出的な何かが流れていく。


 「はてさて冒険者レイト=ローランドの冒険は魔王の城にたどり着く以前に魔王の部下のさらに部下との戦いで死んで終わってしまいました。fin.」


 映像がジーラフとの戦いの場面まで行ったところでご丁寧にそんなアナウンスまで頭の中に流れはじめ、慌ててレイトは目を開ける。相変わらずの白が広がる。


「それにしても、ここが死後の世界として、俺はどうすりゃいいんだ……」


 口にしたつぶやきが虚空へと吸い込まれて消える。このまま永遠にこの無機質な空間に閉じ込められたままなのだろうかと、そんな若干の恐怖とも寂しさともとれる感情に混じって、妙な怒りが少しずつ湧き上がってきた。

 

(もっと俺が強ければ……)


 死ぬことなどなかったのに。と、心の中ではっきりと呟いた途端、弱い自分への怒りや情けなさがしょっぱい雫となって、閉じた瞼の隙間から零れた。


(ったく……今更悔やんだって既に手遅れだってのに……)


「アノー」


(なんだって今更こんなに泣けてくるんだよ……)


「オーイ」


(今更どう足掻いたところで俺はもう死んでんだぞ……リシュアが蘇生魔法でも覚えてるんなら別……)


「モシモーシ?」


「なんなんださっきから! こっちは今落ち着くのに必死なんだ! 少し静かにしててく……れ?」


 一人虚しさに浸るレイトに向かって降ってくるやたらと明るい謎の声にいい加減腹が立って、レイトは怒鳴って目を開け固まった。


 いったいどこから湧いてきたのか、無限に広がる全面真っ白い世界に真っ向から喧嘩を売るような姿の一人の異物。のっぺりとした真っ黒い人影のような何かがレイトのすぐ横に立って、顔をのぞき込んでいた。


「うわああああッ⁈ いったい誰だあんた!?」


「オワァァァァァァッ!? いきなり叫ばないでくれ! びっくりするじゃないか⁈」


 ひっくり返った亀の如く手足をバタつかせて影から逃げようとするレイトを他所に、影の方はと言えば、突然のレイトの大声に驚いて、すさまじい勢いで後ろに跳ね、そのまま着地できずに仰向けに床へと倒れこんだ。


「……あんた……大丈夫か」


 恐る恐る体を起こしたレイトは、未だ倒れたまま動かない影へと慎重に近づき、そう声をかけた。


「大丈夫大丈夫、少し腰が抜けただけだから」


 妙に陽気な声色で、影は倒れたまま右手を上げてヒラヒラと振る。


「お、おぅ。ならいいけど。それより、そもそもあんたは誰なんだ、それとついでにこの場所が何なのか知ってんなら教えてくれよ……」


「うーん、まず私が誰なのか、だが、ある方面との約束で、今君に教えるわけにはいかない。だがまぁ、一つ言えることとしては、君はまだ死んじゃいない。つまりこの場所は死後の世界ではないということさ。そもそも死後の世界はもっと華やかで現世の数倍楽しいところなんだよ? って、どこぞの女神が言ってた」


「はぁ……、よくわからないけど、死後の世界でないならここはいったい……。やっぱり夢だとでも?」


「ハハ、その答えは半分は正解としようか。レイト=ローランド君。ここは君の内なる世界。言わば精神世界ってやつさ」


 影は勢いよく起き上がると、そんなことを言って笑った。

 




 



 


どうも、お出汁です。最近投稿が不定期になりつつあるぞ・・・と思いながらもなんやかんやでまとまって書く時間が取れなかったりしてます。<(_ _)>


今回の話、いかがだったでしょうか。今回も結構いろいろと伏線を張った感じになりましたが、勘のいい方は伏線の先の予想がついたりつかなかったりしているのではないでしょうか。


さて、とりあえず次回は一週間以内の更新と、このジルバ編を決着させることを目標として、ちびちび書いていきますのでよろしくお願いします<(_ _)>

感想とかも待ってます

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