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傷と力と希望の紋様

どうも。十七話から更新が一週間以上も遅れてしまい、すいません<(_ _)>。色々と忙しくてなかなかまとまって書ける時間がありませんでした。これからも結構間が空いたりすると思いますが、その間、しっかり妄想の中で話の筋は考えているので、そこは安心してください(何をだ)。


さて、今回若干チートっぽい能力が出てくると思いますが、後々の伏線になる予定なので、どういう話につながるのか、楽しみにしながら読んでいただけると幸いです。(単純な人間なので感想とかもらえるととても喜びますW

 ギィンッ! ギャインッ!


 激しい剣戟の音と共に、火花が薄暗い地下空間に絶え間なく咲き続けている。


(クソッ……予想はしてたが、こいつ、恐ろしく強い……)


「ミヒャエルが来るまで凌いでほしい」とグランは言ったが、そもそも今のレイトにはジーラフの攻撃をどうにか受け流すことだけで既に手一杯で、それでもなお凌ぎきれない攻撃が少しずつレイトの手足に浅い傷を刻み始めている。


「ハッ! どうした人間! その程度か?」


狂気染みた笑みを浮かべて振るわれるジーラフの剣をレイトはギリギリのところで受け流しつつ、反撃に転じる間もなく、来るであろう次の一撃への防御姿勢をとる。


(……このままのペースで攻撃され続けたら、勝ち目がないどころか、凌ぐこともそろそろキツくなってくるぞ……)


 受け流すだけでも剣を握る手がビリビリと震える程のジーラフの攻撃はまともに喰らえば確実に死を踏み抜くのは明らかだ。


 ギャイン!


「興醒めもいいところだ人間! 先程から受けてばかり。これではとても決闘とは言えんな!」


 レイトの防御で弾かれた力をそのままに、ジーラフは後ろに跳び、トンっという軽い音と共に着地した。 


「一方的に攻撃するだけじゃあこれっぽっちも楽しむ気が起きん。いい加減攻撃の一つや二つして来い。こんな調子じゃ観客もそろそろ飽き飽きしてくる頃だろうよ」


 牢の中の人々を見まわして気だるげに吐き捨てながらジーラフはその場に突っ立ったまま剣の刃でトントンと肩を叩く。


「……」


 既に牢の中には諦めのムードが漂い、中の人達は絶望や悲しみ、怒りともとれるまなざしをレイトに向けている。


 先程までの猛攻と一転、全く攻撃を仕掛けようとせず、かといって防御の体制をとるでもなく、ただ隙だらけの退屈そうな表情で突っ立ったままである。


 が、レイトは足を踏み出せない。床を蹴りだす一歩がどうしても出ないのだ。


 ジーラフのあの一見隙だらけの立ち姿でさえ何かしらの構えなのではないか。さっきまでの遊ばれているかのような一方的な攻撃の中で、そんな疑心暗鬼が無意識のうちに心に芽を出し成長し、強靭な蔓となってレイトの行動をじわりじわりと縛り始めていた。


「ほら、せっかく攻撃のチャンスをくれてやっているんだ。かかって来るといい。それともあれか? 自分の無力さを悟って降参とでも? もしそうだというのなら……」


 瞬間、ジーラフの纏う気配が変わった。一瞬で剣を体の後ろに引き姿勢を一気に低くして床を蹴ると、一息にレイトとの差を詰め、懐に踏み込む。


「そろそろここらで終わりにせねばなるまいな!」


 恐ろしく低い一声と共に、ジーラフはギラリと赤い瞳でレイトをにらみつけながら左脇腹から右肩へと抜ける超高速の斬撃を繰り出した。


 ギィィン!


「な!?」


 形のない恐怖に縛られながらも、レイトはどうにか反射的にジーラフの剣を受け止めたレイトは一種の違和感を覚えた。


 軽い。今まで受流して尚、手を握る手がしびれるほどの攻撃を幾度となく浴びせてきたジーラフが己の怪力に速度さえも乗せたはずの一撃が、軽いのだ。


(これなら返せるはずだ……!)


 レイトはジーラフの刃をすくい上げるように斜め上方向へと受け流し、手首を返してそのまま袈裟に一閃する。その刹那


「!?」


 攻撃を受け流され、カウンターまで決められようかという状態のなかで、ジーラフの口元がニヤリと吊り上がった。


「かかったな、間抜けが!」


 瞬間、ジーラフの動きが加速した。受け流された力のベクトルに乗ってふわりと宙に浮くと、そのままスピンをかけ、刃が触れるよりも早くレイト目掛けて回し蹴りともいえる一撃を放つ。


「ガハッ……!?」


 好機とみて全身で袈裟斬りのモーションに入っていたレイトは避けることもガードすることも間に合わず、ジーラフの渾身の蹴りを腹部に食らい、大きく吹き飛ばされて、ちょうどリシュアの目の前の障壁に叩きつけられる。


 視界が激しく明滅し、目の前に悠然と立っているジーラフの姿が歪む。肺の空気が一気に吐き出され、呼吸ができない。喉を熱い何かが逆流する。


「……ッゲホッ……オエッ……」


 今の一撃でどこか内臓を損傷したのか、吐瀉物は真っ赤に染まっていた。


「レイト!?」「「レイト殿!!」」


 背後でリシュア達が悲鳴にも似た声で叫んでいるのがかすかに聞こえ、視界の両端には完全に絶望の色に染まって項垂れる捕虜たちの姿がぼんやりと映りこんでいる。


「フン……劣等種とはいえ元魔王が連れてきた人間、多少は腕が立つのかと思っていたが、所詮私にとっては素人に毛が生えた程度。やはり劣等種は劣等種でしかないということだな。先の一撃でよくわかった」


「……クソ……カウンターを誘うために……わざと軽い一撃を……」


「フ、そういうことだ。もっとも今更気づいたところでもう手遅れだ。見たところ回復魔法なども使えないようだし、その吐血からしてわざわざ私がとどめを刺すまでもない。早く諦めて楽になるといい」


 既に勝負あったとばかりにジーラフは背を向け剣をしまい、懐から取り出した本を開き始めた。


(……チクショウ……結局俺一人じゃどうしようもないじゃないか……。ここに来るまでずっとリシュアの補助頼りだったってのに、俺一人でいきなりこんな奴と戦おうとすること自体間違ってんだ……!)


 唯一の希望であるミヒャエルも未だに現れる気配はない。


 いっそのこと一息に殺してくれたほうが楽なのにと、そんな気持ちが次々に湧き、そのたびにレイトはそれを必死に振り払っていくが、いくら気持ちで踏みとどまっていようと、大きな損傷を受けた肉体の方は少しずつ確実に終わりへと近づいているのが恐ろしいほどはっきりと感じ取れた


(何か手はないのか……あいつをぶった斬ってこの状況をひっくり返す逆転の一手は……)


 痛みで飛びそうになる意識をどうにかギリギリのラインで引き留めながら、レイトは思考を巡らせる。


(こんな時リシュアの魔法があれば……あの時のような強化魔法があれば……)


 思い出していたのは、村を出発して初めての戦闘、狼の群れとの戦いでリシュアが使用した強化魔法だった。あの圧倒的な強化があればジーラフとも渡り合えるだろうにと、レイトは心の内に届かぬ願いを繰り返した。


(確か一応強化魔法の適正はあったっけな……)


『レイトさんが習得できる魔法は無属性の障壁魔法とか身体強化魔法とか、そういったものですね。』と、ランドーラでギルドの受付嬢が言っていた言葉がぽっと浮かんだ。


(いくら適正があったって、今この状況で習得して使えるようになるってんならそれこそ奇跡だな……)


 だが、今はその奇跡に頼るしかないかない。とレイトは一つ、覚悟を決めた。


(リシュアの強化魔法の感覚を思い出せ……)


 幸い相手はレイトから完全に関心をなくしている。多少何かしたところで、最期の足掻きとあざ笑うに違いない。それよりも今は死に向かう自分の身体との勝負が最重要である。


(保ってくれよ。俺の身体・・・!)


 意識を全身に集中させ、流れる魔力を両腕と両足へと集めていく。必要なのはジーラフよりも速く動き、ジーラフよりも強く剣を振るうための脚力と筋力だ。


 本来あるべき強化魔法の詠唱は知らない。


 そもそも習得に必要不可欠な修行も経験もない。


 頼れるのはあの時のリシュアの強化の紋様の感覚のみ。その蜘蛛の糸ほども細い導を辿り、今レイトは完全な我流で独自の強化魔法を開発しようとしている。


(あと少しで……!)


 少しずつ、両足と両腕が、あの時のものに似た熱を帯びていく。


(頼む……上手くいってくれ……奇跡本当にあるというのなら、今がその時だ……!)


 刹那、レイトを中心に風が吹き荒れ、ジーラフの手にしていた本を吹き飛ばした。


「なに……?」


 てっきり外の奴らに結界を壊されでもしたのかと振り向いたジーラフの動きが固まる。


「……何故だ……何故あのダメージで立ち上がる……いや、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも、その身体の紋様は、その魔力の量と感覚はなんなのだ……!!」


 そこにはついさっき圧倒的な力で叩きのめされて死の淵に追いやられた人間の姿はなかった。


 目の前に再び剣を構えて立っている人間の纏う魔力の感覚は先程までは微塵も感じられず、そもそも人間の魔力というよりも高位の魔族のそれに近い。


「さぁな……どうやら奇跡は起こったらしい。これならあんたを倒せるかもしれない」


 ジーラフを睨みつけながらそう呟くレイトの両腕と両足には、光を飲み込むような黒色の紋様が浮かび上がっている。


 紋様はリシュアの強化魔法の時よりも複雑なものになっている。


「……この期に及んでまだこのような足掻きをするとは、よほど私に殺されたいとみえる」


 流石というべきか、一瞬で冷静さを取り戻したジーラフは、再び剣を抜き、姿勢を低くして先の一撃と同じ構えをとった。


「今度は私の全ての力を乗せてお前を殺す。再び私の前に立ちあがったことは無駄な足掻きであったと後悔しながら死んでいけ!!!!」


 言うが早いか、ジーラフは床を砕くほどの渾身の力で床を蹴り、再びレイトの懐目掛けて跳んだ。


「……無駄かどうかはまだわからねぇだろ」


 迫りくるジーラフに対し、レイトは剣を正面に構え、咆哮する。


「オオオオオオオオォォォォォォッ!!!!!」


 レイトの気迫に呼応するかのように、両腕の紋様が黒い光を放ち始めた。が、ジーラフは攻撃の動作を緩めることなく咆哮を裂くようにレイトへと突っ込んでいく。


「死ね、人間!!!!」


 殺意に満ちた叫びと共に、恐ろしい速度と魔力を帯びたジーラフの刺突が、レイトの心臓目掛けて撃ち出される。


 だが、


ギィン!


「……な⁈」


 刃と刃が激しく衝突する音が響き渡る中、目の前で起きた事実にジーラフは驚愕するしかなかった。レイトの剣の腹が、刺突を完全に防いでいた。


「……一体、何をした……あの死の淵で何をしたのだ!!」


 自分の刺突をレイトが受け止めた事が信じられないとばかりにジーラフは叫ぶ。


 彼が叫ぶのも無理はない。ただの普通の刺突ならば、防がれても不思議ではない。多少なりとも剣の腕に覚えがあるものであれば防ぐことも可能であろう。


 だが、今しがたの刺突は、少なくとも「普通」で済まされるようなものではなかった。


 今度こそとどめを刺そうと渾身の力と魔力を込めた超速の一撃。


 私の全ての力を乗せてお前を殺す。その言葉には嘘偽りはない。言葉通り彼の中で最強最速の刺突。


 先程まで自分の剣をどうにか受け流すことで精一杯だった人間には見切ることなど到底できないはずの攻撃。


 だが、レイトはそれを易々と防いで見せたのだ。おまけに、刺突を受け止めた剣と、それを握るレイトの腕は、ほんの少しもブレてはいない。跳ね上がった身体機能によって、刺突の衝撃を完全に吸収していた。


「バカな……」


 恐怖と焦りに顔を歪め、ジーラフは勢いよく剣を振りかぶった。


「バカなバカなバカなバカなッ!!! 人間如きにこの私が後れを取るなどありえない!」


 呪詛のように叫びながら、ジーラフはでたらめに剣をレイトに向けて振り回す。怒りと焦燥の中での斬撃ではあるが、その一振り一振りは先の刺突と同等の速度と衝撃を宿している。

 

 しかし、そんな連撃でさえも、レイトは無言のまま動くことなく、ただ剣の動きだけで完璧に受け流していく。そして、そのまま三十秒近くも斬撃の嵐を受け流し続けた直後、疲労からか、少しばかり速度の落ちたジーラフの剣を、今度は受け流すことなく真っ向から受け止め、勢いよく跳ね上げた。


「⁈」


 あまりの勢いでジーラフの手から弾き飛ばされた剣が、部屋の天井に勢いよく突き刺さる。


「バカな……ただの人間が、なぜ私の剣についてこられるのだ…………」


 瞬時に後方に跳んで距離をとったジーラフがレイトを睨みつけて言った。その両手には既に、魔力で形成された、二振りの赤黒い光剣が握られている。


 そのままジーラフは二振りの光剣をまっすぐレイトの方へ向け、姿勢を低く落とした。刺突の連撃の構えだ。


「知らねぇよ。さっきも言っただろ、奇跡が起きたって」


 完全に冷静さを欠いたジーラフに対し、レイトは自分でも気持ち悪いほどに静かな感情の中でそう言い放ち、懐に飛び込んで来いとばかりに剣を大きく振りかぶった。


「ふざけるな人間! 劣等種がこの私に勝てるはずがない!! この一撃で、今度こそ死ね!!!」

 

 レイトの言葉のせいなのか、ついに完全に冷静さを失ったジーラフは、それでも速度と力は変わらずに地面を蹴り、レイトへと駆けた。外から見守るリシュアにとっては、ジーラフの姿が消えたとさえ思える程の速度。しかし、今のレイトはそれを完全に目で捉えていた。


 怒りと憎悪に満ちた表情で迫りくるジーラフ。彼の光剣が後数センチでレイトの胸を穿つというところで、


(だったら、俺は今、人間じゃないのかもしれないな)

 

 心の内でそう呟いて、レイトは渾身の力を乗せた一撃を迫りくるジーラフ目掛けてほとんど目視できない速度で振り下ろした。


 ガシャァァァァァァァッ!


「!?」


 驚きの声を上げる暇もなくジーラフは頭から見事に両断され、何が起きたかわからぬまま、その意識は消し飛んだ。


 斬撃の勢いはジーラフを両断するに留まらず、彼の背後の床を深く抉り取りながら疾走し、奥の壁で弾け、地下に轟音を響かせた。


「……これで俺の……勝ちだ」


 体を綺麗に左右に切り離されて血だまりの中に横たわるジーラフを見て、レイトはぽつりと呟いた。

 

 直後


(……あ、やべ……)


 漲っていた力と気迫が一気に抜ける感覚と共に、腕と足に現われていた紋様も、急速にその色を薄くしてかき消え、代わりに言葉で言い表せないような激痛と疲労感が身体のうちに溢れ出した。


(……さすがにこいつは……キツイ、な……)


 ぐらりと体がバランスを失い、前のめりに倒れこみながら、今の戦闘で残された気力と体力を使い果たしたレイトの意識は急速に暗い闇の底へと沈んでいった。


  

















 


 



 




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