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刃と刃と決闘場

「我らを相手にたった一人とは、随分と余裕なことだな。ジーラフとやら」


 槍の穂先をジーラフに突き付けたまま、殺意の籠った声色でグランが言う。


「ハハハ、流石に一人でこの人数の精鋭たちと殺りあうのは余程の死にたがりか、力を過信した愚か者ぐらいだろうよ。私はそのどちらにも当てはまりはしない。わざわざ死線の上で戦うつもりはないからな。だがまぁ、この状況で逃げるという選択肢あるまい。端から私の策はただ一つ……」


 ジーラフのその発言と異変が起きるのはほぼ同時だった。


 突如として彼の目の前の床とレイト達の背後の床に一本ずつ赤い光の線が走ると、その軌跡から天井目掛けて光の障壁が展開された。


 丁度障壁によってレイト達のいる領域と、ジーラフ、そして囚われた人達のいる領域が分断される形になり、おまけにレイト達の背後も障壁によって阻まれてしまっている。


「人質をとってこの狭い空間に籠城でもするつもりか……?」


「籠城? 確かに、後ろの人間共を救えず焦れる君らを前に、このままのんびりと本でも読むというのもなかなかに面白いかもしれんが……この障壁の意図するところはまるで違う。これは私の戦いを外から妨害されないようにするためのもの。私のいるこちら側の領域は決闘場なのだからな」

 

 ジーラフがスゥっと右手をレイトの方へと向けた。


「そうだな、栄えある一人目の決闘者は人間。お前にしよう」


 レイトに向けられたジーラフの右手が赤黒く発光し、同時にレイトの足元にも、右手と同じ様に赤黒く輝く魔法陣が広がる。


「強制転移魔法!? レイト! 早くそこから離れて……!」


「クク、もう遅い」


 リシュアの声が届いた直後、行動に移す間もなくレイトの視界は暗転し、次の瞬間、彼の視界には先程まで目の前に在った光の障壁は存在せず、代わりにフードの下でニタリと笑うジーラフの顔が在った。


「てめぇっ⁈」


「っとぉ。さすがにフライングはいけないぞ、人間君」 


 ジーラフは軽口を叩きながら、半ば反射的に繰り出されたレイトの拳をヒョイと後ろに飛んで躱すと、そのまま着地し、どこからともなく一振りの片手剣を取り出して構えた。二人の間は約五メートルほどである。


「ちょっと! レイトをどうするつもり⁈」


 外ではリシュアが叫びながら障壁に向けて使える限りの攻撃魔法を撃ち込み続けているようだったが、障壁を形成する光には一瞬の揺らぎすら起きないでいる。認識阻害結界を打ち破ったミヒャエルも今は扉の後ろで戦闘中。すぐに手を借りることはできない。


「無駄だ。ルドガーの娘。これは私の扱える中で最強の障壁魔法。はるか昔、半年近くもの間とある国を敵の猛攻から守り続けたという究極の障壁魔法、それに私がさらなる改良を加えて生み出したものだ。たとえ魔王であろうと破れる代物じゃあない」


 それに、とジーラフは続ける。


「先程も言っただろう? ここは決闘場なのだと。決闘場に立っている以上、私とそこのレイトとかいう人間は戦う必要がある。仮にこの人間が私を倒すことができたなら、そこで決闘は終了。この障壁は消え、そこの人間共も解放される。……だが、逆に私が彼を殺したなら、次はルドガーの娘、お前と。そしてその次は適当に選んだ奴と戦う。どうだ? 私は一度負ければそれで終わりだが、そちら側には人数分の戦う権利がある。いい条件だろう?」


「舐めるな! たとえ一対一であろうと我らはお前には負けはしない。どのみち死ぬのはお前のほうだぞジーラフ!」


「……あぁ、そうだろうな。だが、少なくともお前達ヴァルネロの精鋭と殺りあう前に、その勇者気取りの人間と、真の魔王の血を引く娘は確実に殺せるだろうよ」


「貴様っ……もとよりそのつもりで……」


「それがこの状況下での最善策というものだ。まぁ、それはともかくレイトとやら、早く剣を構えろ。観客は牢の中の人間共。せいぜい同種を絶望させないように足掻いて見せろ」


 ジーラフはこちらの戦闘準備はできたと言わんばかりにフードを取り払う。フードの下から現れた赤黒い瞳にはもはや外野の存在などはなく、ただこれから自分が狩る獲物の姿のみを映している。


「……レイト殿、ミヒャエルがくればこの障壁を消すことも可能やも知れないが、残念ながら今こちらから彼を呼ぶ手段がない。おそらくジーラフはかなりの手練れ。ゆえに、、決して正面から戦おうとするな。攻撃を受け流し、回避することのみを考えるのだ……」


「……わかった」


 障壁の向こうから囁くようなグランの助言にレイトは小さくうなずく。小刻みに震える身体に力を籠める。もはやもう覚悟を決めて剣を構える以外に道を切り開く術は無い。


「その決闘、受けるしかなさそうだ」


 目の前のジーラフではなく、どこかで怯え、逃げようとする自分を諦めさせるように吐き捨て、レイトもゆっくりと剣を両手で握り、正面に構えた。


 (出来ることなら負けたくないけど、とりあえずやるしかない! 後悔も泣き言も、全部あの世に逝ってからだ!)


「クク、目つきが変わったな。いいだろう。それでこその決闘だ!!!」


 レイトの動きを見るや否や、ジーラフは狂気染みた笑みで叫び、床を蹴った。


 

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