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終焉の鐘は音も無く(後編)

 「バカな……!?」


 ジークは目の前で起きている光景を信じられないと言った顔でそう溢した。


 カルバニアが。魔族を屠る必殺の聖剣が、その刃を僅かにオーガの首筋に埋めた状態で静止している。


「なぜ魔族たる俺が、魔族殺しの聖剣の刃を受け止められるのだ、とでも言いたげな顔だな。王よ」


 刃を素手で掴み、嘲笑の眼差しをジークに向けながら、オーガは言う。


「まさか、貴様のような性根の腐りきった人間に、聖剣の力を使いこなせるとでも思っていたのか?」


「き……貴様……何が目的だ」


 この時点で、すでにジークの思考は逃げへと変わっていた。この際国など、民などどうでもよく。それらすべてを代償にしても、自分だけは助かろうという。オーガの言う通り、彼の性根は腐敗臭に包まれている。


「国か? 民か? 欲しいのならばくれてやるぞ……! その代わりに俺を救え……!」


 ジークの言葉をオーガは鼻で笑った。


「くだらないな。お前のようなハリボテの王の力など借りずとも、私が欲する者は私自身で手に入れるさ」


 首筋のカルバニアを指一本で払いのけ、オーガはジークの顔を鷲掴みにした。ミシミシと音を立てて、小太りながらも筋肉質な王の身体が地面を離れて持ち上がる。


「ぐ……が…………」


 指の隙間から王が覗かせる、最期の、憎悪に溢れた視線を全身で受け止めるように、オーガは一つ、大きく深呼吸をし、告げる。


「気が変わった。これほどまでに堕落しきっていてくれたお前への最大の感謝として、最期に名乗っておいてやろう。私の名はガルアス。ガルアス=ヴァーミリオン。長き人間の世を終わらせ、新たな世界を築く王だ」


 ガルアスは静かに、ゆっくりと王の間の天井いっぱいに描かれた天井画を仰ぎ見た。聖剣を手にした男の周りを動物や天使が取り囲んで祝福している。腐り堕ちた現皇帝を見れば、伝説の王たるアーサーとて絶望するだろうと、内心ほくそ笑みながら、手に力を込めていく。


 耳に感じる王の呻きは、もはやガルアスにとっては勝利のファンファーレ同然の心地良さで、そんな彼の手の中で、王の頭部は熟れたトマトのように真っ赤な汁とピンク色の果肉を撒き散らし、決して狭くは無い王の間の床を、壁を、天井さえもを染め上げた。



 

 


 

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