転生者は使いよう
「それで、ここからどうするんだ? 千剣姫相手に直接交渉するってところまでは分かったけどさぁ、そもそも彼女の居場所が分からなきゃ、どうしようもねぇんじゃねぇの?」
村の男を女子供の隠れている場所に送り届け、丘の上で合流したリシュア達から一通り話を聞いたライナが尋ねた。この話の中での一番の問題点はそこだった。いくらリシュアが空を飛べると言えど、肝心の目的地が不明な状態では交渉の成功も失敗も関係ないのだ。
「せめて千里眼の魔法でもあればいいんですけど……、伝承ではユニス一族にのみ伝わる秘術と聞きますし。少なくとも私達の中には使える人はいませんね……」
ライナの疑問にレミィも続いた。だが、立案者たるリシュア本人は、やれやれと呆れ顔で溜息を吐くばかりだ。
「なんだよリシュア。その顔は何か策でもあるのか?」
レイトの言葉にリシュアはふふんと鼻を鳴らしてニッと笑った。
「ええ。もちろん。私がそこらへんの問題を何も考えずに今まで喋っていたわけないでしょう。千里眼の魔法を使えるのはユニスとかいうどこかの一族以外にも一人いるわ。この世界における最強のイレギュラーが」
「……お前、またあいつに面倒ごとを押し付けるつもりか……」
ええ、そうよ。と悪びれた様子もないリシュアの返答に、レイトは少しばかり彼の事が哀れに思えてきた。
「……流石に都合よくあいつを利用しすぎじゃないか? だいたい、あいつがその千里眼の魔法を会得してるって保証もないし」
「何言ってんのよ。私から願い出たとはいえ、本来なら彼がやる筈の魔王討伐を私達がやってるんだから、その代金としては安いくらいよ。それに、転生者ってのは大概一人で世界をひっくり返すことができるくらいにはぶっ壊れた力の数々を女神サマから授かってんの。身体能力も、魔力回路の出来も最高。魔法は全属性に最大適性が当たり前。何もかもが本人にとって都合のいいように調整されてから転生してきてるのよ。そんな全身が好都合で構成されてるような彼を多少こっちの都合で利用したって文句を言われる筋合いはないわよ」
「……そういうもんかなぁ…………」
「なんにせよ実際問題、千剣姫との交渉は彼のサポート無しでは成り立たない。さしもの千剣姫とて、転生者がこちら側に付いていると知れば、多少は信用もしやすくなるでしょうし」
「まぁ……それは確かに」
「とにかく、事態は急を要するの。村人達の避難の為にも、もう一度アイゼンに寄って船を出してもらわないといけないし。早速彼を呼び寄せるわね」
そう言ってリシュアは例の思念通話で転生者・リョウジを呼び出し始めた。直接脳内に語り掛ける思念通話だというのに、なかなか応答が来ないらしく、リシュアは苛立った様子でトントントンと爪先で地面を叩き始める。
彼がようやく応答したのはそれから三十秒近くしてからだった。
「あ、ようやく反応した! おはよう、リョウジ。随分と長く夢の国に居座ってたみたいで何よりだわ」
どうやらリョウジは寝起きらしく、リシュアは皮肉たっぷりの台詞を吐いた。思念通話という事情を知らない者から見ればただの狂人だ。
「またあなたに頼みたいことが出来たのよ。多分これが最後の大仕事になると思……え? 南の島で休暇中? 知らないわよそんなこと! 世界が滅びたら休暇どころじゃないんだから。……え? なに? そうよ、世界が滅びるのよ。ついに魔王軍が動き出したのよ!!!! 一分だけあげるから、とっとと私のいる場所まで来なさいよ。場所? 千里眼の魔法を使えばいいでしょうが!!!!!!」
ひとしきりまくし立てて、通話は終了したようだった。
「……はぁ。とりあえず、もうすぐあいつはここに来る。そこからが私達にとっての正念場よ」
晴れ渡っていた空には、いつの間にか分厚い雲が懸かりつつあった。




