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剣と魔法と不気味な予感

 「「オォォォオオオオッ!!!」」


 壁に等間隔に下げられたランタンの淡い炎で照らされた薄暗い空間に、いくつもの咆哮と剣撃の音が響き渡っている。


 レイト達の目的である、グレン軍に囚われたジルバの人達の解放は、二人はおろか同行しているヴァルネロの兵達ですら、予想以上に骨の折れるものだった。 


「いったいどれだけ広いのよこの地下空間は!? 悪趣味な道具と敵兵ばかりじゃない! 本当にここに住民たちが囚われてるの!?」


「そりゃまぁそうだが、それでも今手掛かりはここしかない以上、徹底的にここを探し回るしかないだろっとォ!」


 レイトはかれこれ四度目になろうかという同じようなリシュアの愚痴に叫ぶように答えつつ、飛び掛かってきた敵の下級魔族を斬り伏せる。リシュアはといえば、敵兵の攻撃を、ある意味才能ともいえるステップで躱しながらレイトの後ろで時折今のような愚痴やら文句を言うばかりだ。


「すまない、お二人とも、ヴァルネロ様よりこの空間の広さは聞いてはいたが、まさかこれほどとは……」


 二人の横で巨大な槍を振るうグラン=アルストスが、四五体の敵をまとめて串刺しにしつつ二人に申し訳なさそうに言う。


 一行が地下に降りてから早一時間弱が過ぎていたが無駄に広い空間は、ただでさえ薄暗いうえに、そこかしこに大きな拷問器具などが置かれたままで、見通しが非常に悪い。さらに物陰からは敵の伏兵が頻繁に襲い掛かってくるわ、無駄に小部屋が多いわで、地下全体の把握も、肝心の囚われた住民の捜索も思うようにいかないのだ。


「別にあなたが謝る必要ないわよ……。そんなことよりも、いくら何でも敵の数多すぎじゃない?」


「もしかしたらこの地下空間のどこかに召喚陣でも隠されているのかもしれませんな……」


「キリがないわね……。それに、召喚陣に認識阻害のための結界もかけられてたらそれこそ面倒極まりないわ。それに、召喚陣に張るくらいなら、当然捕えた人たちの居場所にも結界張ってるだろうし……」


「てことはいくら地下を探しまくったところで無駄に体力を消耗するだけじゃないか……」


「そうね。でもまぁ、どうせ疲れるなら、それは私だけでいいわね……」


 そう溜息交じりに吐き捨てて、リシュアはその場に片膝を着き、両手をそっと床に置いた。


「リシュア殿、いったい何を……?」


「ちょっとした感知系の結界魔法をね。今から五分、この場所と私を守ってもらえるかしら」


「御意。その程度のことならいくらでもお任せを」


「ありがと。それじゃあ早速……『アナライズ』」


 リシュアが眼を閉じ、静かに囁くように魔法名を口にした。


 瞬間、うっすらと青く光る光の壁がリシュアを中心に球状に地下空間全体へと広がっていく。


 (さぁ、いったいどこに隠されているのか、宝探しを始めましょうか)


 リシュアは地下空間全体の構造の把握と、敵の魔法の痕跡を開始した。結界魔法『アナライズ』の効果で、今のリシュアにはこの地下空間の構造から、敵味方にレイトの動きまでが手に取るようにわかる。


 が、しかし、敵の術者はかなりの使い手なのか、空間全体をざっと調べた限りでは召喚陣も隠蔽用の結界陣も感知できなかった。


(……でも、まだ新しい魔法の痕跡があるってことは、何か結界的なものがあるのは確かなのよね。……めちゃくちゃ疲れるけど、やっぱりもう少し感度を上げるしかないかぁ……)


 徐々に集中力を高め、感覚を研ぎ澄ませながらリシュアは結界を通して認識するこの空間内の情報の量と密度を増やしていく。


(……ううぅッ、きっつゥ……)


 途端に割れるような頭痛が彼女を襲い、冬だというのに全身から嫌な汗が滲み出し始める。だが、それでもなお彼女はさらに結界感知の感度を上昇させていく。徐々に吐き気までが現れ始め、リシュア=ヴァーミリオンとしての肉体の感覚がぼんやりと輪郭を失い始める。


(……これ以上はもう、意識がもってかれ……あっ!!!)


 あと数秒続ければ意識が飛ぶというところで、リシュアはようやく地下空間の中に淡く光る二つの認識阻害結界陣を捉えた。すぐに感知結界を解除し、クラクラする頭を押さえながら立ち上がって叫ぶ。


「護衛ありがとう、ようやく見えたわ!!! 百メートルくらい先、真正面奥の壁と部屋の中央真上の天井に一つずつ、強力な認識阻害結界が張られてる!」

 

「了解した!!! あとはこのミヒャエル=ガリオンに任されよ!!!」


 同行しているヴァルネロの兵の中で唯一の黒魔導士であるミヒャエルが高らかに名乗りを上げ、淡い黒の光を灯した両手がそれぞれリシュアが示したポイントへと向けられる。


「これより敷くは全ての零へ通ずる道。大地、炎、生命、大河、宝石。全て我が下に崩れ去り、真なる在処へ還らん。『原初に至る回帰の導(リバーストゥゼロ)』」

 

 ゴォッという風の吹くような音で両手から放たれた二本の透き通るような黒色の光の奔流が壁と天井に吸い込まれるように消える。


 その直後、ガラスが砕けるような音と共に、天井には巨大な魔法陣が、そして正面の壁には大きな両開きの鉄の扉が出現した。


「あの召喚陣と残りの敵兵は我ら数名いれば問題あるまい。お二人は他の兵らと共に奥へ進まれよ」


「あぁ、わかった。囚われた人たちの救出は任せてくれ!」


 まだ若干足元のおぼつかないリシュアの手を引きながら、レイトは他の十名弱の兵と共に目の前に飛び掛かってくる敵兵を斬り払いながら、現れた扉へと駆けた。


*  *  *


 「では、開けるぞ。中にも敵兵がわんさかいる可能性もある。皆、気を緩めるなよ」


 異様に長く感じられる百メートル弱を駆け抜け、扉の前にたどり着いた一同の中からグランが歩み出て、扉を押し開ける。


 ギィと嫌な音を響かせながら開いた扉の向こうは、左右の壁に鉄格子がはめられた牢獄の空間で、それぞれの牢からは、四五人の人間が、何事かと鉄格子に顔を押し当ててこちらを見つめている。


「おやおや、意外にあっさりと結界を破られてしまったようだ……。魔王ルドガーの娘というのは肩書だけではないらしいな」


 グランが言っていたような敵兵の集団はいなかった。ただ一人、分厚い本を片手に床に座り込んで一人不気味に笑うフード姿の男を除いては。


「……何者だ貴様は……」


 既に槍の穂先の狙いを首に定めたグランが問う。その距離は十メートルほどだ。


「……そういうセリフを言うやつは早々に退場するっていうのが物語の定番なんだが、今の私の目的はお前ではないし、まぁ、自己紹介くらいはしてやろう」


 フードから見える口元に相変わらず不気味な笑みを浮かべる男はよほどの自信なのか、立ち上がると自分に向けられた槍から逃げもせず、その場で右手を腹部に、左手を後ろにやって、うやうやしくお辞儀をした。


「お初にお目にかかる。私はグレン=ラインロード様の臣下が一人、ジーラフ=ザルツヴァルトと申す者。短い間になろうが、しばしお知りおきを」



 

 


 


 


 

 



 


 


 


 





 




 


 

 



 


 


 


 





 



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