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動き出した野望

 リシュアがレイトを呼び寄せて十分近く。あれやこれやと説明に説明を重ねた結果、男はようやくリシュア達が自分に敵意を持っていないことを受け入れたらしかった。


 「とりあえず、あの状況で助けてくれたってことには感謝するよ。話を聞く分には、あんたらは冒険者らしいが、それにしても最悪のタイミングにやって来たもんだな…………」


 瓦礫の上に腰を下ろし、男はそれまで村だった場所を見回して溜息をついた。


「残念ながら、あんたらを泊めてやる家もこの通り火だるま。食料も全て消し炭だ。宿を求めてこの村を訪ねたとしたら、残念だが他を当たってくれ。といっても、皇都周辺の村は殆ど皇軍に焼き払われちまっているだろうが…………」


「この村の他の人達は……? さっき丘の上から逃げていく女性と子供の姿が見えたけど」


「ああ、そりゃ家の村のモンだな。流石に女子供に武器を持たせるわけにゃいかねぇからな。丘の近くの林の中に、避難用の洞穴に逃がしたのさ。で、男衆はこの通り、俺以外は全員あの世行きさ…………」


 再び、男が溜息をと溜息をついた。


「……どうしてこんな戦いが起こったんだ? 俺達は村人が反乱を起こしたって聞いているんだけど」


「反乱? 馬鹿言え! 先に仕掛けて来たのは皇軍の方だぞ。奴らが村に攻め入らなきゃ、こんなことにはならなかったんだ!」


 キッとレイトを睨みつけ、男が叫んだ。その言葉に嘘偽りはない。男の本気の目を見てリシュアはそれを悟る。だが、男の話を信じるならば、皇軍側の兵士が村を襲った理由が分からない。


 いくら皇帝が村人相手に圧政を敷いているとはいえ、自ら財源を焼き払うなどするだろうか。そんなことをすれば戦の炎が燃え上がることなど、どれほど愚かな王であっても想像くらいはできるだろうに。


「……それって本当に皇軍だったの?」


 であれば、考えられる理由は一つだった。的中して欲しくはない予想。それを確かめるべく、リシュアは男に尋ねた。


「……当たり前だ。初めに村を襲った連中は全員皇軍の紋章入りの武器と鎧を装備してたんだからな」


「……でも、顔までは見てないってことよね? どこかの野盗が皇軍の姿を装って襲撃してきたっていう可能性は……?」


「なんだよ、皇軍の味方をするつもりか?」


「いえ、そうじゃないけど、そういう事ははっきりさせておきたくなるのが私の性だから」


「はん。そうかい。でも、間違いなくあれは皇軍だったと思うがな。あの日襲われた村は少なくとも三十以上だ。それほどの規模の野盗なんて聞いたことがねぇ。そもそもの話、いったいどこに村人を数人殺しただけで、食料や金品を略奪せずに退散する盗賊がいるんだ?」


「……それもそうね」


 これで野盗の線は消えた。リシュアは脳内に浮かべた襲撃者の候補の一つに線を引いて、唇を噛んだ。残す候補はただ一つだ。

 

「なぁ、魔族のあんた。さっきから色々と考えているようだけど、一体何者だ? この戦いの原因を考えて何になるんだ? 原因が分かればこの瓦礫は村に戻ってくれるのか? 友人達は生き返るのか?」


 全部過ぎたことだ。もう忘れさせてくれ……。


 男は両手で顔を覆って言った。炎は相変わらず、衰えることなく燃えている。


「ごめんなさい。確かに燃えた村も亡くなったあなたの友人たちも戻らないわ。だけど、この戦いはおそらく序章にしか過ぎない。これからもっと多くの人が死んで、街が壊されるわ」


「おい……それってまさか……」


 リシュアの言葉にレイトは思わず会話に割り込んだ。


「そのまさかよ。私だって考えたくなかったけど、状況を考えたらそれしかありえないのよ。野盗が皇軍を襲ってきたわけでもなく、ましてや皇帝が自国の民を殺すなんてことはほぼ百パーセントあり得ない。そうなったら残る可能性は一つよ」


「……ガルアスが動き出したってことか」


 その可能性が一番しっくりくる。リシュア曰くガルアスは慎重な性格だという。ただでさえ税で不満を募らせた農村だ。皇国の兵士に化けさせた配下の魔族を利用して「皇軍による理不尽な殺戮」という種火を蒔けば、後は勝手に燃え広がるのを待つのみ。おまけに今は皇国最強の兵団不在の時。ガルアスにとってはこれ以上ない攻め時だろう。


「その通りよ。だけど私達にはどうしようもないわ。四帝やリョウジを集めて魔王軍に対抗する軍を作ることはできるけど、ガルアスの動きを未然に防ぐことは不可能に近いわ。皇帝にどうにか直接会ってこのことを話したとしても、どこの馬の骨とも知れない冒険者の戯言として聞き流されるのが関の山。下手をすれば処罰される可能性だってある」


「それじゃあどうするんだよ。ただ指をくわえてガルアスがこの国を支配するのを眺めるしかできないってのか?」


「いいえ。未然に防ぐことはできずとも、被害を最小に抑える事ならできるわ。私の交渉術と彼女の先を読む力にかかっているけど」


「彼女?」


「ええ。この皇国最強にして、おそらくはこの国の人達が最も誠意を抱いている人間よ」


 深呼吸を一つ挟み、リシュアははっきりとした口調で言った。


「千剣姫とその軍勢をどうにかしてこの国に呼び戻すの」



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