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影問答(中編)

 (すでにリシュアから聞いているとは思うが、私の死因は知っているな?)


(え? ああ、まぁ。酒の飲みすぎで中毒を起こして死んだって。だけどそれ、本当なのか? 実はあのガルアスとかいうやつに毒を盛られたとか、そういうのじゃないのか?)


 ふと、そんな疑問が浮かんだ。


 最強と名高い魔王がただの酒の飲み過ぎで命を落とすなど。最初にリシュアからその死因を聞いた時は色々と慌てていたせいで大して疑問にも思わなかったものの、今冷静に考えてみると色々とおかしい。そもそも酒に弱いと知っていたなら、宴の席に同席していたはずの部下達が止める筈ではないのか。


(なるほど。鋭い質問だな。そこまで勘付かれているのなら、特別に教えよう。あ、この話は我が娘(リシュア)には黙っていてくれよ)


(黙っていてくれって……やっぱり……!)


(まぁまぁ。落ち着け。確かに私の直接的な死因は部下のガルアスの盛ったであろう毒によるものだが、普段ならそのような毒は効きはしない。だが、あの日は偶然そこに私の唯一の弱点が重なってしまったんだよ)


(弱点? 酒に弱いってことは知っているけど……?)


 魔王ルドガー=ヴァーミリオンは酒にめっぽう弱い。弱いというのに久しぶりの人間の来訪に悦び、その勢いのまま酒宴の席で酒を飲みまくったせいで死んだのだと、それはリシュアから聞かされている。


(いや。そのことではないのだ)


 それを、ルドガーは静かに否定する。 


(酒が弱いということもあるにはあるが、それ以上に一つ、誰にも伝えていない致命的な弱点があってな。「酒を飲むと暫くの間あらゆる耐性が激減する」というものだ)


(は?)


(いやはや。流石にあそこまで毒への耐性が落ちているとは想像していなかったがな。ハッハッハッハ)


 まるで他人事のように語るルドガーに、レイトは少しずつ腹が立ってきた。


(いやはや、じゃないでしょ!? 自分の弱点を分かっていて、どうして酒を飲んだんだよ……)


(な、なにをそう声を荒げる必要があるのだ!? ガルアスが何やら企んでいるのは知っていたが、流石に大切な酒の席で何かを仕掛けてくるとは思えんだろ、普通!?)


(えぇ…………、酒の席なんて、むしろ一番警戒すべき場面じゃないか……)


 相変わらず呑気なルドガーの返答に、レイトは確信した。この魔王、戦闘面では最強かもしれないが、それ以外の部分はリシュアに負けず劣らずポンコツだと。なるほど、彼女が時折見せるポンコツぶりは父親譲りだったのかと納得する。


(しかも、あんたを倒しにやってきた筈の俺の親父が同席している酒の席だぞ。たとえ死因が毒殺だとバレても親父の、人間側が仕組んだことにすれば、事は収まる。おまけに魔族達の人間への憎悪の炎をより一層燃え上がらせることも可能だっていうのを考えなかったのかよ…………)


(……確かに)


 その一言で、レイトの内で膨らみつつあった怒りが、爆発した。


(っ…………ふざけんのもいい加減にしろよ……!)


(な、なぜ君が怒る!?)


(なぜもなにも、あんたがそんな呑気に酒飲んで毒を盛られて死んでいなければ。もっとその力を示してガルアスを押さえていれば、あいつ(リシュア)が裏切られて城から一人で放り出されることも、ヴァルネロ達四帝の街が襲われることもなかったはずだ……!)


(それは…………君のう言う通りだが……)


(それに、あいつ(リシュア)は種族を越えた融和っていう、あんたの夢をあの小さな背中に背負ってんだ。歴代最強の魔王って謳われてるあんたなら、それぐらいの予想は出来たはず。なのにどうしてあんたはリシュアを置いて先に死んじまったんだよ……!)


 ルドガーへ向けて、レイトは怒りのままにまくし立てた。レイト自身勇者であり父親たるブランを十年近く前に病で亡くし、母親に至ってはレイトが生まれてすぐにこの世を去っている。ソルムの住人達はそんなレイトに対して家族同然の温かさで接してくれていたが、それでも血のつながった家族がいないという事実に、幼かったレイトはしょっちゅう部屋のベッドの中で泣いたものだ。


 だが、リシュアはただ肉親を亡くしただけでなく、側近であるガルアス達に裏切られ、あの冬の日に、たった一人、見知らぬ土地に放り出されたのだ。肩書は魔王とはいえ、その寂しさや悔しさはレイトのそれ以上に違いない。


 全てはルドガー=ヴァーミリオンが呆気なく毒殺されたことで生まれた悲劇だった。


(…………)


(…………)


(…………)


(…………)


(…………ああ。ああ、そうとも)


 しばしの静寂を経て、ルドガーがポツリと呟いた。つぶやきはそのまま途切れることなく、再び彼は悲し気に語り始めた。


(君の言う通り、全ては私のせいだ。魔王として最強だったとしても、結局私は父親として最悪だった)

 

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