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決着の午後

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 痛ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 戦いを終えた穏やかな昼下がりの城下町に、リュウカの悲鳴が響き渡る。


「あ、バカ! 動かないでって言ったでしょ、リュウカ! 折角塞ぎかけてた傷がまた開いたじゃない…………」


 彼女の要望通り、治療を担当しているのはリシュアである。


 ベルエルが撃退されたことで城下町近くに召喚されていた死霊兵達は消え、戦の終結を告げる鐘の音に町の住人達はいつもと変わらぬ生活を再開していた。


 とはいえ、各地で死霊兵達と戦闘を行った兵達は住人達と同じようにはいかず、町の診療所には何人もの負傷した兵達が運び込まれ、ずらりと並んだ布団の上で治療を受けている状態だった。


 そんな負傷兵達の列の一番奥に、リュウカがいた。ベルエルとの戦闘の後で、レイトに背負われて城下町まで帰り着いたリュウカは診療所に着く前に心臓の傷が開いたらしく、レイトの背中を真っ赤に染め上げる程の出血を伴って意識を失っていた。幸いにもレイト達よりも先にリシュア達が城下町に戻ってきていたおかげで、どうにか死よりも一瞬早く治療を開始できたのだが、それでも彼女の傷はあまりにもひどく、リシュアはあらゆる治癒魔法を使いながら、かれこれ一時間近く彼女の身体と格闘している状態なのだ。


「ったく。いつかのレイト以上の傷じゃない。よくもまぁこんなボロッボロの状態で変化まで使ってあのベルエルの死霊兵団相手に戦えたわね……」


「うぅ…………あそこは仕方なかったんだよ…………むしろ変化してなきゃあの巨人達に全身を潰されて即死だったんだから…………あー、痛ぇ……」


「流石はリュウカってところかしらねぇ…………。とにかく、もう少し痛むだろうけど我慢して……よっ!」


 ブジュ、と音を立てて、リシュアの右腕がリュウカの傷口の中へと沈みこんだ。


「ぎゃぁぁぁぁっ!? おま、わざわざ胸の中に腕を突っ込む必要無いだろ……!?」


「だって、こうでもしないとすぐに無茶するじゃない。聞いたわよ? 毎回毎回肉を切らせて骨を断つような危なっかしい戦い方してるって。今回ばかりは仕方なかったかもしれないけど、これに懲りたらもう少し自分の身体を大切にする戦い方を考えなさ……いっ!」


「ひぃぃぃぃっ! 今まで戦ってきたどんな相手よりもお前が怖えぇよ……!!」


「つべこべ言わない!」


 ズブ、と、リシュアの左腕がリュウカの胸の中に沈み込み、リュウカの身体が一度、ビクンと大きく跳ねた。


「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁ……………………」


 そのままガクンと首が落ちた。麻酔もなく胸の中を維持られるというリシュアの鬼畜極まりない治療の痛みに、ついにリュウカも限界を迎え意識を手放してしまったらしい。


「なぁ……、いいのか? あれ、止めなくても」


 フッフッフ、と、怪しげな研究者のような顔でリュウカの身体を弄るリシュアを隣の布団の中から眺めながら、レイトは自分の治療に当たってくれているタツミに聞いた。


「ああ、いいんですよ。姉さんも偶にはあれくらいのお仕置きがないと、またすぐに無茶するので、リシュアさんのあれはいい薬ですよ」


「そ、そうなのか…………」


 笑顔で答えるタツミと、その向こうで白眼を向いて失神しているリュウカを見比べて、レイトは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「はい、レイトさん。終わりましたよ。全身を調べてみましたけど、特に体の内部に損傷は起きてないみたいですけど、やっぱり魔族としての魔力が濃くなっているようです……」


「そっか……。ありがとう。魔族化の方は覚悟はできてるからいいよ。とりあえずファントムの副作用が無かったなら、今のところはそれでいい」


 レイトは布団から起き上がった。


「ちょっと、外に出てくるよ」


 覚悟はできてはいたが、それでも少し一人になりたかった。自分の身体が人から離れていくことへの渦巻く感情を、静かな場所で整理したかった。


「……それなら、この診療所を出て左に曲がってまっすぐ進んだところに、ちょっとした砂浜があります。この季節なら人も滅多に来ないでしょうし、一人で考え事をするにはもってこいの場所ですよ」


 まるでレイトの思考を読んだかのように、タツミが言った。


「…………ありがとう。それじゃあちょっと行ってくる」


「ええ。行ってらっしゃい」


 手を振るタツミに手を振り返し、レイトは外へ出た。入り口近くで一度中を振り返ると、タツミは疲れて眠ってしまったレミィの傷の治療を再開するところで、リシュアの方はと言えば、レイトの動きにはまったく気付いていない様子で、相変わらず気を失ったままのリュウカの体内に腕を突っ込んでいた。


 タツミに教えられた通りに診療所を出て左に曲がると、長く伸びた町の通りの向こうに冬の黒い海がのっぺりと広がっているのが見える。

 

 肉屋、魚屋、八百屋。それにガラクタにしか見えない何かを売る店。客と店員の声が飛び交うにぎやかな通りを歩きながら、レイトは頭の中で影に語りかけた。


(さぁ、今回は色々と聞かせてもらうぞ。ルドガー=ヴァーミリオン)









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