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アルヴィースの描く未来

 「ライトニング……ストーム……インパクトォォォォォォッ!!!!!」


 いつの間に考えたのか。必殺技名を響かせて、ライナはロンディルシアの頬を一切の手加減なく、全力で殴りぬいた。


「ガッ…………ハァァァッ!?」


 穿つ速度は雷。防御も回避も突き抜ける神速の拳で殴られたロンディルシアは、口から血と砕けた歯の欠片を吐き出しながら、軽く数十メートルを僅か一秒足らずで吹き飛び地面に落下。それでもライナの拳からの衝撃は収まることなく地面の上を派手に十数回バウンドし、先の戦闘で焼け焦げた民家の壁に叩きつけられてようやく止まった。


 全身血まみれで倒れ伏すロンディルシアは、それでもまだ殺意の炎は灯ったままらしく、遠くに立つレミィとライナを睨みつけて立ち上がろうと藻掻く。


「あいつ……まだやる気かよ……!」


 何度も起き上がろうと力を込めるが、ライナの拳のダメージは致命的だった。だが、そんな状態であってもロンディルシアはさらに足掻く。起き上がることを諦め、今度はもう一度魔弾を撃とうと這いつくばったまま右手を二人へ向ける。


「クソッ……クソッ……! 僕はあいつらよりも強い筈だ!! 負ける筈なんてない!! 今度こそ、今度こそ殺してやる……!!!」


 呪詛のように吐き出しながらマナを集め、魔弾を作り上げる。もう一度、今度は先程よりも巨大な魔弾を作り上げようと、傷だらけの身体で、ボロボロの魔力回路で、最後に残った微かなプライドの為にロンディルシアは足掻く。


 ブツン。


 そんな音が彼の体内から響いた。


 同時に、組みあがりつつあった魔弾があっけなく粒子となって風に消えた。


「ア……」


 レミィにはそれが何の音であったか、分かる。


 魔力回路。魔法使いにとっての生命線ともいえるその器官が千切れる音。おそらくさっきの感情任せの一撃で、ロンディルシアの体内の魔力回路と第三の眼はとっくに限界を迎えていたのだ。


 ライナに殴られて、あのまま素直に負けを認めていれば魔力回路と第三の眼は助かった可能性もあったが、それも今更どうしようもない。魔法使いとして、ロンディルシアは死んだも同然だった。


「アア…………アアア……アアアアアアアァァァアァァッ!!!!!!!」


 無論。自分の身に起きたことは、ロンディルシア本人が一番分かっている。ゆえに、絶望した。オリジン・アーツも使えず、普通の魔法使い生命も潰えた今、彼にはもうレミィに勝ち得るものは何も無い。残っているのは中身の無い形だけの薄っぺらなプライドだけ。慢心、傲慢、自信過剰。今までロンディルシアのその精神を構成していた物達が、今度は一斉に牙を向く。


「アァァッ!! アアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」


 ロンディルシアは発狂した。動けない身体で必死に血を吐きながら声を上げる。彼の精神は完全に崩壊してしまっていた。


「ロンディルシア…………」


 悶える彼の姿に、レミィは思わず目を覆った。敵とはいえ、かつては同じ場所で衣食を共にしていた少年の哀れな姿を見ることは苦しかった。


「敵だというのに同情するとは、やはりお前はやさしいな。レミィ」


 突然虚空からアルヴィースの声がした。眼前の空間が裂け、声の主がゆらりと姿を現した。


「今度はお前が相手かよ…………。あの時は引き分けたが、今度はしっかり勝たせてもらうぞ」


「アルヴィース。貴方がここにいるってことは……」


「フ。焦るな二人とも。この島での私の役目は終わったんだ。お前とは個人的に一戦交えたい気持ちもあるが、それはまた今度だ。そしてレミィ、私が戦っていた桜花の妖術使いならば……「安心してくれ、僕は無事だよ」」


 アルヴィースが言い終わるより先に、その背後にもう一つ空間が裂け、タツミが姿を現れ、その手に握った抜身の脇差をアルヴィースの背中に突き付けたままで笑った。


「…………ま、そういうことだ」


「いくら敵意がないとか言われても、襲撃者を野放しにしておくわけにはいかないからね。これぐらいの備えはさせてもらうよ」


「あの……話が見えないんですが……」


「そうだそうだ。あんたらも戦っていたんじゃないのか?」


 レミィ達の疑問は当然のことだった。刃物を突き付けているとはいえ、タツミには最低限の緊張感しかなく、刃物で脅されている側のアルヴィースにしても、反撃の為の魔法を使おうとする動きは一切感じられないのだ。


「まぁ、な。ただ、さっきも言ったが、私の役目は済んだ。魔王軍の他の連中がどうかは知らないが、少なくとも私はこれ以上戦うつもりもない。そこのロンディルシアを回収して、潔く退散するとしよう」


 アルヴィースが右手を鳴らす。


 横たわり、今もなお呻き続けるロンディルシアの下に異空間への穴が開き、彼の身体は呻き声を残してその内へと沈んで消えた。


「では、私もこれで去るとしよう」


 フッと小さく笑い、アルヴィースの足元に魔法陣が広がり、彼の姿が蜃気楼の様に揺らいで透けていく。


「ま、待って……! アルヴィース。あの森で、あなたは私達を殺せる状況で殺さなかった。今だって、背後から襲っていれば、私は死んでいたはず。なのに、あなたはそれをしなかった。タツミとの戦いだって、私が見ていた限り、本気の戦いじゃなかった。だったらあなたの目的っていったい何なのですか……!?」


 レミィの問いに、薄れていくアルヴィースの姿が元に戻った。


「…………そうだな……。ここまで匂わせておいて答えないのは流石に卑怯か。いいだろう。答えてやる。私の目的は、お前を殺すことなどではない。私が殺すのはもっと大きなもの。私は……ブラックロータスというこの組織自体を殺す。それが最終目標だ」


「え……?」


 予想外の答えだった。


「今回の襲撃で私はお前を試した。ロンディルシアに勝てるかどうか、オリジン・アーツなどなくても勝てるのかどうかを。結果は見ての通り、お前は見事に勝って見せた」


「……正直あなたの真意はよくわからないけど、ロンディルシアに勝てたのはライナがいてくれたからで…………」


「いや、それでいい。一人ではなく二人だからこそ良い。オリジン・アーツに慢心した今のブラックロータスには結束がない。あのロンディルシアのように、自分こそ最強だと驕り高ぶった結果がこのザマだ。だからこそ、私はこの腐った組織を作り変える。レミィ。お前にはいずれ…………いや、この話は今すべきではないか。とにかく、お前の質問に対する答えは言ったぞ」


 再びアルヴィースの姿が揺らぎ始める。


「待って! もう少し話を!!」


 レミィが叫ぶ。だが、今度はもうアルヴィースは止まらない。


「さらばだ、レミィ。次に会うのはおそらく魔王軍との決戦の地だろうよ。それまで鍛錬を怠るなよ」

 

 最後にそう言い残し、アルヴィースの姿は空気に溶けるように消えた。消える間際、レミィはアルヴィースが自分に向ける視線がほんの少しだけ和らいだように感じた。


 



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