原初に抗う意思
爆発と閃光、そして轟音が息を着く暇もないほど濃密に辺り一面を満たしている。
その中心に立つのは二人の魔法使い、レミィとロンディルシアだ。レミィの放つ妖術とロンディルシアの放つオリジン・アーツがぶつかり合う度に、巻き起こる爆発が空を軋ませ、大地を揺らす。今、二人の実力は全くの互角に近い。
それが、ロンディルシアには納得できなかった。
オリジン・アーツを使えない出来損ないのレミィが、ブラックロータスの戦闘員の中で最年少ながら、実力上位に位置する自分と対等に渡り合っているという事実に対する苛立ちと憎悪が、一発魔法を撃つごとに積み重なっていく。
「いったい……なんなんだよ! その力は……!」
あり得ない。ブラックロータスが最強の魔法使いの集団と評される所以は何もオリジン・アーツが魔力消耗無しに撃てるというだけではない。一般の魔法使いが放つ最上級魔法を軽く超える程の威力と応用性。それらを含めてオリジン・アーツは最強なのだ。
自分という最強クラスの魔法使いが放つ最強のオリジン・アーツの連撃を、レミィは詠唱すらないただの魔法で打ち消している。見下してきた存在が、どういうわけか自分と同じ位置で戦っているのが不愉快で仕方がなかった。
ロンディルシアは知らない。レミィの魔法が、彼女なりに考え、試行錯誤の末にどうにか組み上げた、魔法と妖術のハイブリッドであることを。そして、その性能は術者たるレミィの意思で大きく跳ね上がることを。
「今度こそ、死ねぇっ!!!」
憎悪を纏った絶叫をあげて、ロンディルシアは今までで最大の火球を作り出し、レミィへと発射した。ただの火球ではなく、その周囲を風の膜が覆っている、二種類のオリジン・アーツの最終応用系ともいえる一発。炸裂した瞬間に炎と風は混じり合い全てを焼き尽くす業火となる巨大な火球が、通過するだけで周囲の草木を焦がす程の炎と風の塊が、レミィの真正面へと向かっていく。
「…………!!」
レミィは避けない。おそらくこの戦闘中、ロンディルシアが放った攻撃の中で最大の炎を相手に避けることなく真正面から立ち向かう。
詠唱はいらない。両手を炎に向け、その心に意思と闘志を燃え上がらせる。こんなところで死ぬわけにはいかない。負けるわけにはいかない。その思いを水の魔力に練り込み、両手から放つ。
生み出されたのは小さな宝石のような盾。サイズから言えば、レミィの身長の三分の一ほどしかない、迫り来る火球から考えればあまりに小さな盾。
だが、それで十分だった。
火球が盾に炸裂した瞬間、そこから幾重もの水のベールが溢れ出し、爆発の勢いよりも早く火球を包み込んだ。
蒸気が溢れ、二人の姿を覆い隠す。
まだだ……! まだあの出来損ないは死んでいない……!
手ごたえの無さにロンディルシアは表皮が破れる程に唇を噛んだ。しかし、流石はブラックロータスの中でもトップクラスと言うべきか。無限に湧き上がる苛立ちの中であっても、彼は魔法の面に関してはあくまで冷静だった。手ごたえの無さを感じた直後、彼は既に第二射の発動準備に入っていた。
蒸気が消えた時、レミィは一切元の位置から動かず、地面を踏み締めて立っていた。ロンディルシアに向けられた彼女の両手には白銀に輝く魔力の塊。何の属性も持たない無属性、しかしそこに込められた意思は計り知れず、空気を震わせている。
「ロンディルシア。私はあなたには負けたくない。もう誰も悲しませたくない……!」
全身に気迫を纏い、レミィの手から白銀の魔弾が放たれた。
二つの魔弾はロンディルシアへと迫りながら一つに纏まり、やがてその形状を一本の白銀の矢へと変えて、ヒョウと風を切って飛び進む。
「お前がどんな魔法を身に着けようと! 僕のオリジン・アーツは最強なんだ!!!」
レミィの気迫に負けじと叫び、ロンディルシアは既に準備の整った第二射を放つ。
白銀の矢を迎え撃たんと、ロンディルシアは火球を放った瞬間に追加の魔力を注ぎ込む。火球は彼の魔力に答えるように眩い輝きを放って収縮し、レミィの身長ほどのサイズを誇っていた火球は瞬く間に豆粒ほどに小さくなって矢の軌道を正確に捉えて飛んだ。
片や確固たる戦いへの意志を秘めた一矢。
片や強大な熱量を極小サイズに凝縮した、一点突破において最大威力の一発。
現状二人の出し得る限界に近い二つの魔法は、互いに吸い寄せられるように互いの射線上をピタリとなぞり、衝突した。