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感情の殻を破る者

 轟音を撒き散らし、巨大な火柱が空を焼いた。


 ロンディルシアが放った炎と風、二つの属性を織り交ぜた新たなオリジン・アーツは、レミィが張った結界に触れた途端にその内部に秘めた熱量を一気に解放し、結界とその内側に守られるレミィを焼き殺さんと巨大な熱風の渦で結界を全て覆いつくし、燃え上がる。


「さぁさぁ! どうだいレミィ(出来損ない)! 君のお兄さんは実に役立つものを残してくれたよ。彼の炎にもう一度身体を焼かれる気分はどうだい!!!!」


 ピシピシと至る所に亀裂が走る結界の外、勢いの衰えることなく燃え盛る炎の向こうから、ロンディルシアの叫び声が聞こえてくる。正直なところ、レミィの張った結界はもう長くは保ちそうにない。ミュラーを殺したというロンディルシアの言葉で生まれた精神の綻びは深く、それによる結界のダメージは、この炎の中での修復はほぼ不可能と言っても過言ではなかった。


 いくつものひび割れからは容赦なく熱風が入り込み、全身を少しずつ焼いていく。その痛みを、レミィは孤独に耐えるしかない。


 耐えながら、思う。やはりまだ、彼らには敵わないのだろうかと。そして、そう思うたびに、結界に新しいひび割れが生まれていく。

 

 妖術にしても、リシュアと違ってまだ完全に制御できているわけではない。成功するかしないかはだいたい五分五分。この結界はまだ成功に近い方だった。


 ビシリと大きな音を立てて結界の正面に、誰が見ても致命的と分かる程の亀裂が走る。もう、耐え切れない。


 …………やっぱり、無理なのかな……。私が強くなろうなんて。


 今しがたの深い亀裂を中心に細かなヒビが勢いよく広がり、結界はまるでガラスのようにあっけなく砕け散る。その瞬間を待っていたと言わんばかりに、炎が一気に押し寄せる。世界の速度がやけにゆっくりになって、もうじき訪れる死を実感する。


 嫌だ。


 そんな感情が生まれた。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。こんなところで。あんな奴に殺されるなんて嫌だ。


 それは今まで抱いたことのない感情だった。それは炎の向こうで笑っているであろうロンディルシアに対する怒りであり、闘志。


 レイトやリシュア、ライナに出会う前のレミィであれば決して抱くことの無かった、否、抱いていたとしても、無意識に押し殺して消していた感情がレミィの中で、迫り来る炎よりも激しく膨らんでいく。


 そして。


「私は……私は……」


 押し寄せた炎がレミィの身体を包み込んでいく。


 だが、その炎がレミィの身体を焼くことは無い。


 心に渦巻き始めた感情に呼応するように、純白の輝きが彼女の身体から溢れ出し、四方八方から襲い来る炎をものともしない鎧となってその身体を覆う。


 私は…………っ!!!

 

 脳裏に浮かぶのは、ここまで共に旅をして来た皆の顔。刹那、レミィの心の中で渦巻いていた感情が一気に爆発した。


「絶対に! 負けたくないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」


 瞬間だった。彼女の身体を覆っていた純白の光。それが大きく膨らみ、彼女の周囲に燃え盛る炎の渦を瞬時に飲み込み、掻き消した。


「いったいどういうことだよ……! 絶対に殺せたと思ったのにさぁ!!!」


 一度ならず二度までも、彼女を殺すには十分だと確信した魔法を凌ぎ切られ、ロンディルシアは叫ぶ。彼の視線の先には、服のあちこちを炎で焦がし、全身にいくつもの火傷を負いながらも、その瞳に揺るがぬ覚悟と闘志を秘めレミィが、無数の魔法陣を展開した臨戦態勢で立っていた。





 



 

 


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