双眼のオリジン
「わーお。やっぱりあの二人の戦闘はすごいねぇ。いい加減出来損ないも僕に攻撃してきたらどうなのさ!」
アルヴィースとタツミが互いに放った術と術が生み出した激しい爆発を背に、ロンディルシアは相変わらずレミィを見下したような態度で言い、言いながら空中に生み出した五色の魔法陣から五属性の魔法の光線をレミィを守る結界へと照射した。
だが、照射された光線は蓮華の花の結界の表面に吸い込まれ、一筋のひびを入れることすら敵わず、呆気なく霧のように散って消える。
「あーもう……。弱いくせに守りだけはそれなりなんだから。ムカつくなぁ…………。仕方ないな、ぞれじゃあこれを使わせてもらうとするよ」
原初の神嵐旋でも、通常の高位魔法でも突破できないレミィの結界に、ロンディルシアはわざとらしく溜息をついて、右手の掌を見せつけるようにレミィへ向けた。
「!? それは……!」
そこには、あるはずの無いモノが在った。ロンディルシアの右の掌の中心でギョロリと動く深紅の眼。
普通ブラックロータスの人間は、オリジン・アーツの為の第三の眼を一人につき一つ、体のどこかしらの部位に所有している。レミィは右の掌に、レミィの兄ミュラーやロンディルシアは左の掌に、そしてアルヴィースはその胸の中心に、各々一つずつ、何かしらの属性に対応した眼が在る。
だが。
「なぜあなたが、二つ目の『眼』を持っているんですか……」
今、ロンディルシアは両の掌に一つずつ、計二つの第三の眼を持っているのである。
レミィの知る限り、ロンディルシアが、生まれつき第三の眼を二つ有していたという記憶は無い。となれば彼が二つ目の第三の眼を持つ理由はただ一つだった。
「……ブラックロータスの一族の誰かから奪ったんですね?」
複数の第三の眼を手に入れる方法。それは至極簡単な話で、殺して奪う。ただそれに尽きる。
「ああ、そうさ。丁度都合よく死体が手に入ったから、有効活用させてもらったんだ。彼も喜んでいると思うよ? 原初の大神炎」
向けられた右手の眼から、紅蓮の炎が迸った。
灼熱の炎は一つの巨大な球となってレミィの結界に炸裂する。ピシリと、今まであらゆる攻撃に対してビクともしなかった結界に大きくヒビが入り、隙間から入り込んだ熱風が、レミィの衣服の裾をチリチリと焦がし始めた。
「それは……その技は…………兄さんの……!」
威力からしてみれば原初の神嵐旋と大差のない筈の攻撃だったが、妖術は何よりも感情がその強さに影響する術。精神が少しでも不安定になれば、たちまち結界の強さも低下するのだ。それほどに今、レミィの感情はグラグラと揺れ始めている。
なにしろ、彼女は知っている。ロンディルシアの使用したオリジン・アーツの名を、その使用者の名を。たとえ自分を蔑み殺しかけた人間であっても、幼いころから憧れ、その背中を追い続けた兄、ミュラーを。
ロンディルシアの右の掌に収まる眼は、ミュラーの第三の眼で間違いない。そしてそれはつまり、ロンディルシアがミュラーを殺したといことに他ならない。
「いやぁ。あの時お前を殺し損ねた罰として、僕もミュラーも一時は処罰されかけたんだけどさぁ。あいつを殺して手土産として持って帰ったおかげでこうして生きてられたんだよ。おまけに新しい眼も手に入ったし、ミュラー様様ってわけだね! あれ? もしかして怒ってる? アレだけ焼き殺されかけてたってのに、優しいなぁ、お前は。だけど、そういうところがやっぱり出来損ないなんだぜ?」
ゆらゆらと揺れながら、ロンディルシアは両の掌をレミィに向けた。右の眼が炎を、左の眼が風を生み、その中心で紅蓮を帯びた風の刃が舞い始める。
「知ってる? 火と風って、すっごく相性がいいんだよ!!!」
狂気と歓喜に満ち溢れた声でロンディルシアは叫び、二属性のオリジン・アーツが絡み合って生まれた熱風の刃の塊を、レミィに向けて撃ち出した。




