夢の継手と冥府の兵士
更新遅れて申し訳ありません。正直に言うとPS4のスパイダーマンばっかりやってました<(_ _)>
「なるほどね。話はだいたい分かったわ。反乱のことを知らなかったのなら、いくら貴方でも同じ魔族を、ましてや同じ王に仕えていた奴の攻撃を常に警戒することなんて出来ないわよね。私もそれが原因でここにいるわけだし」
あの後三人は、かろうじて全壊を免れた民家に移動し、ジルバの街の現状、そしてガルアスの反乱について情報を交換し合った。
その場で初めてガルアスの反乱についての詳細を知ったヴァルネロは、ただただ怒りと悔しさに全身の骨格をカタカタと震わせている。
「先代の時からガルアスには時折危険な気配を感じることがあったが、まさか謀反とは……奴も落ちるところまで落ちたか……」
「えぇ、わざわざこのジルバを襲ったという時点で、既にガルアスの仮面は剥がれたも同然。奴は父の築いた理想をすべて無かったことにして、再び魔族が多種族すべてを支配する世界を作ろうとしている。おそらくこの予想は正しいわ」
「……しかし、無礼を承知で言わせてもらうが、おそらくはガルアスの下にかつての四将の面子が揃っているであろうこの圧倒的不利な状況で、リシュア殿はどう戦いを挑むおつもりだ。四将の配下の魔族は数、戦闘能力ともに魔王軍の中でずば抜けて高いことはあなた様も承知のはず……たとえわれら四帝が加わったとしても兵力差はそう易々と覆ることは……」
ヴァルネロの言葉を途中で遮り、リシュアは微笑みながら言う。
「もちろん、そんなことは百も承知よ。当然、魔族同士の戦になれば兵力に欠けるこちら側は圧倒的に不利なのは当然のことよ。……でもね、仮に私たちの側に付くのが魔族だけじゃなかったら、話は変わってくるでしょ?」
リシュアの発言に、一瞬ヴァルネロは言葉を失った。彼女の発言の真意は魔族と他種族の連合を形成するということに他ならない。
が、しかしである。仮にガルアスを共通の敵として、手を組むことに成功したとしても、真に連携しあう形でなければ数の優劣など瞬時に霧散する。しかも敵側の将がかつて一騎当千、一騎当億の戦の天才と名を馳せたガルアス=ユースティスであるとなればなおさら、不完全な連携のスキは的確に突き崩されるに違いない。
そもそも、魔族と他種族が信頼しあう世界は、自分たちが心から忠誠を誓ったあのルドガー=ヴァーミリオンでさえ、魔王としての生涯をかけてもたどり着くことが叶わなかったものなのだ。それを今、彼の娘が、まだ王としての覚悟も、世界の広さも知り始めたばかりのまだ未熟なリシュア=ヴァーミリオンが何の躊躇もなく言い切ったのである。
「……やはりあなたはあの人の娘だ。魔族と他種族が共に手を取りあえる世界などという絵空事を随分と簡単に言う……」
そう。何千年という時間とともに刻まれた魔族と他種族の溝を埋めることなどほぼ不可能に近いのだ。ガルアス達が聞けば、腹を抱えて笑い転げるに違いない。
が、ヴァルネロは笑わない。笑う理由など彼のなかには微塵も存在しない。そもそも今ここにいる自分は、その絵空事を掲げたルドガーの信念に敬服したからで、リシュアの発言を笑うことはすなわち、亡き先代を、そして彼の信念を支え続けた自分を笑うことと等しい。
「……だが、それでこそ魔王。先代が成しえなかった夢を娘たるリシュア殿が再び追い求めるというのであれば、私はあなたの求める新世界のためにこの身、この刃を振るおう」
その宣言と共に床に剣を突き立てるとヴァルネロはリシュアの前に跪き、深く頭を下げた。
「顔をあげて、ヴァルネロ。あなたにはまだやるべきことがあるんじゃないの? 一通りこの街の惨状は見たけど、街にあった遺体はほとんどが武器を手にした男や魔族のもの。きっと女子供は奴らに捕まっているんでしょ?」
リシュアの言葉にヴァルネロはゆっくりと顔を上げ、立ち上がる。眼こそないものの、彼の眼窩の奥には怒りと悲しみが渦を巻き、底知れぬ漆黒に満たされている。
「……リシュア殿にレイト殿。しばし時間を頂戴したい。これより先はジルバの領主としての私の勝手な仇討ちの戦ゆえ……」
「ったく……本当バカね、貴方は。何を一人で背負い込んでるんだか。ほんとこのバカッ!!」
言うのと同時にリシュアはヴァルネロの頭を思い切り叩いた。
「ぐおっ⁈ いきなり何をするリシュア殿!」
「何あなた一人で突っ走ろうとしてるのよ……。だいたい、この街は父の理想の縮図なんだから、私だってここを襲撃させたあいつには相当頭にきてるのよ。私たちにもその仇討ち参加させなさいよ。それに、レイトにはここで魔族との戦闘を経験してもらっておきたいのよ」
突然話の方向を自分に向けられてレイトはギョッとする。敵が占領する城に乗り込む以上、大量の魔族との戦いは必至なのは馬鹿でもわかる。確かにリシュアの言う通り、早々に魔族相手の戦闘経験を積む絶好の機会ではある。が、しかし、
「ゾンビの次にいきなり魔族の大軍はさすがに難易度跳ね上がりすぎでは……」
「昨日以上にリフレッシュをかけまくってあげるから大丈夫よ。レイトはそんな心配せずに安心して斬られながら斬ればいいのよ」
「んな無茶苦茶な……!」
呻き声とともに噛みつきと引っかき攻撃位しかしてこないゾンビならまだしも、大量の魔族、しかも四将ガルアス配下の魔族となればもはやレイトは負ける気しかしない。
今、レイトはあのソルムでリシュアの誘いにホイホイと乗ってしまったことを、あるいはランドーラで無理やりにでもリョウジをパーティーに引き入れなかったことを猛烈に後悔し始めていた。正直な話、今すぐここから逃げたい気分である。
が、幸いか不幸か、レイトがそれを実行に移す前に、ヴァルネロが口を挟んだ。
「ククク、お二人、特にレイト殿はどうも勘違いをしているようだ」
「勘違い? でも、人数的に俺が大軍を相手にするはめになるのは間違いないように思うんだけど……」
「ハハ、さすがの私でもこの三人のみであの城に乗り込むようなことなど考えてはいない。ましてや一人で突っ込むなど、自殺行為も甚だしい。ゆえに、こうするのだ」
ヴァルネロの眼窩にギラリと青い光が灯る。それと同時に彼の足元から同じく青い魔法陣が展開され、家屋の壁をすり抜けて広範囲に広がっていく。
「冥府の淵より四帝ヴァルネロ=ヴィルバッハが命ず。覚醒の機は満ちた。北に剣、南に槍、西に鎧、東に盾、そして此処に不滅の闘志を。我らは死をも砕きし不屈の戦士なり。武器を掲げ、咆哮せよ。進軍し、蹂躙せよ。今ここに、冥界の扉は開かれた。死せる同志の仮面舞踏会」
両手を胸の前に組み、まるで祈るかのようなヴァルネロの詠唱が終わると、魔法陣から無数の青い光の粒子が浮き上がり、蛍のように宙を舞い始めた。それらは瞬く間にいくつもの光の塊へと集まり、人型の輪郭をそこかしこに形成していく。
輪郭はみるみるうちに実体を持ち始め、一分としないうちに三人の周囲には千は軽く超えようかという数の、鮮やかな鎧や軍服に身を包んだ戦士達が、皆揃ってヴァルネロの方に跪き、頭を垂れていた。
「さぁ、行こうか二人とも。これよりかつての我が軍勢をもって敵の城を叩く。いざ、反撃ののろしをあげようぞ!!!」
「「オォォォォオオオオオォォォォオォォオオオ!!!!!」」
城を取り巻く瘴気すら食い破らんばかりの咆哮が轟き渡る。四帝ヴァルネロの剣が、ついに敵の城へと向けられたのである。
いかがだったでしょうか。魔法とかの時の詠唱を考えるのがすごい楽しいですW
今回は区切りのいいところで切りましたが、次回、本格的に戦闘描写に入る予定です。<(_ _)>
良ければ感想とか評価とかお願いします<(_ _)>