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参謀の読み(前編)

 「チィッ……でたらめな能力使いやがって…………」


 巨人を見上げてリュウカが唇を噛んだ。巨人の向こうのギムレーはもうとっくにこの場所から退却してしまったに違いない。その証拠に、上空のサキュバスはいつの間にか障壁に守られた船の舳先に腰掛けて呑気に大きな欠伸をしている。


「すまんな。この襲撃の目的の一つはギムレーのストレス発散だったのだ。それゆえ、この港周辺の村々の兵士共には彼の玩具になってもらった。まぁ、彼奴が一番楽しんだのはそこの青年との戦闘だろうが。とにかく、これ以上は彼の勝手な行動に付き合う気はなかったのでね。早々にお帰り頂いたというワケだ。もっとも、あの疲れ具合ではろくな行動は起こせんだろうが…………」


「っざけんな……! そんなくだらねぇことの為に村を壊して皆を殺したって言うのか……!!」


 あまりに身勝手な襲撃の理由。この国のことなどほとんど知らない部外者のレイトであっても、聞くほどに胸糞悪くなるようなベルエルの話をリュウカが、この襲撃によって守るべき村人や部下を殺された当時者たる彼女が耐えられるはずなどなかった。


「…………殺す」


 地の底から響くような低く、殺意と憤怒の渦巻く声を溢し――――――――瞬間、一陣の暴風を残し、リュウカの姿がその場にいる全員の視界から掻き消えた。


 そして、巨人の頭上に影が落ちた。


 その影が、天高く跳躍したリュウカによるものであるとベルエルが気付いた時には遅く、高さ三十メートルはあろうかという巨人は、断末魔を上げる暇もなく、脳天から真っ二つに両断され、砂のように細かな粒子となって地面に吸い込まれるように崩れて消えた。


「感情に任せた攻撃とは……賢くないな、君は」


 大太刀の刃を地面に深々と抉って着地したリュウカに、ベルエルはつまらなそうに言う。


「……安全地帯から喋ってんじゃねぇ。文句があるなら、お前も武器の一つでも手に取って私と同じ地面に立てよ……!」


「おやおや、手厳しい。だが、あいにく私の武器は今までに、そしてたった今君が両断した死霊兵なのでな。刃物や砲弾は門外漢だ。そもそも私は参謀。わざわざ危険な戦場に降り立つ意味などない」


「……そうかよ。それじゃあそのゴミしか吐けねぇ口閉じて、大人しく待ってろ。今度こそ障壁をぶっ壊してお前の首を叩っ斬ってやるからよぉ!!」


「ほぉ? それはそれはいい意気込みだ。だが、今しがたの巨人がたった一体だけだと勘違いされては困るな」


 全身から殺気を迸らせるリュウカを、「恐れるに足らず」とでも言いたげな様子で見降ろしながら、ベルエルは右手を天に掲げた。


「――――!!!!」


 直後、周囲を取り巻く死霊兵達の身体が一斉に怨嗟の叫びを響かせながら、数多のどす黒い粒子となって崩れ、直ぐに巨大な人型へと再収束してゆく。


「……クソ…………」


 ついさっき、リュウカが両断したものと同じ巨大な死霊兵。それが数百という規模でリュウカとレイトの周りに聳え立ち、幾重もの肉壁となってベルエルへの道を阻んでいる。


「さて、セシリア。ここから先は私の独断でこの地を落とすことにするが、貴様はどうする?」


 目の前に立ち並ぶ巨人達の背中をチラリと見やり、ベルエルはフヨフヨと近寄ってきた、セシリアという名らしいあのサキュバスに問う。


「そうねぇ。私はアルヴィースの作戦がどうなっているか見に行って、そのまま城に帰ろうと思っているのだけど。リベルのヤツが手伝ってくれなかったせいでここにたどり着くまでにえらく時間がかかってしまったし、正直疲れたわ。で、ベルエル、あなたはいいのかしら? ガルアス様からは、桜花を攻め落とせという命令は下されていないはずだけど」


「フ。だから言っているだろう? ここから先は私の独断だとな。あそこで怒り狂っている鬼が桜花の兵を率いる将だとすれば、この国を攻め落とすのはそう難しい話ではないだろうと、私の勘がささやいているのだ」


「だからって、万が一のことがあったらどうするのよ。貴方はガルアス様の右腕。何かの手違いがあれば、皇国攻めに支障を来すのよ?」


「なに、案ずるな。危うくなれば即座に離脱するさ。いくら私の兵が倒されようと、元は何処の馬の骨とも知らぬ死者の魂なのだ。私にとっては何のデメリットもない」


「……まぁ、貴方がそこまで言うのなら。以降の采配に口出しするつもりはないわ。それじゃあ、また城で会いましょう」


「あぁ、さらばだ」


 空間に現れた黒い裂け目の中に、セシリアはその身を沈めて消えた。ベルエルは裂け目が完全に閉じるのを見届けてから、巨人の方へ目を向けた。奥の方では既にリュウカと巨人の戦闘の口火が斬られ、巨人の肉体が切断される音が生々しく聞こえてきている。


「さて、桜花の若い将の力、どれほどのものか…………!」


 考え得る最善の策を頭の中に走らせ、ベルエルは一人静かに笑っていた。

 



 





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