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獣人ギムレー

 駆けだしてすぐ、リュウカが吹き飛ばした死霊兵達が次々に起き上がり、船へと向かうレイトの前に再び壁を造ろうと群がり始めた。


 千切れかけた頭は呻き声をあげ、あり得ない方向にねじ曲がった腕は、それでもなお錆付いた武器を振り上げる。

 

 あんな姿になってもまだ立ち上がるのか……!


 死霊兵達の中に囚われた魂の味わっているであろう苦痛を想像して、唇を噛む。皆、意思とは無関係に操られ、戦わされている。だが、ここで同情してはいけないのだと、改めて自分に言い聞かせ、レイトはスミゾメを握る手に力を入れた。


「ごめんな。ここで止まるわけにはいかないんだ……!」


 襲い掛かってくる死霊兵を躱し、あるいはその身体を次々に斬り伏せて、船の前に辿り着いた。背後ではたった今倒したばかりの死霊兵が、肉体の再生も中途半端なままで起き上がり、ゆらゆらと不気味に揺れながら近付いて来る。足元に転がる死霊兵も既に再生を始めている。落ち着いて障壁を攻撃する時間はほんのわずかしか残されてはいない。


「ふぅぅぅぅぅゥゥ……」


 レイトはスミゾメの切っ先を障壁の一点に向け、刺突の構えをとった。リュウカ曰く何層にも重なった障壁を全て破壊するには一点突破の刺突しかないと、そう考えたのだ。


 全身に滾る魔力をスミゾメを握る腕へと流し込む。


 腕に浮かぶ紋様は、注ぎ込まれた魔力によって蛇の如く蠢き、漆黒の光を溢し始める。


「おぉ……これはなかなか……」


 素知らぬ顔で魔導書を眺めていたベルエルも、眼下で障壁を破らんと剣を構えるレイトから溢れ出した尋常ならざる漆黒の魔力に思わず感嘆の声を漏らした。


「さすがにこれは破られるやもしれんな……」


 そして、おもむろに素早く二回、両手をパパンと打ち鳴らした。


「オォォォォォっ……」


 レイトは、そんなベルエルの動きなど知る筈もなく、スミゾメを構えたまま今の自分が出し得る最大の力を腕とスミゾメに溜めていく。足元では死霊兵がもぞもぞと動き始め、ザッザッザと、背後から迫りくる足音も大きくなってくる。


 焦る気持ちを抑え、深く息を吐く。


 イメージするのは槍。ありとあらゆる盾を穿つ槍の一突き。


 …………そこだ……!


 カッと目を開き、レイトは全神経を腕に集中させ、溜め込み、練り上げた力を障壁へと真っ直ぐに開放する。


「うぉぉぉぉぉらぁぁぁぁッ!!!!!」


 ありったけの力と気合を込めたレイトの刺突が一筋の黒い閃光となって障壁へと走る。命中すればほぼ確実に障壁の全てを破壊し得ると、術者たるベルエルでさえも予感したほどの一撃。


 だが、まさに守りを突破されようかというこの瞬間に、船の上のベルエルは、あろうことかニヤリと笑みを浮かべた。


「!?」


 それは一瞬の出来事だった。レイトの頭上から銀色の斬撃が、流星の如く勢いで降ってきたのである。


「イヤァハァァァァァッ!!!!!!」


 狂気染みた奇声と共に真上から降ってきた斬撃を無視することなどできず、レイトは刺突のベクトルを無理やりに頭上へと振り上げ、斬撃を受け止めた。


「……ぐっ…………」


 斬撃の正体は一人の獣人の男と、その両腕に備わった銀の刃を持った鉤爪だった。


「へっ。今の一撃を受け止めるたぁなかなか……。おい、参謀さんよぉ。俺を呼んだってことは、この人間のガキが強いってことでいいんだよな?」


 銀色の長髪をなびかせながら軽い足取りでレイトの目の前に着地した獣人は相変わらずマストの上に腰掛けたままのベルエルの方を見上げて声を張り上げて聞く。


「あぁ、その通りだ。先の一撃、貴様の攻撃が無ければ間違いなく障壁は全て突破されていただろう。つまりはそれほどの相手ということだ。せいぜい死なんように楽しんでくれ」


「あぁ、ありがとよ」


 ベルエルの返答に獣人はニィと口元を釣り上げながら、レイトの方へ向き直ると、両腕の鉤爪を構えた。いつの間にかレイトの方へ集まりつつあった死霊兵達は後退し、十メートルほどの距離を置いて二人を取り囲み、さながら決闘場の様な空気を作り上げている。


「お前……いったい何者なんだ……?」


 目の前のに立つ獣人は間違いなく魔王軍の仲間だ。それは船の上の男との会話からして明らかだった。


「あ? 俺はギムレー。こう見えて魔王軍の四将の一人さ」


「四将……!?」


 まさかこの東方の地で魔王軍の幹部クラスと一対一で戦う羽目になるとは。レイトはチラリとリュウカの方へ視線を送ったが、無限に再生する大量の死霊兵達をたった一人で引き受けている彼女の助けは借りれそうにもなかった。


 ……ここはどうにかして俺一人で切り抜けるしかねぇ……


 既に強化魔法を発動してから五分以上が経過している。効果が切れ、意識を失うまでの十分に満たない僅かな時間で四将の一角を倒し、さらに船上の術者を倒す以外に生き残る道はない。


 レイトはスミゾメを体の正面に構え、ギムレーに意識を集中させる。その様子にギムレーは満足げに頷くと、


「お! そっちもやる気満々じゃねぇか!! あの参謀は好きじゃねぇが、折角設けてくれた戦いの場だ。早速殺し合いと行こうか!!!」


 言うが早いか地を蹴り砕き、銀色の残像を残して真正面からレイトの懐目掛けて襲い掛かった。




 




 


 



 



 

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