魔剣、雑兵を穿つ(前編)
「うぉぉぉっ! 着地ィッ!」
グシャァッ!
テンション高めの叫び声を上げ、運悪く落下する二人の真下にいた一体の死霊兵の身体を鎧ごと粉砕し、リュウカと、そして彼女に抱き抱えられたレイトは着地した。
「「「…………」」」
あまりに場違いな登場の仕方に、束の間周囲の敵達が動きを止め、リュウカ達二人をボーッと見つめている。
「し、死ぬかと思った……」
「へっ、散々私に斬られて吹っ飛ばされて死に目にあってた癖に、今更これくらいでビビってんじゃねぇよ。ほら、そろそろ敵さんも正気に戻ってきてる。私はこいつらを生み出してる術者を探す。こっからは暫く別行動だ」
「別行動って、俺は何をすりゃあいいのさ」
「ンなもん、決まってるだろ。思う存分スミゾメを振るって群がる敵どもをぶった斬る。それ以上でもそれ以下でもねえ! さぁ、行くぜ!」
言うが早いか、レイトの腰を掴んでいたリュウカの腕が外れる。瞬間、彼女の姿が残像を残して消え、周りを埋め尽くす死霊兵達の壁。その一角が血風と共に吹き飛んだ。
「な……」
其れが、リュウカの突進と大太刀の一振りによるものだと理解するまでにレイトは五秒ほど時を要した。
せっかく動き出そうとした死霊兵達は、現実離れした出来事に再び動きを止めて右往左往している。どうやら死霊といえど理性はあるらしい。
「うぉぉぉっ」
リュウカの勢いは止まらない。姿こそ見えないが、戦場に轟く彼女の咆哮が、そして何より斬られて空へ吹っ飛ぶ無数の死霊兵がその激しさを物語っている。
……全然本気じゃなかったのか……。
今しがたのリュウカの猪突猛進っぷりに、レイトは悟る。修行で手合わせした時のリュウカの力は、全力からは遥かに遠く、予想以上の手加減をしてくれていたのだと。
分かってはいたけど、まだまだ壁は高いな……。
悔しくない、と言えば嘘になる。だが、ここまで悔しいと一周回って清々しささえ感じる。
今さら立ち止まっても仕方ない。今できることを全力でやる。もうそれしかない……!
遠くの方でリュウカにぶっ飛ばされた敵達を眺めながら、レイトは一つ深呼吸をつく。
……それに、そもそもこの状況で立ち止まってる場合じゃねぇ!
そう。危うく自分の世界に浸りそうになったレイトだが、思い出す。
そういえばここは戦場だった。結構な時間リュウカの行動に動揺していた周囲の死霊兵達も続々とレイトを新たな敵と認識し始めたようで、刀、両手剣、斧、槍、双剣と、統一感のない武器を各々構えていく。
周りをぐるりと囲まれ、一見すれば圧倒的多勢に無勢。
だが、
こいつら……スキだらけだ……。
三百六十度、死霊兵の気配に意識を集中させるうち、感じた。レイトを取り囲む死霊兵達には気迫がない。武器を構えてはいるものの、彼らの殆どが素人同然の構えである。数人目つきの鋭い者もいるが、それでも今までレイトが剣を交えてきた相手と比べれば、その気迫は微かなものだ。
だからといって油断するつもりは微塵もない。相手がどうあれ、今自分の持ちうる全力で剣を振るうのみ。
「行くぞ、死霊兵!」
刃に魔力を集中させ、叫ぶ。この修行で会得した唯一の妖術「憑刃」によって鋭さと破壊力を増したスミゾメを脇に構え、
「ウォォォォォッ!」
咆哮一発、正面で両手剣を構えた死霊兵へと、レイトは足裏に込めた力を爆発させた。