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リュウカの信条

 吹き荒れた風が止み、目を開けたレイトの目の前に広がるのはつい先程まで立っていた平原ではなかった。


 荒野。一言で表すならばそれが一番しっくりくる。


 彼方此方に大小様々の石が転がり、埃っぽい風が頬を撫でていく。


「っよし。転移は成功したみたいだな。レイト、お前は大丈夫か? 気持ち悪くなってたりはしないな?」


「ああ、これといって身体に異常は起きてないよ。それより、ここは?」


「ああ、西の港から少し東に行った場所さ。この道を真っ直ぐに走れば港を見下ろす丘に着く」


 馬を走らせながらリュウカが言う。


 彼女の言う通り、真っ直ぐに伸びた道の先、砂埃に霞んだその向こうに、幾筋もの黒煙が昇っているのが見え、微かに雄叫びのような音が聞こえてくる。


「もしかしたら逸れた敵がここら辺にもいるかもしれねぇ。そろそろ剣を抜いとけよ、レイト」


「ああ、分かった」


 レイトがスミゾメを抜刀した事を横目でチラリと見て、リュウカは馬の速度を上げた。


 軽快に大地を蹴り、疾風の如く勢いで風を切り裂きながら、二人を乗せた黒馬は戦場目掛けてひた走る。


 黒煙がより鮮明になり、戦場に轟く雄叫びがはっきりと聞こえ始める。


 そして、リュウカ自慢の黒馬はものの三分と経たぬうちに、丘の上へと辿り着いた。


「よし、ここまでご苦労様。お前は城に戻って休んでな。さぁ、行け行け」

 

 労いの言葉をかけながら、リュウカが黒馬の背中をポンと叩き、帰らせる。遠ざかって行く愛馬の後ろ姿を見届けて、丘の下に広がる戦場へと目を向けた。


「おーおー、こいつは話に聞いていたよりも厄介な事になりそうだな……」


「厄介も何も……いくらなんでもあれだけの敵、この人数で防げるのか……?」


「あ? 戦う前から弱音吐いてんじゃねえよ。死んでも勝つ。それが私の信条だぜ? それに、あの兵達は早々倒れやしねぇよ」


「いや、でも、どう見ても押されてるんだけど……」 


 リュウカの言う通り、視線の先、丘の麓で戦闘中の鬼の兵士達は、決して弱くは見えない。むしろ死霊兵を次から次に斬り伏せている。


 だが、それでもなお敵の死霊兵の物量は圧倒的で、倒れた筈の死霊兵が起き上がるだけでなく、戦場の至る所で新たに召喚され続けているのである。


 いずれ物量で港を突破されるのは目に見えている。


 しかし、そんな状況でなお、リュウカの顔には絶望の顔は浮かんでいない。不安など一欠片もない。そこにあったのは意志。すなわち


「これから私とお前で押し返すんだよ、バーカ」


 決して引かないという、岩より硬い意志がそこにはあった。


「さて、と。ちょっと跳ぶから、武器落とさねぇようにしっかり掴まってろよ、レイト!」


「跳ぶ? は? え、ちょ……」


 リュウカの言葉を理解するよりも先に、彼女の筋肉質な腕がレイトの腰をがっしりとホールドした。


「いやいやいやいや、普通に走ればいいじゃないか!」


 差し迫った物凄く嫌な予感に、レイトはリュウカの背中をバシバシと叩いて訴える。だがら帰ってきたのはフフフという笑い声と、ニヤリと笑った彼女の顔。


「いいこと教えてやる。こういうのはな、何より勢いが大事なんだぜ?」


 あー、ダメだこの人、もう何言っても止まりそうにない……


 レイトの訴えなど聞く耳を持たず、リュウカが腰を低く落とし脚に力を溜める。そして、

 

「じゃ、行くぜ。目標、敵陣ど真ん中! 三、二、一……そぉぉぉいっっっ!」


 掛け声も軽快に、丘の上から戦場目掛けて、それこそ気を失いそうな速度で跳び立った。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」  


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁈」


 二人はさながら砲弾の如く勢いで空中を突き進みながら、咆哮と悲鳴の合唱を戦場へと降り注がせるのだった。




 





 



 

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