出陣
「敵襲だって? いったい何処の国の奴らだ?」
「いえ、国ではありません。敵の大半は魔族で構成されており……信じられないかもしれませんが、魔王軍かと」
「はぁ⁈ どうして奴らがここを襲いに来るんだ…………って、そうか。うちで匿っている四帝達を殺しに来たか、リシュアを殺しに来たか。そのどちらかって可能性はあるか……」
「ええ、おそらくは。すでにその旨、四帝の方々にはヴァルネロ様を通じて伝達済みであります。リシュア様達もタツミ様と共に一旦城に戻られているはずです。カムイ様はまだ外出中ですが……。リュウカ様はどうなされますか」
「んなもん聞かれるまでもねぇ、直ぐに西の港へ向かう。今から三分以内に私の武器と戦装束一式をここに持ってこい。いいな」
「フフフ、そう言われると思って、既に用意はしております」
そう自慢気に言って、ヤマトがバチンと指を鳴らすと、一陣の風が吹き、次の瞬間には二人の鎧姿の鬼が、一人は二振りの大太刀と薙刀を、もう一人は緋色の風呂敷包みを持ってリュウカの前に片膝をついていた。その横には一頭の黒い毛並みの馬。
「ハッ、さすがはヤマト。気が効くじゃねぇか。それで敵の規模は? 西の港の兵が押されるってことは、相当の大軍で押し寄せてきたんだろう?」
「ええ、侵入はボロボロの船一隻だけでしたが、敵の中に死霊魔法の使い手がいるらしく、港には既に二千近い死霊兵達で溢れているようです。一体一体は弱いようですが、いかんせん数が多く……おまけに奴ら、倒れても復活するらしいのです」
「チッ、そりゃ面倒なこった。とりあえずヤマト、お前は城に戻って守りを固めろ。西の港への侵入が陽動ということも無くはないからな。私の兵は自由に使ってくれて構わん」
「はっ!」
手早く緋色の戦装束を身に纏い、武装を終えたリュウカの命令にヤマト達は一礼を残して風と共に消えた。
「さて、面倒クセェ話になってきたが、レイト、お前はどうする? 城に戻ってリシュア達と隠れているか、それとも私と一緒に戦場へ赴くか、私はどっちでも構わねぇけど。お前が決めな」
馬に飛び乗ったリュウカが問いかける。
どちらでも構わない。彼女はそう言ったが、その真剣な眼差しから、明らかに自分を試そうとしているのだと確信する。
ここで怖気付くようじゃこの先思いやられるな。
頭の中で誰かの声が聞こえた気がした。
「俺は……」
もう逃げない。ここで逃げたら、ガルアスは倒せない。
大きく息を吐いて、リュウカの目を見つめ返す。そして宣言した。
「俺は戦う。一緒に戦場へ連れて行ってくれ、リュウカ!」
リュウカの口元がニヤリと釣り上がった。
「ああ、もちろんだとも!」
彼女の手がレイトの服の襟を掴み、馬の背中へと引っ張り上げる。
「もしお前が城へ戻る、なんて言い出したら、私はお前を見捨てるつもりだったよ。だがお前は逃げなかった。それでいい、それでこそリシュアと釣り合うってもんだ。さぁ、戦場まで飛ばすぜ!」
歓喜の声を轟かせ、二人を乗せた黒馬は一陣の風となって平原を吹き抜けた。