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おやすみは早い者勝ち

 時はあっという間に過ぎて行き、陽が海の向こうにその身の半分程を沈めた頃、レイトは自室に敷かれた布団の上に仰向けに大の字でぶっ倒れていた。


 ……ああ……腹減った……もう指一本動かしたくない……。


 昼飯まで、と言ったリュウカとの手合わせは結局、昼飯後も続いた。ひたすら強化魔法を発動しては斬り結んで意識を飛ばし、発動しては斬って飛ばしの繰り返しをかれこれ数十回。途中からヴァルネロも参戦し、特訓の様子はまぁ混沌。特訓と称した斬り合いは徐々にヒートアップし、最終的には鮮血と骨の舞い踊る、側から見たら地獄のような決戦場が出来上がってしまった。


 リシュア並みの効果を持つリュウカの治癒魔法を良いことに、もはや手加減などは何処かへ消し飛び、レイトもリュウカもヴァルネロも、何度その身に刃や拳をくらわせ、くらったか分からなかった。


 特に最後にレイトが放った一撃は今日史上最高にヴァルネロを爆発四散させ、そのおかげで彼はまだパーツ探しの為に向こうを彷徨っている。


 リュウカはリュウカで疲れ果て、謁見の間に戻ってきた直後にうつ伏せに倒れたきり、大きなイビキをかいて爆睡中。実際耳をすませば、遠く離れているはずのこの部屋にまで、微かにイビキが聞こえてくる。


 でもまぁ……少しは戦力になれそうってとこまでは辿り着けたか……?


 天井の格子の上を目でなぞりながら考える。


 今日の無茶な特訓のおかげで、あの強化魔法の発動時間は初期からは二倍くらいには延び、それとは真逆に、発動後に意識を失っている時間は、ものの一分程度までに縮まっていた。


 リュウカとヴァルネロが口を揃えて言うには。この調子ならもうじき失神することは無くなるとかなんとか。


 いよいよ強化魔法の先の力に触れる時も近い、と、期待と少しばかりの不安を脳内で混ぜつつ、一眠りしようと目を閉じる。


 が、眠りは許されなかった。


 「ゔー、疲れたぁぁぁ……」


 バァンッと入り口の引き戸が開いて、濁音混じりの低い声を撒き散らしながら、眠るレミィを背負ったリシュアが入ってくる。


「おかえり……リシュアの方も相当ハードだったみたいだな……」


 顔だけ起こすことすら億劫で、レイトは天井に向けて言った。


「ええ、今日だけで採掘場の岩、半分くらい消しとばした気がするわ……。お陰でどうにか妖術を何種類か身に付けることができたけど……」


 レミィを布団の上に下ろし、毛布を掛けてやりながらリシュアは溜息をついた。


「妖術か。リュウカから聞いたよ。魔力消費無しの魔法みたいなもんだって」


「まぁね。実際は魔法以上に集中が必要で難しかったけど、その分威力は魔法以上の仕上がりよ。本当は習得にもっと時間がかかるみたいだけど、ま、流石は私ってとこね」


 ふんす! と意気込むリシュアだが、服はヨレヨレ、髪はバサバサの見るからに疲れ切った様子で言われたところで説得力は無い。


「レイトの方は? 今日一日で何か収穫はあった?」


 自分にあてがわれた布団に盛大にダイブして、リシュアが聞く。


「まぁね。もう少しで強化魔法の副作用を克服できそうって所までは行ったよ。まぁそこからがなかなか難しそうだけどさ」


「へぇ! すごい進歩じゃない! てことは、もう少しで私の補佐無しでも戦えるってことよね」


「まぁ、そういうことになるな。といっても、まだどうやっても一分は気を失ったままなんだけどな……」


「まだ初日よ? ゆっくり鍛えていけばいいじゃないの。あ、そういえば、例の精神世界の住人は何か言ってた?」


「あー、いや。今日最初に意識を失った時に会ったっきり、あの世界には行けてなくてさ。その最初の一回も、正体を明かすのはこの強化魔法が完成した時だとか、まだ強化魔法の先の力に手を出すのは早い、とか、そんな意味ありげなことを言われて追い出されたよ」


「ふーん……。まぁ、少なくとも悪い奴ではなさそうなんだから、あまり気にしても意味ないのかもね」


 そこまで言ったところでリシュアは大きはあくびを一つ。そして


「ふぁあ……、ごめんレイト、レミィじゃないけど私もそろそろ眠気が限界で…………ちょっと寝るから。晩御飯に呼ばれたら起こして……ムニャ」


 疲れとはなんだったのか、リシュアは脱兎の如く速さで布団の中へと潜り込むとポカンと口を開き、どうみてもバカにしか見えない間抜けな顔で眠りへと吸い込まれていった。

 

「は? ちょ、俺だって今から寝ようと…………もう寝てるし……」


 レイトの文句は当然、夢の壁に阻まれてリシュアには届かず、この後、城の世話係の鬼が、夕餉の支度が整った事を告げに来るまで約一時間に渡って、眠気と格闘する羽目になった。


 ちなみにライナは朝に別れたっきり、どこで何をしているのか、戻ってくる気配はなかった。




 


 


 


 






 

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