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ハブられてたって魔王は魔王

 「無からってことは、魔力が無くても使えるってことですか……?」


 リシュアの隣で、レミィがタツミの手の中に煌々と輝く光の刃を見つめながら唾を飲んだ。


「ええ。といってもほんの少し、着火剤の役割として、ごくごく微量の魔力は要りますが、通常の魔法と比べればその量の差は天と地ほどの物です。さっきも言った通り、妖術を扱う上で大切なのはイメージ力であり、精神面の強さです。つまり、どこまで揺るぎないイメージを構築し、そこにどこまで純粋な思いを込められるか。それが術の威力は勿論、形状から効果まで、全てに影響します」


「そ、それじゃあ、巨大な火球を作ったり、嵐を起こしたりすることも……?」


「勿論、そのイメージを具現化させるだけの精神力があれば、可能です。その気になれば龍をも生み出すことだって出来るのです」


 実際にやってみましょうか、と、タツミが光の刀を、血を払うように軽く一振りすると、光の剣は再び無数の粒子へと分解し、空気の中へと溶けて消えた。


「リシュアさん。何か今、一番倒したい相手を思い浮かべてみてください」


「え? そりゃ勿論ガルアスのクソ野郎だけど……うん、思い浮かべたわ。それはもう憎たらしいほどにしっかりと……」


「では、その感情をエネルギーに変えて右手に流し込むイメージ、できますか?」


「えぇ……? いきなり随分と難易度上げてくるじゃないの……」


 タツミの無茶振りに愚痴を吐きながらも、リシュアは神経を右手に集中させていく。


 ……小うるさいし……ウザったいし……毎度毎度口を開けば戦争の提案ばっかりで……挙げ句の果てには私を追い出して魔王の椅子を奪うなんて……っ!


 叛逆される以前からの鬱憤を燃料に、心の中がフツフツと煮え始める。やがてそれはボコボコと今にも爆発しそうな程に熱く沸騰し、リシュアの思考を満たしていく。


「イメージが出来たら、とりあえず感情のままにそこの岩を殴りつけてみてください」


 後から後から沸いてくるガルアスへの不平不満と怒り恨みを理性で制御しつつ、タツミの指示した岩へツカツカと歩み寄る。


 右の拳を握りしめ、グッと後ろへ引き絞る。イメージするのは、憎きガルアスをぶっ飛ばす最強の拳打。


 感情に呼応するように、右手に、否、右手では収まり切らず、右腕全体を紅蓮の炎に似たオーラが包み込む。


「す……すごい……! 一発目からこれほどのエネルギーを生み出すなんて……! リシュアさん、その勢いのまま行ってください!」


「スゥ……ハァ……」


 イメージを固め、眼前の岩を凝視する。ゴツゴツした岩肌の模様が一瞬、ガルアスの顔に見えたところで、リシュアは一気に理性の枷を弾き飛ばした。


「ガルアスの……ッ! ガルアスのバカヤロォォォォォッ! ぶっ殺してやらァァァァァァッ!」


 自分でもびっくりするほどにドスの効いた叫び声を轟かせ、リシュアは拳を岩肌のガルアスの顔、のような模様のど真ん中目掛けてぶっ放した。


 格闘技の知識も技術も無いリシュアだったが、ありったけの怒りを込めた彼女の拳打は音速に近い速度で、寸分の狂いなく正確に、ガルアスの眉間に突き刺さった。


 刹那、溢れんばかりの怒りのエネルギーが岩肌に触れた拳から、極太で灼熱の紅蓮の奔流となって暴れ、その射線上の何もかもを消し飛ばしていく。その時間約十秒。


 リシュアがようやく全ての感情エネルギーを放出し終えた時には、目の前にあったはずの岩は、もはや跡形もなく、代わりに彼女の足元からは、焼き尽くされて炭と化した地面の真っ黒い線が、所々プスプスと燻りながら、遥か向こうの方までまっすぐに伸びている。


「…………ナニコレ」


「…………すごいですね……あの威力」


 視界の先に刻まれた妖術の傷痕をマジマジと見つめて感嘆のため息を吐くレミィの横で、妖術をぶっ放した本人たるリシュアは、ポカンと口を開けるしかなかった。


 通常の魔法なら、リシュアの有する魔力の四分の一はごっそりと持っていくであろう超高威力、超長射程の一発を、ほんの一つまみの魔力で撃てたという事実が俄かには信じられなかった。おまけに特に体に反動のようなものも無い。


 恐ろしい術ね……。と、他人事のような感想が、ポカンと空いたままの口から溢れた。


「…………いや……流石に僕もこれは予想外でした。よくても岩が消し飛ぶ程度の威力だろうと予想してたんですが……なんというか今の、拳打じゃなくて完全に砲撃ですよね……」


 その恐ろしさたるや、妖術のプロ的存在のタツミでさえ、驚きを隠せないようで、その声が少し震えてるほどである。


「妖術にしても魔法にしても、先ずは身体強化とか、ちょっとした回復術とか、自分自身に対して干渉する類のものが入門と言われてますけど、初っ端からその理論を完膚無きまでに砕きましたね、リシュアさん……」


「いやぁ……ハハハ……私が一番驚いてるわよ」


 ぎこちなく笑うリシュア。その横で、レミィがふと尋ねた。


「……あの、何かリスクというか副作用というか、そういうものは無いんですか? それこそ、レイトさんのあの強化のように体への負担が馬鹿でかい、とか……」


 そう、それはリシュアも懸念している所だった。もっとも、今ぶっ放してみて、すぐに肉体的な異常は一切起こってはいないのだが。


「ああ。そういったものは有りませんよ。そのかわり、術者の精神状態で性能が大きくブレるというのが弱点でしょう。気が散っていればさっきの様な一撃は途中で霧散するでしょうし、逆に怒りで我を忘れたり、悲しみの底に落ちれば、暴発して自滅しかねない、なんてこともありますし」


「えー……本当にそれだけなのぉ……?」


「本当ですよ! そもそもある程度のレベルの術を発動するには本来なら長い修行を経て、感覚をつかむ必要があるんです。それをいとも簡単にすっ飛ばしたリシュアさんが凄いだけなんですから」


「ま、まぁ。一応魔王の血筋だし……ね。あ、じゃあ、私以上に魔法の才能に溢れてるレミィならどうなるのかしら」


「え、リシュアさん以上……ですか? それならもしかしたら……いや、先ずは実際にやってみましょう。レミィさん。今度はあっちの岩を相手に試してみてください」


 少し離れた位置に聳える、一際巨大な岩を指してタツミが言った。








 


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