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影の告白

 精神世界は以前訪れた時とは様子がガラリと変わっていた。苔生していた石柱は、その本来の白い肌を晒し、白一面だった地面はところどころが欠けた石のタイルで覆われ、正面奥の玉座からはレイトの足下へと赤い絨毯が伸びている。


 あのジルバのヴァルストル城とは異なるにせよ、ここが城の内部を模しているのはすぐに分かった。


 そして玉座。前回よりも装飾が修復され、王の座るべき椅子らしさを取り戻したその上に、あの人影はゆったりとした姿勢で腰掛けている。


「やぁ、久し振りだな青年。いや、ここはもうレイト君と呼んだ方がいいかな」


 人影は最初と変わらぬ陽気な調子で言った。違いといえば、前に見た時よりも、より一層人らしいシルエットに変化している。


「どっちでもいいよ、そんなことは。それよりも今日こそは教えてもらうぞ、あんたの正体と、俺の中に入り込んだ目的とその真意を聞くことが、この力を使いこなす為の覚悟、その最後のピースだ」


 影の表情は分からない。だが、その漆黒のベールの向こうから、鋭い視線を向けられている感覚があった。


「言わずとも知っているとも。君が旅立ったあの日、私の意識が覚醒したあの日から、私はこの世界から君の全てを見てきたんだからな。君のその覚悟が、ようやく確固たるものになった事は分かっているさ」


「だったら教えてくれ。あんたが何者で、この圧倒的な力が何なのかを……」


 レイトは改めて影に問うた。最後のピースが揃わない限り、本当の意味で影を信頼し、力を使うことはできない。たった一欠片の不足が生む靄を払わない限り、この先の道は閉ざされたままだ。


 それだけの想いを込めて、レイトは言った。影が自分の全てを見ているというのであれば、当然今のこの想いも伝わっているはず。

 

 だが、影は決して首を縦には振らなかった。


「うーむ。確かに、その覚悟は本物だ。精神面だけならば十分だろう。だがな、私の名を、私の正体を知るにはまだ肉体面の成長が足りない」


 影は玉座から立ち上がると、次の瞬間にはレイトの目の前に腕を組んで仁王立ちして言った。


「……どういうことだ」


「そのままの意味さ。私が正体を明かし、君が私を完全に信じるということは即ち、私が君という存在により強く混ざり合うということだ。そうなれば君は強化魔法のさらに先へと至るだろう。そうなった時、君の今の肉体では、悲劇が起こるぞ」


「そんなこと、やってみないと分からないだろ……? それに、力を使って死にかける事は今までも、今も体験してるじゃないか」


「……はぁ」


 分かってないな、君は。と、影は溜息をついた。


「死にかけるくらいなら、私も止めないさ。私が言う悲劇というのは君自身だけじゃない、君の周りにいる仲間達にも及ぶ。暴走だよ」


「暴走……」


「そう、暴走だ。自分で言うのもなんだが、私の力は圧倒的だ、今の強化魔法はその私の魔力の一部をエネルギーとしているが、さっき言った「さらに先」では魔力というよりも私の力自体が君の中に流れ込む。今の君ではその力を受け止め切れず、逆に君という存在が食われるだろう。消えた君という存在の代わりに残るのは、理性とは真逆に位置する、本能で力を撒き散らす魔族……いや、魔物と言ったほうがいいか。とにかく、そうなったら最後、溢れ出した力の矛先が真っ先に向くのは、共に旅をしている君の仲間たちだぞ」


「そんな、いくらなんでも……」


「残念ながら事実さ。暴走が起きれば、魂だけの存在たる私の存在も消滅してしまうだろうよ。だから、もう少しだけ待ってくれ。それが私からの願いだ」


 いつに無く真剣な影の声が、それが事実であることを告げていた。


「……」


 レイトが思考の整理を完了するより先に、突然グニャグニャと世界が歪み始める。


「正体がわからない今、私を完全に信じろとは言わない。だが、この話だけは信じて欲しい。君の仲間を守る為にもね」


 世界の向こうから黒が広がってくる。言われなくともわかる、現実での目覚めの時。


「約束しよう。君があの強化魔法を後遺症無しで使えるようになった時、今度こそ私の正体を告げると」


「……分かった……」


 影の宣言、決して冗談で正体を明かすことをはぐらかしている訳ではないその発言に、レイトは渋々頷くしかなかった。


 直後、黒の侵食は一気に加速し、瞬く間に視界と意識が塗り潰された。



 





 

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