橘の望み
橘が帰ってきたことによって、外廊下の荷物が片付けられ、自分の家に無事に帰ることができた僕だったが、家に帰ってきたところで特にやることがあるわけではない。夕飯食べて、特に見たい番組があるのわけではないのにダラダラとテレビを見続け、寝る。僕が家に帰ってきてからは大体いつもこんな感じだ。しかし、今日はいつもと違っていた。夜9時ちょっと過ぎに玄関のインターフォンがピンポーン!と鳴った。
ドアを開けると立っていたのは橘だった。
「こんな時間にどうしたんだ?」僕は言った。
「こんな夜遅くにすみません。実はお願いしたいことがあって… たぶん、笹本くんにしかお願いできないことなんです。」
「僕にしかお願いできないこと?僕は普通の男子高校生だ。僕にしかできないことなんて、きっと存在しないんじゃないかな。僕にできることほとんどは他の誰でもできる。」
「そんなことはありません。これから私が言うことはあなたにしかできないことなのです。」
「笹本くん、あなたに私の手伝いをしてほしいのです。私がここに引っ越してきたのには目的があります。私はここで人助けがしたいのです。」
「人助け?」 思わず聞き返してしまった。一瞬冗談かと思ってしまったが彼女はどうやら本気のようだ。
「はい。私は今までもずっと人助けをして生きてきました。人を助けるそれが私の生きる意味なのです。困っている人を助けて、お金を取ります。お金がないと生きてはいけませんからね。」
彼女の考えはまったく僕には理解できなかった。でも彼女はきっとずっと人助けをしながら金を稼いで生きてきたのだろう。と、僕がそんな風に彼女の言うことを素直に信じてしまったのは、彼女には人を信じさせる能力があったからだ。まるで、彼女が言えばどんな嘘でもまるごと信じてしまいそうな気がした。僕の脳内に彼女の言葉が染み込んでいき、まるでそれが当たり前のように何の違和感も感じない。彼女の言葉にはそんな能力があった。だから僕は彼女の手伝いをすることになってしまったのだ。その時なぜか僕の頭には断るという選択肢が浮かばなかったのだ。だから僕はいいよと返事をしてしまったのだ。
「ありがとうございます!笹本くん。」 橘が僕の返事を聞いて言った。




