笹本の新しい隣人
転校生がかわいいという噂は、すぐに広まり二時間目が終わった時には他のクラスからも転校生を見ようと僕がいるクラス、2-Ⅾまで押しかけるのであった。
いつもより教室が騒がしく迷惑だとは思っていたが、僕はそこまで静かを好むタイプでもないので普段と大して変わらない態度で六時間目まで過ごすことができた。
しかし、僕が本当に迷惑するのはこれからだった。
僕の家はボロいアパートの中にある。アパートは二階建てで僕が住んでいるのは二階の一番奥の部屋だ。だが今日は、僕の部屋に行く外廊下にたくさんの荷物が置いてあり、通ることができないようになっていた。
荷物を強引にでも、どかして部屋に行くか、それともマンガ喫茶にでも行ってきて、帰ってくる頃にはこの荷物がなくなっていることを望むか、僕の脳内にはこの二つの選択肢が思い浮かんだ。僕が選んだのは、もちろん後者でアパートの階段を静かに降りきったところで、転校生、橘 早紀と会った。
お互いに見つめ合ったまま固まった。先に、口を開いたのは僕の方だった。
「たしか、君は転校生の橘さんだっけ… なんで、こんなところにいるの?」
「何でこんなところにいるかって聞かれても… ここが私の家だからです。」 と橘は答えた。
「ここが… 君の家… 」
「はい。 あなたはたしか笹本くん… であってますか?」
「うん。僕は笹本 音羽。僕もこのアパートに住んでいるんだ。」
「そうなんですか!名前あってて良かったです。私はこのマンションの二階の203号室に引っ越してきたんです。」
「203号室!?僕の部屋の隣じゃないか!」 なるほど、外廊下に置いてあったのは橘の荷物だったのか。
「それは偶然ですね!でも、クラスの人が家の隣に住んでいるというのはちょっと安心するかもしれません。私、この辺のことは引っ越してきたばかりで全く知らないので案内とかしていただけると嬉しいです。」
橘は少し照れくさそうに笑いながら言った。
「うん。まあ機会があったらね。あと、ここのアパートの住人はちょっと変わった人が多いから気をつけたほうがいいよ。」 僕はわざと意地悪そうな笑みを浮かべながら言った。




