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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第五章:絡み合う思惑

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89.魔石の謎2

「そういえばカグヅチさん、前にお願いしてた魔石加工の方は順調に進んでいるかしら?」

「ああ、それなんだがなぁ……、正直ミーティアさんが期待しているような成果はまだ出てねぇんだ……すまねえ」


 私の質問にカグヅチさんは歯切れ悪くそう呟いて、まだいい成果が出せていない現状を話してくれた。

 しかしこの件に関しては初めから難しいと分かっていたので、特にショックだったわけでも、それでカグヅチさんを責めたりする気もない。ある意味で私の想定の範囲内である。


 カグヅチさんは「ちょっと待っててくれ」と言うとまた店の奥に行き、魔石の入った袋を持ってすぐに戻って来た。


「色々試してみたが、見ての通りどれもミーティアさんの期待に応えられるような出来にはならなかったぜ……」


 袋から魔石を取り出しカウンターの上に並べるカグヅチさん。魔石は形も大きさも様々だった。

 だけどそれは決して乱暴に採掘された自然的な荒々しい物ではなく、表面が滑らかに磨かれ角が取れた人工的な形状をしている綺麗な物だった。

 カグヅチさんが加工したという魔石を私は一つ一つ手に取って確かめる。加工自体は完璧と言える出来栄えで、丸や四角の基本的な形から、手のひらサイズの剣や盾、人型の様な複雑な造形をした物まであった。

 魔石をこれほどまで自由な形に加工出来ているなら、カグヅチさんの“真・鬼闘術”で魔石を加工可能にして新しい素材の開発をするというもう一つの計画も一見すれば順調そうに見えた。

 しかし、ただ一点の致命的な問題がカグヅチさんの言葉通り、私の期待通りではなかった。


「……魔力の内包量が少なすぎるわね」


 魔石の一般的な使い道は、その殆どが魔道具を起動させる為の媒体として利用されている。

 魔道具の基本的な構造は、魔法陣が描かれた道具に魔力を流すことで描かれた魔法陣を起動させて魔術を発動するというものだ。術者の魔力でも魔道具を起動させることは出来るが、魔石の方が手軽に利用することができるのだ。

 その用途の幅は広く、水を出したり火を起こしたり灯りにしたりと、魔道具は現在の日常生活では欠かすことのできない必需品となっている。

 そして魔道具の起動と維持には、それなりの魔力を内包した魔石が必要になる。魔石の価値は内包される魔力量で決まるので、魔力の内包量はとても重要なのである。


「その通りだ。魔石を自由な形に加工できる方法は見つけたが、加工すればどうしても魔力が散っちまう。こればっかりはどんな方法で加工しても似たような結果にしかならなかったぜ……」


 魔石は加工すれば魔力が散る、そのため魔石の加工は不可能でそのまま利用するしかないというのが世の常識だ。

 なので魔石を媒体とする魔道具は『置き固定型』の道具にするのが基本的で、その全てにどんな形の魔石でも置けるように魔法陣が描かれた置き皿の様な台をした起動装置が付いている。

 もし、魔石の形を自由に加工することができ、尚且つ加工時に魔力が散らない方法を見つけられたなら、使用者の魔力を使わないで済む『魔石を組み込んだ持ち運び型の魔道具』を開発することも可能になる。

 その方法を見付けるのに私の錬金術では限界があったので、違うアプローチをする為に似たような仕組みの術を使うカグヅチさんに魔石の加工をお願いしたのだけど、やっぱりそう簡単にはいかない様ようだ。


「因みに一番加工しやすかった方法は何だったの?」


 魔力が減ったとはいえ自由な形に加工できたのは事実なので、とりあえずその方法だけでも教えてもらうことにした。


「ああそれはな、こうするんだぜ」


 カグヅチさんは魔石を一つ手に取ると、“真・鬼闘術”を使い魔石を変化させる。変化させられた魔石は見た目こそ何も変わっていなかったが、その特性はまるで別物だった。


「ふんっ!」


 カグヅチさんは魔石をカウンターの上に置くと、手の平を押し付けて魔石を潰す。すると固い魔石は砕けるのではなく、まるでパン生地の様にいとも簡単にぐにゅりと潰れて平になった。


「わっ!?」

「これは中々、違和感のある光景ですね」


 非常識な潰れ方をした魔石を見て、何とも言えぬ違和感に驚くクワトルとティンク。私も似たような違和感を感じているが、とりあえず潰れた魔石を手に取ってその感触を確かめてみる。

 するとその感触はこれまた予想外の物だった。潰れ方からパン生地の様な柔らかい物だと思っていたけど、実際はそれよりも固く張りのある粘土の様な感触に近かったのだ。

 その何とも言えぬ触り心地の言い感触に好奇心が刺激された私は、無心で粘土状の魔石を手で()ねて丸くしたり、細長くしてみたりして色々な形を作ってみた。


「…………」

「……ミーティア様?」

「――ハッ!? (危ない危ない、夢中になり過ぎた……)」


 クワトルが声を掛けたことで正気に戻った私は捏ねる手を止めて、感想を急いで頭の中で整理する。


「コホン! ……なるほど、これなら人の手で簡単に形を作ることが出来るし、ある程度の硬度もあるから自然に型崩れもしないという訳ね」


 石は硬いので細かい形に加工するなら削るのが普通だ。魔石も分類的には石の一種で、硬度は普通の石とあまり変わりない。カグヅチさんは“真・鬼闘術”で魔石の硬度を人の手で変形させられる程度、つまり粘土と同等の硬度と特性に変化させたのだ。

 ……しかし、一つ問題があった。


「でもこれ、捏ねる度に魔力が減っていってるわね……」


 私が手で捏ねていた粘土状の魔石は、捏ねる度に魔力がどんどん減っていたのだ。これでは加工を終える時頃には、魔石の質がかなり落ちてしまうだろう。


「なんとか減らないようには出来ない?」

「現状は無理だ」


 カグヅチさんは即答でそう返した。


「考え付く方法は“真・鬼闘術”で色々試したが、最初に言った通りどんな状態にしても魔力の減少を無くすことは出来なかった。今ミーティアさんが手にしてる粘土状にすることが、加工と魔力減少のバランスが最も優れているんだ。

 ミーティアさんがこれ以上の物を望んでいるのは分かるが、ハッキリ言て今のところいい案が浮かばずに万策尽きた状態だ……」


 そう言ってカグヅチさんは両手を挙げたが、私はそれに対してとやかく言う気はなかった。

 カグヅチさんの言う通り私が求めていたのはこれ以上の物、『加工可能で加工時に魔力が減らない魔石』だ。

 しかしカグヅチさんは魔力が減ってしまうとはいえ、加工不可能と言われた魔石単体を誰にでも加工可能な状態にまで仕上げてみせた。

 それは私の錬金術でも出来なかったことであり、私としてはそれだけでも十分すぎる成果なのだ。


「いえ、これだけでも十分凄いわカグヅチさん。確かに私の求めていた理想よりは劣るけど、未知に対する最初の挑戦としては上々の結果よ!

 少なくとも今まで誰も作れなかった物を、こうして作り出したんですから!」


 興奮した様子で私が喜ぶと、カグヅチさんも安心したようで顔が綻んだ。


「この結果を踏まえて更に研究すれば、魔石の完全加工も夢じゃないわよカグヅチさん!」

「ああ、そう言ってもらえて俺も嬉しいぜ! 万策尽きたとは言っちまったが、ミーティアさんの言う通り始めたばかりだし、諦めるのはまだ早かったぜ!」


 やる気を取り戻したカグヅチさん。この気合が新しい突破口になる事を祈ろう。

 その後カグヅチさんと色々話し合い、次に来る時は鉄と魔石の量を多めに持って来ることになり、そして契約通りカグヅチさんから売り上げの半分を頂いたのだった。




「しかし、魔石とは不思議なものですね。魔素を取り込み魔力にして蓄えたと思えば、ちょっとしたことでそれを直ぐに吐き出してしまうのですから」


 私とカグヅチさんとの話し合いが終わり、クワトルとティンクの装備のメンテナンスをお願いしたところで、加工された魔石を手に取ったクワトルがそう呟いた。


「そうねクワトル。魔石についてはまだ分かっていないことが多いわ。

 地下から採掘される鉱石だということ、地下で魔素を取り込み変異しているということ、加工しようと手を加えたら貯め込んだ魔力を放出して普通の石に戻っていってしまうこと。簡単に纏めるとこんな所だけど、どういう条件で魔素を取り込んだのかはハッキリと解っていないわ」

「仮説はいくつがあるが、一般的なのは、たまたま地下で魔素が大量に集まった時に魔素を取り込んで変質したっていうのだな。実際に鉱山を掘っていて魔素が噴き出す『魔素溜まり』周辺からは魔石が多く取れるって話を聞いたことがあるぜ」


 カグヅチさんの言っていることは事実で、地下に魔素が集まるスポット、通称『魔素溜まり』付近では魔石の採掘量が多いのだ。魔素の多さが魔石の誕生に関係しているのは間違いないのだが、実際にはそれ以外の場所でも採掘されるので正確な条件は私も分かっていない。


「どちらにしても、未だ謎の多い鉱石だからまだまだ研究の余地はあるし、もしかしたらその謎の部分に改良のヒントがあるかも知れないわね」

「確かになそうだな。だったらその辺りに詳しい鉱夫関係の奴らに話を聞くのもいいかもしれねえな」


 そのカグヅチさんのその一言に、私の中である考えがピコンッと浮かび上がってきた。


「だったら、私が聞いて来るわ」

「ミーティアさん、当てがあるのか?」

「ええ、丁度その方面で借りを作ってる所があるから、そこで聞いてみようと思うわ!」


 そう、あそこなら、詳しく知っている鉱夫がいる可能性が高い。


「分かった、そっちはミーティアさんに任せる。俺の方でも知り合いに色々話を聞いてみて、使えそうな情報がないか探ってみるぜ!」

「それじゃあ、この続きは次来た時にという事にしましょう」

「ああ。いい情報が得られることを祈ってるぜ!」

「カグヅチさんの方もね!」


 こうして私とカグヅチさんは、魔石加工の突破口を見つけるためにそれぞれ動いて情報を集めることになった。

 因みに、カグヅチさんが加工してくれた魔石は私が全て回収した。魔力が減っているとはいえ、ちょっとした魔道具に使えるぐらいの魔力は残っていたので、これを元にして『魔石を組み込んだ持ち運び型の魔道具』の開発をしてみようと思う。ミューダにも一声かければ、きっと喜んで手伝ってくれるだろう。


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