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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第五章:絡み合う思惑

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85.帝国へ6

「……どうする?」

「どうするって言ってもなぁ……」

「どうしようもないでしょうね……」


 太陽が丁度頭の上に移動した頃、一行は小川の近くで休憩を取っていた。ティンクがエヴァイアとメルキーと一緒に食事を取って話相手をしている間に、パイクス、ピーク、クワトルの三人はエヴァイア達を視界に収めつつ話を聞かれない程度の離れた場所で頭を悩ませていた。


 三人が悩んでいるのは、勿論パイクスとピークの稽古についてだ。今回の護衛依頼の裏の目的がパイクスとピークに稽古をつけるということなので、帝国までの往路で夜営の時だけティンクが二人の相手をしていた。

 稽古が夜営限定だったのは、稽古中の様子を誰かに見られたくないからだ。だから、町や村に泊まった時は稽古をせず、夜営の時もなるべく街道から離れた遮蔽物の多い場所で選んでいた。

 だが、今回の復路ではエヴァイアとメルキーという部外者が同行している。これが只の要人で夜営経験が少なければ、「遮蔽物が多い場所を選ぶのは安全のためだ」とか、「少し周囲を見渡して来る」等と適当な言い訳を並べて隠れて稽古をつけることが出来ただろう。

 しかし二人は、ブロキュオン帝国の皇帝と皇后である。特にエヴァイアは軍を動かすこともある立場だから、夜営の仕方も当然心得ている。下手な言い訳ならすぐ見破られて怪しまれる可能性が高かった。


「……というかさ、皇帝と皇后に夜営をさせるってのはヤバイんじゃないか?」


 パイクスの言う通りで、いくら二人がほぼお忍び状態で貿易都市に向かっているからといって、何があるかわからない夜営をするよりかは、近くの町や村に寄って宿に泊まった方が確実に安全であることは間違いない。


「……仕方ありません。稽古は一時保留という事にしましょう……」


 クワトルのその提案に、二人は渋々といった様子だったが、同意する他なかった。




 その後、日が落ちる前に早めに近くの少し大きな町に移動した一行は、真っ先に町で一番高い宿の部屋を取る事にした。一番高い宿を選んだのは安全性を考慮してというのも勿論あるが、実はこの宿、メルキー行きつけの宿屋なのだ。

 メルキーは皇后であるが同時に帝国の宰相でもある。普段から公務で帝都と貿易都市を頻繁に移動しており、その際に必ずと言っていいほど立ち寄るのがこの町のこの宿である。

 わざわざメルキーがここを選ぶのには、勿論理由がある。

 朝に帝都を出発すると丁度この町に着く辺りで夜を迎える程よい距離感にあり、周辺にある町村で最も大きい町であり、ここを治めている領主が信頼できて町の治安が良い。その町で一番料金が高く信用がおけて、各部屋全てにシャワールームやその他の設備が充実している宿屋がここである。

 ……さて、何処に泊まらない理由があるだろうか?


 宿の受付にいた店主に、素顔を隠すように深々と被ったフードを少し浮かせてメルキーが顔を見せると、店主は一瞬驚いたようにビクッと体を震わせた。しかし店主はその動揺をそれ以降一切表に出すことなく、完璧なマニュアル対応で応対してメルキーに部屋の鍵を3つ手渡した。

 部屋の鍵を受け取った一行は、早速2階の部屋に移動する。それぞれの部屋は隣り合わせになっていて、真ん中の部屋をエヴァイアとメルキー、階段側の部屋をクワトルとティンク、奥側の部屋をパイクスとピークが使うことになった。


 そして夕食を済ませると、ティンクはエヴァイアとメルキーに呼ばれて二人の部屋に行ってしまう。二人は昼休憩の時からティンクの事を気に入ったようで、移動中にもティンクを馬車の中に招き入れては話をしたりしていた。

 クワトルはその間にパイクスとピークの部屋に行き、ティンクとの稽古で見つけた二人の弱点を伝えることにした。


「ティンクとの稽古を(わたくし)なりに分析しましたが、お二人の戦い方には致命的な弱点があります。……それは、連携です」

「「連携……?」」


 てっきり剣術や体術、判断力や洞察力等といった力量不足の部分を指摘されると思っていたパイクスとピークは、予想外の指摘にキョトンとする。


「お二人の個々としての戦闘能力はまだまだ伸び(しろ)はあるものの、現状でも十分申し分ないものでした。……しかし、二人掛かりでティンクと稽古をした際、お互いの息が全くと言っていいほど揃っていませんでした。

 この前の魔獣のように1人で倒すことが難しい敵が現れた時、他者との連携が必要不可欠になります。そこを鍛えない限り、お二人の大きな成長は見込めないでしょう」


 パイクスとピークは今まで頻繁に強さを競いあって鍛えてきたので、個人的な戦闘能力は実はかなり高いレベルにある。もしクワトルと一対一で対決していたなら、クワトルを追い詰められるくらいに善戦できる程だ。

 しかし、ティンクみたいな格上を単体で相手するにはまだまだ心もとない。そこで必要になるのが他者との連携なのだが、二人掛かりでティンクと戦った時はそれはもう酷い有り様だった。

 ピークがいつも通り型に嵌った正確無比の剣術で攻めようとすると、パイクスがそこに突っ込んでピークの型を間接的に崩して邪魔をしていた。

 逆にパイクスが俊敏な動きで翻弄しようとすると、その軌道上にピークが飛び出して当たりかけたりと、お互いがお互いの足を引っ張っていた。

 そんな連携では、ティンクに一撃を加えるなんて夢のまた夢である


「でもよ、連携を鍛えるって、具体的にどうすれば良いんだよ……?」

「それは二人で考えてください。何でもかんでも人から教わるのは良い成長を生みませんからね」


「それが分からないから聞いてるのに……」と言わんばかりの表情で、クワトルに訴えかけるパイクスとピーク。

 それを見てクワトルは大きくため息を吐くと、渋々ヒントを与えることにした。


「……分かりました、では少しだけヒントを。連携を取るには相手のことをしっかりと理解し、お互いに尊敬し、信頼し合う気持ちが不可欠です。

 二人掛かりでティンクと稽古した時、お互いがお互いの足を引っ張っていたのは理解してますね? その事について喧嘩をするようでは、お二人もそこまでの人だったということになります」

「「…………」」


 二人はクワトルの言っていることに思い当たる節がちゃんとあったらしく、ばつの悪そうな顔で押し黙ってしまった。

 クワトルはヒントを与えた。今はまだプライドが邪魔をして呑み込みにくそうにしているが、パイクスとピークは自らの改善点を理解した。……あとは、二人がどうするかだけである。


「お二人の答えは貿易都市に着いてから見せていただくとしましょう。それまでにしっかりと話し合ってください。

 ……それではそろそろ、(わたくし)はティンクの様子を見てきます。皇帝陛下に粗相をしていないか心配ですからね」


 言うべき事をパイクスとピークに伝えたクワトルは、そう言って部屋を出た。残された二人はクワトルのヒントを頭の中で反芻しながら、クワトルの求めている答えを考え、一晩中話し合うことになった。



 ◆     ◆



 コンコン――


「失礼します」


 皇帝陛下達のいる部屋の扉をノックして中に入ると、ベッドに腰掛けて寛いでいた皇帝陛下がこちらに振り返り、ニコッと笑って出迎えてくれた。


「やあ、待ってたよ!」


 友人に語りかけるような軽い口調でそう言う皇帝陛下の隣には、ブロキュオン帝国宰相のメルキーさんが身体を預けて寄り添っていて、もう一つの向かいのベットの上では(しお)れた花のように肩を落としているティンクが座っていた。

 ティンクは部屋に入って来た(わたくし)の方に目を向けると、申し訳なさそうに弱々しい声でこう言った。


「ごめんクワトル……。正体、バレちゃった……」


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