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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第五章:絡み合う思惑

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78.四大公会談1

 プアボム公国の中央と北を領地とするファーラト公爵領。そのファーラト公爵領の首都『ファーラト』は、プアボム公国の首都にもなっている。


 首都ファーラトの中心地に建つファーラト公爵邸は、貴族の屋敷と言うよりは王様の城と言っていい様な豪華な建造物だ。その公爵邸の会議室で、円卓のテーブルを囲む3人の人物がいた。

 全員が黒を基調として、豪華な装飾と4つの模様の違うバッチが付いた、全く同じデザインの貴族服を着用している。そのいかにも大金をかけて作りましたと言わんばかりの服を見れば、誰もが一目で彼らの権力の高さに気付くだろう。


 プアボム公国中央と北を統治し、この公爵邸の持ち主で、最古参の貴族家の一つであるファーラト公爵家現当主、“オリバー・ファーラト”公爵。

 プアボム公国の東を統治し、『海岸の支配者』の異名を持つエーギル公爵家現当主、“ベルネリオ・エーギル”公爵。

 プアボム公国の南を統治し、プアボム公国の防衛を一任されているメルネーリオ公爵家現当主、“ルカ・メルネーリオ”公爵。


 そう、彼ら3人こそ、プアボム公国の頂点に立ち、国を統べる四大公のメンバーである。

 彼らが今日、こうして集まっているのは、四大公全員で行う『四大公会談』をこれから行うためである。彼らは今、この場にいない最後の一人を静かに待っていた。


 コンコン――


 会議室の扉が叩かれ、一人の執事が扉を開けて入って来ると、3人に向かって一礼した。


「失礼します。マイン公爵様をお連れしました」


 執事がそう言って後ろに下がると、入れ替わるように筋肉の塊が入って来た。3人と同じデザインの豪華な貴族服を着てはいるものの、その下から盛り上がる筋肉が貴族服を破らんばかりに押し広げていた。その様は、貴族と言うより格闘家と言うのが相応しい。体格だけで見るなら、他の3人()を差し置いて、一番男らしい体格をしていた。

 そんなマイン公爵の後ろに続いて、もう一人会議室に入って来た。マイン公爵に比べれば至って普通の体格をした女性だが、見たことも無い真っ白な衣装を身に纏っていて、摩訶不思議な雰囲気を放っていた。セレスティアだ。


「待たせてすまない、お三方」


 遅れたことを謝罪して、マイン公爵は自分の席に着く。そして、自分の隣に座るようにセレスティアを促した。


「気にするな、無理を言ったのは我々だ」

「左様、準備に時間がかかるのは当然だ」

「それで、そちらの女性がそうなのですか?」

「はい、そうです。セレスティア殿……」


 マイン公爵に目配りされ、セレスティアは席を立ってきれいな一礼をする。


「お初にお目にかかります、四大公の皆様。淵緑の森に住んでいる『セレスティア』と申します。この度はこのような重大な会議の場に御招待いただき、誠に恐縮です」


 腰の低い自己紹介を済ませて着席するセレスティア。それと入れ替わるようにマイン公爵以外の3人が順番に席を立ち、セレスティアに自己紹介を返す。


「初めまして、セレスティア殿。わしはプアボム公国四大公の一人、ファーラト領を統治しておる“オリバー・ファーラト”だ」

「同じく四大公の一人、エーギル領を統治している“ベルネリオ・エーギル”です」

「右に同じく四大公の一人、メルネーリオ領を統治してる“ルカ・メルネーリオ”だ」


 3人の自己紹介に合わせてセレスティアはお辞儀を返す。そして3人が着席したところで、四大公会談が始まった。

 まず最初に口を開いたのは、ファーラト公爵だ。


「さて、まずはセレスティア殿、この度は我々の招待に答えてくれてありがとう。それと、ストール鉱山で起きた魔獣事件の解決に手を貸してくれたことも、プアボム公国を代表して感謝する!」


 ファーラト公爵はセレスティアに頭を下げて感謝の意を示す。


「ついては、その功に相応しい報酬を、我々四大公が全力をかけて用意しよう! 何か希望はあるか?」


 そして空かさずファーラト公爵が仕掛ける。

 ファーラト公爵、エーギル公爵、メルネーリオ公爵の3人がセレスティアを四大公会談の場に呼んだのは、マイン公爵が言ったように、セレスティアと会って話をするのが目的だ。つまり、顔を合わせて親睦を図るつもりなのである。

 しかし、それは表向きの話だ。もちろん親睦を図るのも、彼等のやりたいことの一つに変わりはないが、真の目的は別にある。それは魔獣討伐の感謝を伝えて、その功績に見合った()()の報酬を渡すことだ。そうすることで、ただ親睦を図るよりも、より大きな関係を構築することができる。その為に報酬を「全力をかけて用意しよう」なんて言っているのだ。

 そして自分達をマイン公爵と同等の関係まで持ち込み、セレスティアから有益な情報を聞き出し、自分達の利益を生み出し、ひいてはプアボム公国の利益に繋げようとしているのだ。


「いえ、報酬は要りません。私はただ、オリヴィエに頼まれて少し手を貸しただけに過ぎませんので」


 勿論そんな魂胆、マイン公爵が事前に予想していた。マイン公爵が彼等の立場なら同じことをしただろうからだ。事前にセレスティアにはそうなる可能性を伝えてあり、セレスティアもそんな面倒な事態になるのはご免なので、当然そんな誘いはお断りだった。

 しかし、そう言われて簡単にファーラト公爵達が引き下がる訳がない。


「そう謙遜しなくてもいい」

「その通り。魔獣は大小限らずその存在自体が“災害”と呼ばれる恐ろしい化け物だ。出現すれば、甚大な被害は免れぬ」

「国の重大な危機にもなり得たのを、被害を出さずに討伐してくれたのですから、受け取ってもらわないとこちらの面目が立ちません」


 三人掛かりでセレスティアの功績を褒め、最後にエーギル公爵が「面目」という言葉を使ってセレスティアの逃げ道を塞いでいく。


「……分かりました、お三方の感謝は受け取りましょう。ですが、報酬は既にオリヴィエから十分頂いているので、これ以上は不要です」


 そう言われれば断りにくくなるのは人情だ。それはセレスティアでも例外ではない。押されそうになったが、報酬は受け取ることは出来ないので、感謝だけを受け取るということにした。

 しかし、報酬を受け取ってほしい三人は引き下がらない。


「そう遠慮することはない。それほどの功績を挙げての謙遜は、場合によっては相手を不快にさせるだけだぞ?」

「メルネーリオ公爵の言う通りです。貴女が挙げた功績はとても大きく、我々はそれに答える義務があります」

「然り!」

「そうは言われても……」


 三人には一歩も引く気配がなく、セレスティアは「さて、どうやって断ったものか……」と困り果てる。

 そこにファーラト公爵が、さらなるダメ押しを投下した。


「実はマイン公爵が到着する前に話をしたのだが、我々としては、セレスティア殿に辺境伯の地位と、淵緑の森周辺の土地を正式にセレスティア殿の領地にしてもよいと考えている」

「なっ!?」


 この突然の申し出に流石のマイン公爵も驚きを隠せず、椅子から立ち上がって抗議の声を挙げる。


「私の居ぬ間に勝手に決められては困ります! ファーラト公爵、四大公の取り決めを忘れましたか!?」


 凄い剣幕で迫るマイン公爵を、両手で宥めるファーラト公爵。


「落ち着けマイン公爵。今言ったことは確定ではない、一つの提案だ。わしら3人はこの提案に既に同意しているが、あとはマイン公爵がこの提案に賛成するかどうかだ」

「もちろん反対です! セレスティア殿にそのようなもは必要ありません! 先程セレスティア殿が仰ったように、既に報酬は私の方で払っています!」


 三人の思惑どうりにはさせないと、マイン公爵は即答で反対意見を出す。

 しかし直ぐに、ファーラト公爵が反論する。


「そうは言ってもな、よく考えられよマイン公爵。事はプアボム公国全体の危機にもなり得たのだ。それを救ってくれた英雄に、何の報酬も出さないのはあまりにも四大公の体裁が悪すぎるとは思わないか?」

「だから、報酬は私の方で支払ったと――」

「それでは足りないと言っているのだ!」

「報酬と言っても、聞けば大銀貨数枚と使用人を1人渡しただけと言うではないか!」

「たったそれだけでは、セレスティア殿の功績に見合っていないのでないですか?」

「そ、それは……」


 三人に指摘され、マイン公爵は口ごもってしまう。というのは、マイン公爵としてもお金とエイミー1人、そして商人証明書だけでは報酬として少ないと思っていた。その点を指摘されて、マイン公爵は珍しく動揺してしまい、良い返しが浮かばなかった。


「いいわ、オリヴィエ。あとは私が話を付けるわ」


 その様子を見兼ねたのか、セレスティアがそう言った。


「セレスティア殿……、申し訳ありません……」


 小さな声で「後は、頼みます」と言って、マイン公爵は静かに席に着いた。


(よし、マイン公爵は黙らせた)

(あとは、セレスティア殿を納得させれば)

(我々の勝ちだ!)


 三人は目を合わせると、思惑通りに事が運んでいる事を確信して、にやりと笑みを浮かべた。


(……予想した通りの流れになったわね。流石よ、オリヴィエ)


 その様子を見ていたセレスティアも、気付かれない様な小さな笑みを浮かべるのだった。


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