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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第四章:セレスティア一派活動日誌

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67.それぞれの日々・クワトル&ティンク編8

 サジェスの放った魔力弾は、ティンクの右足に猛スピードで直撃した。


 バシュンッ!


「ティンクーーーッ!!!」

「ハーッハッハッハッ!! どうだ、足を吹き飛ばされた感覚はッ!? 痛いか? 痛いだろう? そうだろう!? その苦痛に歪んだ表情を、私に見せてみろーー!!」


 ティナの悲痛な叫びが響き、サジェスは狂気に満ちた声で高らかに笑う。

 サジェスの魔力弾はワイバーンに放ったものより大きさも威力も小さいものだったが、少女の華奢で細い足など簡単に吹き飛ばせるくらいの威力は十分にあった。

 サジェスの魔力弾をまともに食らったティンクの右足は無残にも吹き飛ばされ、ティンクはバランスを崩して倒れ込み、激痛に喉を枯らして表情が無様にも苦痛に歪んだ。………はずであった。


「ハーハッハッハッーーハハハ! はっはっはっ、ははっ…………はぁ?」


 サジェスは思わず目を疑った。サジェスが目にした光景は、笑い声が疑問符に変わるくらい非常識で現実離れしており、思考が理解に追いつけず一時的にフリーズしてしまう程であった。

 サジェスの視線の先では、ティンクが二本の足でしっかりと立っていた。サジェスの魔力弾が直撃した右足は吹き飛んでおらず、それどころか傷一つすら付いていない綺麗な生足を維持していて、実は魔力弾が外れていたと言われる方がまだ説得力があり、この場にいる全員が頷き一つで納得できただろう。

 しかしそれは無慈悲にも、ティンクの言葉によって否定されることになった。


「……おじさん、そんな低威力な魔力弾じゃティンクは倒せないよ?」


 サジェスの魔力弾は間違いなく直撃していた。……しかし誤算だったのは、その相手がよりにもよって、生態系の頂点に君臨する竜種の子供(ティンク)だということだった。

 サジェスの魔力操作は強力だった。しかし、それで操れる魔力量には限界があるのだ。常人、もしくはサジェスよりも格上が相手であったなら、行動を封じるには十分だっただろう。

 ……だが別次元の存在はそもそもの基本的な魔力量の桁が違いすぎて、サジェスが操れる魔力量など別次元の存在にしてみれば微々たるものでしかなく、行動を封じることなど最初から不可能なことだったのだ。そしてそんな相手に手加減していた攻撃で、ダメージを与えるなんてできるわけがなかった。

 しかしサジェスにはその事実を正確に理解できる十分な情報が無く、ただ困惑するだけしか出来なかった。


「ば、バカな……!!」

「ティンクが見本を見せてあげる!」


 ティンクはそう言うと、サジェスに向けて魔力弾を放った。


「なっ!? ――ガハッ!」


 サジェスは吹き飛んだ。腹に鈍器を勢いよく叩き付けたかの様な衝撃を受け、体がくの字に曲がり、綺麗な放物線を描いてワイバーンを飛び越え、地面に強烈な勢いで落下した。


「――ぐふっ、ごはッ! (な、何が起こった……今、何をされたんだ……!?)」


 サジェスは混乱していた。ティンクが魔力操作の影響を受けているにも拘わらず、何故か体を動かせて魔力弾を放ったことまでは理解できた。しかし、それはサジェスからすればあり得ない事で、その事実を呑み込むことをサジェスのプライドが邪魔していた。

 そして、サジェスにはティンクの放った魔力弾の弾道が見えていなかった。というより、速すぎて見えなかった。サジェスからすれば、いつの間にか腹部に衝撃を受けて吹き飛ばされていたのだ。

 幸いだったのは、ティンクにサジェスを殺す気は無く魔力弾をゴムボールのように柔らかくして殺傷力を小さくしていた為、目で捉える事の出来ないくらい速い魔力弾の直撃を受けても、サジェスは腹部に穴を開けられることなく吹き飛ばされただけで済んだことだった。


 ザッ、ザッ、ザッ――


 足音が近づいてくるのが聞こえて、サジェスは慌て立ち上がろうとする。しかし、殺傷力が低くてもサジェスが受けた衝撃は相当なもので、サジェスの内臓は損傷を受けて口からは血が流れ出ており、落下の衝撃で軽い脳震盪も起こしていた。

 重症とまではいかずとも治療は必要な状態で満足に立ち上がることができず、膝を付いて体を起こすのが精一杯だった。


「はぁ……はぁ……」


 ティンクが目の前にやって来る。膝を付いたサジェスとティンクの身長はほぼ同じで、目線が同じ高さで交錯する。しかしサジェスには、目の前に立つティンクの存在が雲の遥か上にまで到達するほど巨大に見えた。


「小娘ぇ……お前は、一体何者だ……?」

「……ティンクはただのハンターだよ」


「そんなわけあるかぁ!!」、サジェスはそう叫びたかった。しかしそんなみっともない事が出来る訳ないと、サジェスのプライドがギリギリの所で踏みとどまって吐き出しかけた言葉を飲み込ませた。


(……これほどの強さを持ったハンターなら有名なはずだし、本国がマークしていないはずがない。だが、ティンクという魔術師のハンターなど聞いたことが――いや、まて……。そういえば、何処かで一度聞いたことがあったような…………あぁっ!?)


 サジェスはその時、数週間前に報告されていた“ある事”を思い出した。その報告は、サピエル法国が密かに推し進めていた“とある実験”の成功を伝えたものであった。

 その実験にはサジェスも一枚噛んでおり、成功の報告はサジェスにとっても嬉しいものだった。しかしその実験は成功こそしたものの、最後の最後でとんでもなく強いハンターに邪魔されてしまったという。

 その時サジェスは、「いくら強くても所詮はハンター、私の敵ではない」と思って聞き流していた。


(報告では確か、そのハンターは14~16歳くらいの魔術師の少女で、美しいコーラルピンクの髪色と新緑色のローブに両手のガントレットが特徴……名は『ティンク』……!)


 サジェスは思い出した報告内容と目の前の少女を比べてみると、見た目、髪色、特徴、そして名前……報告内容の全てが一致していた。


「ふ、ふふふ、なるほどな……。どうやら分が悪いようですね……」


 サジェスはそう言うと、パチンッと指を鳴らす。すると魔力操作が解けたようで、クワトルやティラミスの5人がゆっくりと立ち上がり、手を握ったり手足を動かして体の感触を確かめていた。


「魔力操作は解いてあげました。私はこれで引き上げさせてもらいますよ。お前達、いつまで寝ている! 早く集まりなさい!」


 サジェスの声に反応して、先程までピクリともしていなかった信徒達が無言のままフラフラと立ち上がり、サジェスの周りに集まった。

 サジェスは信徒の一人に肩を担いでもらって立ち上がると、転移魔術のスクロールを取り出した。


「ティンクといいましたね? その名前、覚えましたよ!」


 捨て台詞を吐き、転移魔術のスクロールを発動させたサジェス達は光に包まれて、次の瞬間には跡形もなく消えていた。


「……逃がしてよかったのか、ティンク?」

「いいの。あいつ等を捕まえるよりも、この子の治療が優先だから」


 ティンクはそう言って、ぐったりしたワイバーンに近寄って、顔に優しく手を置いた。ワイバーンはまだうっすらと目を開けていたが、呼吸は小さく、体は指一本も動かせない状態で、まだ生きているのが不思議なぐらいだった。


「だがそいつは、もう――」


「助からない」、そう言いかけたタイラーの言葉を遮って、ティンクが力強く答えた。


「まだ助かるよ。ううん、助けなくちゃいけない! ティナちゃん、ムゥさん手伝って!」

「え、ええ、分かったわ」

「助けても大丈夫なの……? 襲われたりしないでしょうね……?」


 そうしてティンク、ムゥ、ティナの三人はワイバーンに手を当てて、“回復魔術”を施した。




 ワイバーンは死にかけの重傷だった。大きな翼には幾つもの穴が開き、魔力弾の直撃を受けた箇所の肉は抉れ大量の血が流れ出ていて、内蔵の一部に損傷と数ヵ所の骨折もあった。更に大量の血が失くなったことにより魔力の消失も著しく、本当にいつ死んでもおかしくなかった。

 もしティンクがサジェスを捕まえようとしていたなら、その間に間違いなくワイバーンは死んでいただろう。サジェスの様な輩を逃がしてしまった事は本来してはいけないのだろうが、ワイバーンを助けたかったティンクにとってはワイバーンの治療が何よりも最優先であり、むしろサジェスが早く逃げるように促していた節があった。そしてその結果、ワイバーンは助かった。


「フシュゥゥー」

「よしよし、いい子ね」


 ワイバーンはティンクに懐いていた。ティンクの頬に顔をこすり付け、喉を鳴らすワイバーン。その仕草はまるで飼い主にすり寄る可愛い犬のようだが、ティンクとワイバーンの体格差が違いすぎる為、控えめに見ても可愛らしい絵柄ではなかった。

 ワイバーンは狂暴な魔物として有名だが、決して見境なしに人を襲うわけではない。ワイバーンは魔物の中でも知能が高く、人の強さと怖さを知っている。だから敵対しない限り、ワイバーンは比較的大人しい魔物なのである。ただ、敵対したときに容赦がないだけなのだ。

 このワイバーンは殺されそうになっていたところをティンク達に助けてもらい、更に死にかけだった命も救ってもらったこともきちんと理解していた。だからこそ、感謝の念をこうして行動で表しているのだ。

 因みに、ティンクに懐いているのにはもう一つ理由があった。それは――


「ギャウギャウ!」

「えっ、助けてくれたお礼がしたい?」

「ギャウー! ギャウギャウ!」

「住んでる所に案内してくれるの!? ありがとー!」


 こうしてワイバーンと会話できることだった。

 生物界の頂点に君臨する“竜種”は、一定以上の知能を持つあらゆる生物と意思疏通が可能で、その娘であるティンクも当然その能力を受け継いでいる為、高い知能を持つワイバーンと会話するなど朝飯前だった。


「どうするクワトル?」

「案内してくれると言うのなら、(わたくし)に反対する理由はありませんが……、タイラーとムゥはどうですか?」

「……どうもこうもねぇよ。無事に住み処に辿り着けるっていうなら、これ以上に有益なことはねぇ」

「……私も同意見よ」

「じゃあ決まり! 案内よろしくね!」

「ギャウー!」


 ワイバーンは嬉しそうに大きく頷くと、翼を広げて上空に浮きあがった。

 案内をするならティンク達を背中に乗せて住処まで飛んだ方が速いのだが、いくら体長が4メートルを超えるワイバーンでも7人の人が安定して乗れるスペースは意外と少なく、首の付け根と翼の付け根から後ろ足付近までの背中部分しかない。明らかに定員オーバーだった。

 その辺りの事もきちんと計算していたワイバーンは、ティンク達を乗せるのではなく、自分が上空から進む道を案内する方が賢明だと判断したのだ。


「ギャウウ~!」

「『案内するから付いて来て!』、だって!」


クワトル&ティンク編終了まで、あと一話……。


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