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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第四章:セレスティア一派活動日誌

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63.それぞれの日々・クワトル&ティンク編4

「みんな止まって!」


 しばらく峡谷を進んだところで、突然ティンクが全員に静止の声をかける。

 ティンクが何故そんな事を言ったのか、それが分からない者はここにはいない。


「いたのか、ティンク」

「うん、ここからあっちに真っ直ぐ進んだところに二体。まだこっちには気付いてないよ」

「分かった。ここから全員、大きな足音を立てないように細心の注意を払え!」


 タイラーを先頭に全員が先程よりもゆっくりと慎重に足を動かし、岩場に体を隠しながらティンクの指差した方向に進む。


「いた! あそこだ……」


 大きな岩に体を隠してそーっと峡谷の先を覗き込むと、ティンクの言った通りそこには2体のワイバーンがいた。2体はそれぞれ谷を挟むようにして崖の上でじっと佇み、周囲を見渡していた。


「……ほんとに2体いた」

「ティンクの言った通りだなー」

「……さ、流石私のライバルね! それくらい出来てもらわないと困るわ……」


 ストール鉱山の話は三姉妹の耳にも入っていたが、こうして実際にティンクの索敵能力の高さを目の当たりにしたのはこれが初めてだった。ティナだけ素直ではなかったが、三人共ティンクの実力に改めて感嘆の声を漏らした。


「それで、どうするのタイラー?」

「……いつもだったらお前とティナとスイの遠距離先制攻撃で戦闘の主導権を握るところだが、あいにく今回の依頼は討伐じゃなくて調査だ。最初のプラン通り、極力戦闘は避けよう」

「でしたら、ここを通るのは出来ませんね。ここからワイバーンの所まで遮蔽物は殆どありませんから、見つかるのは確実です」

「多分奴らもそれを分かっててあそこにいるんだろう。……おそらくあの2体は門番だ。この先にある住処を守るためのな……」

「ということは、この先にはかなりの数のワイバーンがいるということね。……それも、門番を置く程に統率の取れた厄介なワイバーンの集団が……」

「そうすると、これからの行動は――」


 タイラー、ムゥ、クワトルの大人同士で今後の方針を話しあっている後ろで、ティナ、ラミア、スイ、ティンクの子供組は大人の会話が終わるのを待っていた。


「……ねぇ、ティンク。ティンクはどうやってワイバーンや魔獣の気配を感じ取ってるの?」

「あー、それは私も気になってた」


 スイの質問にラミアも同調する。


「……今後のことを考えても、事前に敵の位置や数を把握できればそれだけ有利になる。……だから、もしよかったらその方法を教えてほしい!」


 いつもは誰かの後ろでおとなしくしている消極的なスイだが、この時ばかりはティンクに詰め寄る程に積極的になっていた。

 スイは遠距離武器を使いこなすスナイパーで、魔力で強化した視力を活かして遠くの敵の急所を一撃で射貫くのが普段の戦闘スタイルだ。更にスイは、強化した視力で索敵役もこなしている。

 ……しかしその索敵方法には弱点があった。スイの索敵方法は、ティンクの様に魔力を感じ取るのではなく、直接目視で探す方法である。その為、森の中の様な遮蔽物の多い場所では遠くの敵を見つけることが困難になるのだ。しかし、ティンクの方法にはその弱点が無い。その有用性はティンクによって、スイの目の前で今まさに証明された。

 スイはティンクのしている索敵方法をどうしてもマスターしたかった。だからティンクからその方法を教えてもらい、我が物としようとしたが――


「う~ん、教えてもいいけど……多分スイちゃんには出来ないと思うよ?」


 ティンクの口から出たのは、スイの願望を否定する言葉だった。


「ど、どいうこと!?」


 そう言われても、簡単に諦めることが出来る人はそうそういない。スイもその例外に漏れず、ティンクに更に詰め寄って説明を求めた。


「えっとね、ティンクは相手が持ってる魔力の量を生まれつき感じることができてね、索敵はそれでやってるの」

「えっ……、ということは?」

「……その感覚を持ってないスイちゃんは、絶対に真似できないの……」

「ガーーーン………!」


 明らかに表情を暗くして肩を落とし、その場にへたり込んで落ち込むスイ。


「あっ……、でもね! これは才能の問題だから、できないのはスイちゃんだからって訳じゃなくて、多分他の誰にも真似できることじゃないから、えっとね……そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ!」


 その様子を見て慌てて慰めるティンクだが、慌てすぎて全く慰めになっておらず、むしろトドメを刺していた。


「……ふぐぅっ!」


 普段は射貫く側だが、射貫かれる側に慣れていなかったスイのダメージは深刻で、とうとうその場に倒れてしまった。


「ついにスイまでやられちゃった……」

「スイ……骨は拾うからな……!」


 スイを挟んで悲しみを背負っているティナとラミア。その様を見てあわあわするティンク。そこに、話を終えたタイラー達がやって来た。


「…………何してるんだ、お前達?」

「「暇だったから遊んでた」」

「……私は軽くショック……」

「ごめんねスイちゃん!」

「はぁ……、子供の遊びは分からん……」




「……いたよ!」

「どっちだ?」

「ここから右斜めの方向に2体」

「分かった。慎重に行くぞ!」

「「「「「「了解!!」」」」」」


 ティンクのナビを頼りに岩場に身を隠しながら進むと、先程と同じ様に谷間を両端から見下ろすようにワイバーンが2体鎮座していた。


「これで5ヵ所目だな」


 タイラーは地図上に赤い丸印をつける。地図の赤い丸印はこれで合計五つになった。


「……よし、次に行くぞ」


 ワイバーンに気付かれないよう、気配を消してそっとその場から離れるタイラー達。

 門番のように峡谷の奥に進む道を見張ってる2体のワイバーンを見て、統率が取れたワイバーンの群れが峡谷の奥に住処を作っていると予想したタイラー達は、ワイバーンの縄張りの正確な範囲を調査することにした。

 ワイバーン達が街道を通る人を襲撃していないことから、少なくともワイバーン達に敵対意識は無いのは確かである。それなら無理に敵対する必要もない。そう考えたタイラー達は、ワイバーンの縄張り範囲を調査し、その調査結果をラセツに報告して縄張りに近付かないように警告を出してもらう事にした。

 無理に藪をつついて蛇を出す必要はない。事前に正確な情報を拡散すれば、それだけ不用意な衝突を避けられるのだ。


「……この先に、また2体いるよ」


 ティンクのナビ通りに進み、遠目からワイバーンの姿を確認して、地図に新しい丸印を追加する。


「これで、6ヵ所目か……」


 6つの赤丸が記された地図を覗き込み、タイラー達は頭を捻る。


「これを見る限り、それぞれのワイバーン達はほぼ等間隔の距離を空けて鎮座してますね」

「全てを繋げたら大きい弧になるわね」

「……これは、想像以上に大規模な群れだな」


 地図上の赤い丸印は等間隔に、綺麗な弧を描いていて並んでいた。これは群れを率いているワイバーンが、正確な距離を計算してワイバーン達を均等に配置させているからである。つまり、群れを率いているワイバーンは相当高い知能を持っている証拠だ。

 更に赤丸の各箇所には、必ずワイバーンが2体いた。赤丸は6つなので、合計12体のワイバーンが門番をしているのだ。門番達は弧を描くように等間隔に配置されており、住処を守っている。……しかし、その弧はまだ半円にもなっていない。

 知性の高いワイバーンがこうも綺麗に門番を配置しているのだから、こんな未完成な配置で終わっているはずがない。少なくとも、半円か全円状になるように門番を配置しているはずである。つまり、門番のワイバーンはまだ沢山いることになる。

 そして、それだけ沢山の門番に守られている住処には、一体どれ程沢山のワイバーンが暮らしているのだろうか……?


「どうするタイラー? 一旦戻ってラセツに報告する?」


 ワイバーンの数が予想以上に多い事が想定されるこの状況で、ラセツに報告するために一旦戻って対策を協議するのも1つの方法だ。

 しかしタイラーは、ムゥのその提案に首を横に振る。


「いや、このまま調査を続けよう。ムゥの提案も悪くはないが、どっちにしても縄張り範囲の調査をするのは、ワイバーンとまともにやり合える俺達になる。

 一度帰ってまた戻ってくる手間とタイムロスを考慮したら、全ての調査をしてから報告する方が効率的だろう」

「私もその意見に賛成です」


 クワトルがタイラーの意見に賛同したことで2対1となり、調査を続行することになった。

 ムゥも自分の提案に固執していたわけではないので、多数決の結果を素直に受け止め、調査の続行に賛同した。


「よし、そうと決まれば次に行くぞ! これまでの配置パターンを考えれば、次はこの辺りに門番のワイバーンがいるはずだ」


 そう言ってタイラーが地図上に指差した位置を目指して、一行は行動を再開した。


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