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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
最終章:覚醒の錬金術師

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184/209

174.淵緑の魔女VS教皇4

「……どういう意味じゃ?」


 サピエル7世は私の質問の意味が分からないと言った顔をしている。


「正直言ってあなたの力は、一人でこの戦争に勝利できるくらいに規格外だわ。なのにここでブロキュオン帝国軍と対峙してから今日までの数日間、あなたは一度も戦場に出てこないでずっと傍観していた。その力を持ってすれば、数時間も掛からずにブロキュオン帝国軍を蹴散らせたはずなのに。それは何故なの?」


 サピエル法国軍がここまで進軍して来た中で、サピエル7世がその力を振るったのはムーア王国の城壁を『スーパーノヴァ』で破壊した時だけだ。そこから今日までの間に、サピエル7世が力を振るったという報告は聞いていない。

 最初はムーア王国の城壁の破壊で大量の魔力を使って、その回復を待っているだけなのかと思った。だけど実際に対峙してみて、その考えは間違っていたとすぐに気付いた。

 サピエル7世の魔力量は膨大で、『スーパーノヴァ』一発程度なら回復が必要になるほどじゃない。

 それに例え魔力の回復が目的でも、魔力を吸収できる力があるなら兵士達から魔力を回収すれば済む話だ。わざわざ時間を掛けて待つ必要はない。

 そしてサピエル7世が最初から戦場に出て来ていたら、ブロキュオン帝国軍は為す術無く壊滅させられただろう。そうなればサピエル法国軍は無駄な時間も兵力も消費することなく、今頃は貿易都市を手中に収めていたはずだ。

 いくら私が戦争に詳しくなくて戦術や戦略に疎くても、あれだけ強力な力の効率的な使い道は簡単に思いつく。当然その程度の事はサピエル7世も思いついていたはずだ。

 だからこそ、サピエル7世が何を考えているのか分からない。それだけがどうしても頭の中で引っかかっていた。


「何故……か、それは、ワシが神となる者だからじゃ」

「……どういうことかしら?」

「神とはどういう存在か分かるか? それは、『人を導く者』じゃ」

「人を、導く者?」

「確かにお前の言う通り、ワシが最初から戦えばこの戦争の結果はもっと早く決着がついただろう。しかしそれはワシの力で得た結果であり、信徒達の力で得る結果ではない。神の使命は人を導くことであり、道を切り拓いて進ませることではないのじゃ。だからこそワシは力こそ貸せど、信徒達に活躍の機会を作っていたのじゃ」


 力を貸す? じゃあ、サピエル法国軍がリチェの報告以上に強かったのは、サピエル7世が力を与えて強化していたからということ?


「ワシの祝福を受けた信徒達がその手で勝利を手にする。その結果にこそ意味があり、その結果に人々を導くことこそがワシの目的なのじゃ」

「それが、今まで動かなかった理由? だったらどうして今になって動いたの?」

「それは、少々時間を掛けすぎたからじゃ」

「時間?」

「予定ではそろそろ奴らを貿易都市まで押し戻しているはずじゃった。しかし奴らの抵抗は予想以上で押し戻すどころか進むことも出来なかった。だから少し手を出すことにした。ただそれだけじゃ」

「……」


 サピエル7世の言っていることは一応理にかなっているように聞こえる。

 ……でも、何か違和感がある。今の説明だけだと、私の知っていること全てに説明が付かない。

 一体、この違和感の正体はなんだ……?


「さて、そろそろもういいか? さっきも言ったようにこれ以上時間は掛けてられないのじゃ。早くブロキュオン帝国を滅ぼして、プアボム公国を抑えているセリオに援軍を送らねばならんからな」


 ……いま、何て言った? プアボム公国を抑えているセリオに援軍を送る? それじゃまるで……。


 その瞬間、私の中で最後のピースがはまった音がした。


 そうか……そういうことだったのね。それならこれまでの言動に納得がいく。

 サピエル7世は知らないんだ。ブロキュオン帝国に向かわせた別動隊とプアボム公国を足止めしていた軍が壊滅したのを。今追い詰められているのは、自分達の方だということを!

 どうやらサピエル7世は、別々に動いていた彼等と連絡する手段を用意していなかったようだ。それはおそらく、失敗する可能性を全く考えていなかったからだ。

 だとしたら、なんて迂闊なのかしら。いや、自分達の戦力を過剰評価しすぎたのね。その所為で不足の事態に備えることを怠っていたんだ。


「――ふッ」


 おかしくてつい、口から笑みが漏れてしまった。


「……何を笑っている? ついに気でも狂ったか?」


 サピエル7世はおかしな者を見る目で睨んでくるが、こっちはおかしくて笑い転げそうだった。

 ……まあ、ガッチリ拘束されているから転がることは出来ないけどね。


「あなた、本当に現状を理解してなかったのね」

「何を言う、現状なら理解しておる。お前はもうすぐ死に、そのあとすぐブロキュオン帝国軍は壊滅する」

「違うわ。私が言っているのはこの戦場の現状じゃなくて、この戦争全体の現状よ」

「戦争全体の現状、じゃと?」

「知らないようだし、さっきの質問に答えてくれたお礼に教えてあげる。あなたがブロキュオン帝国に向かわせた別動隊も、プアボム公国軍を足止めしていた部隊も既に壊滅したわ」

「なっ!?」


 驚愕の表情を浮かべるサピエル7世。

 何故別動隊の存在を知っているとか、何故状況を把握しているとか、そんなことはあり得ないとか、色々と私に言いたそうにしている。

 でもそれにいちいち答えるのも面倒なので、先に答えてあげることにした。


「何故知っているのかと言いたそうね。私には優秀で頼れる使用人達がいるの。彼等は全てを見て私に伝えてくれたのよ。この戦争が始まってからね。そして彼等はあなたの手駒より強かった。ただそれだけの単純なことよ」

「……それを、そんな戯言をワシが簡単に信じるとでも思っておるのか?!」


 サピエル7世は険しい表情で私を睨む。

 簡単に信じたくないのも当然だろう。サピエル7世は自分の力と兵力、計画と作戦に絶対の自信を持っているようだったし。

 でもサピエル7世がなんと言おうと、これは揺るぐことない事実だ。否定したところで今更覆ったり変わったりすることはない。


「あなたが簡単に信じるなんて思ってないけど、そんなことはどうでもいいことだわ。だって、嫌でもすぐに信じざるを得なくなるのだから」

「なんじゃと……?」

「分からない? さっき言ったでしょ、あなた達の後ろで足止めしていた部隊はもういない。つまり、もうすぐここにプアボム公国軍がやって来て、あなた達は挟み撃ちされるというわけ」

「ッ!?」


 ようやく私の言いたいことを理解したのか、サピエル7世の表情に僅かだけど焦りが現れた。

 自分の知らない間に計画と作戦が完全に瓦解していたのだ。サピエル7世は計画も作戦も、その全てを練り直さないといけなくなった。

 今サピエル7世は頭を必死に回転させて、どうすれば理想の勝利を手に出来るかを考えているに違いない。


「まったくお笑いね。神になるとか大言壮語を吐いておきながら、今の今まで自分達の状況を全く把握していなかったなんて。よくそんなことで人を導くとか言えたものね」

「――ク、クソがぁああああああ!!」


 怒りを吐き出し、感情の赴くままにサピエル7世は腕を振り抜いた。そして白い光が私に向かってくる。


(……本当は倒してしまいたかったけど、まあこの状態でサピエル7世をここまで追い詰めることが出来たのだから、よくやったと言えるわね)


 心の中でサピエル7世との戦いを振り返り、自分自身に高評価を与えてあげる。

 そして、私は白い光に覆われた――。


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