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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
最終章:覚醒の錬金術師

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181/209

171.淵緑の魔女VS教皇1

 エヴァイアが転移したのを見届けた私は、ホッと息を漏らす。

 私だけ残る事にエヴァイアは納得していない様子だったけど、“もしも”の時に頼むと言ってきたのはエヴァイアの方だ。


 もし私がエヴァイアと一緒に転移魔術で逃げていたら、サピエル7世はすぐにでも攻め込んで来ただろう。

 そうなっていたら、動けないエヴァイアを抱えて大混乱になったブロキュオン帝国軍に勝ち目はない。私が手伝おうとしても、そんな大混乱の中じゃ私も全力を出すのは難しくなって、被害が甚大なものになるのは間違いない。

 かと言って、エヴァイアを逃がさずに残して戦うのは論外だ。動けないエヴァイアを守りながら戦えるほど、目の前の相手は楽じゃない。

 だからエヴァイアだけを逃がしたのは、私が周りを気にせずに全力を出せる最もベストな選択だった。……余計な目立ち方をしてしまうことになるのは不本意だけど仕方ない。

 ……それに、私がここに残る選択をしたのには、もう一つ理由がある。


「ちっ、逃げられたか……まあいい、どのみち殺すことに変わりはない。速いか遅いかの違いだけじゃ。それよりもお前、魔力をワザと抑えておったのじゃな。その膨大な魔力、“仙人”……いや、ワシと同じ“神人”か? 奴の部下にお前のような魔術師がいるという情報は無かったはず……一体何者じゃ?」


 魔力弾を放った時に抑え込んでいた魔力を解放したせいで、私の魔力量の多さがバレてしまった。

 まあそれは仕方ないから気にしても意味が無い。


 普段なら何者と聞かれれば正体を誤魔化すところだけど、私の魔力量に気付かれているならここから誤魔化すことは難しい。

 まあ、サピエル7世には屋敷を襲撃されたという怒りがある。だったら誤魔化すよりも正体を明かして、この怒りをぶつけた方がこちらもスッキリするというものだ。


「私はセレスティア。あなたには“淵緑の魔女”と言えば伝わるかしら?」

「淵緑の魔女だと!?」


 淵緑の魔女という言葉にサピエル7世は驚いた様子を見せる。

 そしてすぐに視線を鋭いものに変えて私を睨んできた。


「……そうか、お前がそうか。よくもワシの計画を散々邪魔してくれたな!」


 ……こいつは何を言っているんだ? 私には邪魔した記憶なんて一切ない。

 むしろサピエル法国が変な事を沢山していた所為で、こっちに迷惑が飛んできたのだ。怒りたいのはこっちの方である。


「だが、これも神のお導きか。こうも早く邪魔者を消せる機会を与えて下さるとは。それも最も邪魔だった奴等をな!」

「随分と勝手なこと言ってくれるわね。そっちこそ、私を敵にした事を後悔させてあげるわ!」


 ……勢い良く返してみたけど、我ながらかなり大見得を切った宣言だと思った。

 正直に言って、この戦いは私の方が不利だ。サピエル7世は間違いなく強い。今の私じゃどこまで太刀打ちできるか分からない。

 もちろん勝機が全く無いわけじゃない。一応切り札はある。……そう、あるにはあるが、これは本当にどうしようもなかった時の最終手段だ。出来れば使いたくない。


「ゆくぞ!」


 構えたサピエル7世は複数の魔法陣を同時に展開し、複数魔術による弾幕で攻撃して来た。

 『ファイアボール』、『アイスニードル』、『ロックショット』等々、殆どが初級攻撃魔術だ。だけどその数が異常だった。

 途切れることなく発射される複数の魔術が隙間なく密集して迫ってくる様は、まるで巨大な壁が迫ってくるような迫力だ。

 いくら初級で魔力消費量が少ないと言っても、これだけ撃てばかなりの魔力を消費する。だけど、それすらも気にならない程の魔力量を持っているのが“神人”の厄介なところだ。


「全部を裁くのも避けるのも面倒ね」


 だったら受け止めたらいい。

 回避行動は無理だと早々に諦めて、私は地面に手を付いて魔術を発動する。発動するのは高硬度な土の壁を形成する『グランドウォール』だ。

 発動と同時に私の目の前に巨大な土の壁が聳え立ち、サピエル7世の攻撃を受け止める盾となる。

 グランドウォールは“上級魔術”だ。初級攻撃魔術がいくら来ようとも耐える事が出来る。

 そして攻撃を防いでいる隙に、私は別の魔術を発動する。


 次に発動したのは『トルネード』という上級攻撃魔術だ。

 グランドウォールの前で風が渦巻き巨大な竜巻が出現する。竜巻の強力な風がサピエル7世の魔術攻撃を全て受け止めて巻き取っていく。

 以前、ティンクが魔術の弾幕をトルネードを使って全て巻き上げて反撃したことがあると言っていた。

 常識外れな反撃方法だなと思っていたが、今の状況だと有効な方法だ。私もその例に習わせてもらおう。


「ワシの魔術を巻き上げるじゃと!?」


 あまりにも予想外の方法で攻撃を防がれて、サピエル7世も流石に驚いているようだ。

 私は不要になったグランドウォールをささっと解除して視界を確保すると、サピエル7世に狙いを定める。

 竜巻の回転速度と角度を正確に調整して、巻き上げた全ての魔術をサピエル7世に向かって射出する。

 サピエル7世の攻撃の時よりも速度と密度を増大させた魔術の弾幕だ。避け切る事も防ぎ切る事も更に不可能に近い。普通に考えて、回避は不可能だ。


「小癪な真似をしてくれるッ!」


 だけど……いや分かっていたけど、サピエル7世は普通じゃなかった。

 サピエル7世は避けるでも防ぐでもなく、一歩も動くことなく全てをその身で受け止めたのだ。


「この程度、ワシには通用せんわ!」


 その言葉通りに、サピエル7世に直撃した魔術は当たった瞬間に四散するように消滅した。

 サピエル7世には怪我ひとつ無く、得意げで挑発的なドヤ顔をこちらに向けながらピンピンしていた。

 だけど私はそれに驚いたりしない。こうなる事はある程度予想していたし、むしろ予想通りの結果に終わったことで私の中にあった曖昧な予測は揺るぎのない確証へと変化したのだから。


「やっぱり……あなた、触れた物の魔力を吸収できるみたいね。エヴァイアの魔力も『竜の盾』に直接触れた事で奪ったのでしょう?」


 ……どうやら図星の様だ。サピエル7世はドヤ顔をあっけなく崩して驚いている。

 だったらこれもついでにこれも言ってやろう。


「私の知っている限り、“神人”に『魔力を奪う能力』なんてない。その能力は後付けによるものでしょう? そしてそれは――」


 私はサピエル7世の胴体を指差す。


「あなたの胸にある()()……それが『魔力を奪う能力』をあなたに与えている。違うかしら?」

「…………ふふふ。なるほど、まさか()()に気付くとはな。淵緑の魔女などと呼ばれているのは伊達ではないという事か」


 サピエル7世はそうほくそ笑みながら、おもむろにローブを脱いで放り捨てる。

 そして祭服のボタンを外すと、胸元をはだけるように祭服を脱いだ。


()()に気付いたその慧眼は誉めてやってもよいぞ!」


 そう言ってサピエル7世が見せつけてきたのは、心臓の位置に埋め込まれた拳大(こぶしだい)程の大きさの透明な球体だった。


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