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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
最終章:覚醒の錬金術師

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159.神都奇襲作戦1

 ムーア王国の王都がサピエル法国軍に陥落させられた頃。

 “カルナ”と“オイフェ”は皇帝エヴァイアからの命令を受け、別動隊を率いてサピエル法国に向かっていた。


「まさか森を抜けた先にこんな渓谷(けいこく)があったとはな。知らなかったぜ……」


 渓谷の中を見渡しながら、オイフェがそんな感想を口にする。

 カルナ達別動隊は現在、ブロキュオン帝国南東に広がる森を抜けた先の渓谷の中を進軍していた。


「先の森はとても広く、地形的にも人が暮らすには厳しく、今まで(ろく)な調査もされていなかった『未開の地』でしたからね。当然その森の奥にあったこの渓谷も、今まで知る人がいなくても不思議じゃありません」

「つまりサピエル法国の連中にとってここは、私達の目に触れることなく帝国に進入できる絶好の抜け道だったってわけだ……クソがッ!」


 やり場のない怒りのままに地面を蹴るオイフェ。

 彼女の馬鹿力で蹴られた地面は抉れて、砂煙が高く舞い上がる。


「……オイフェの怒りも分かりますが、せめて暴れるならこんな所じゃなくて、敵の前で暴れてください」


 地図に降り掛かった砂埃を手で払い落しながら、カルナは眉をひそめてオイフェを注意する。


「悪かったよ……。それで、目的地にはまだ着かないのか?」

「……あともう少し進んだ所ですね」


 カルナはコンパスと地図を見ながら現在地を確認する。


「改めて確認しますが、皇帝陛下からの情報によると、この先にサピエル法国と繋がるトンネルがあるはずです。僕達はそこを抜け、サピエル法国の神都を奇襲、そして制圧します」

「ああ、分かってるよ。忘れてないから安心しろ。……だけどカルナ、お前、この作戦をどう思う?」 

「どう、とは?」


 質問の意味が分からないと言った様子でカルナは首を傾げる。


「神都を奇襲する作戦自体は私も賛成だ。奴らが私達ブロキュオン帝国にしたことを思えば、宣戦布告を含めてぶっ飛ばすのは道理だからな!」

「では何が気になっているのですか?」

「……後ろを見ろ」


 オイフェはそう言って自分の後ろを親指で指差した。

 そこには二人の後を歩く兵士達の姿があった。


「私達に与えられた兵力はたった千人程度だ。国の首都を制圧するにしては、少なすぎると思わないか?」


 彼らが今回の作戦で与えられた兵力は約千人。

 オイフェの言う通り、普通に考えて一国の首都を制圧する兵力としては心許ないと言わざるを得ない。


「……確かに、オイフェの言いたいことは分かります。……しかし、この作戦を決定したのは皇帝陛下です! そして僕達は皇帝陛下に忠誠を誓った直属の配下である“近衛兵長”です。あなたは皇帝陛下が決められた作戦に疑いを持つと言うのですか?」


 作戦に不満を持ったオイフェを、カルナは貫くような視線で睨む。

 彼ら近衛兵長……いや、皇帝エヴァイアに忠誠を誓った者にとって、エヴァイアは絶対なる存在だ。

 エヴァイアの言う事は絶対であり、エヴァイアの言う事に間違いはないと、盲目的に信奉している。

 つまりオイフェの様にエヴァイアの立案した作戦に疑問を持つことは、カルナにとって許しがたい蛮行であった。


「別に疑っているわけじゃない。皇帝陛下の言う事に間違いはないし、今回の作戦も間違いなく成功すると信じている。いや、私達が確実に成功させないといけない! 失敗できないからこそ、私達は皇帝陛下がたったこれだけの兵力で作戦に向かわせた理由を、正確に読み取って行動しないといけないんじゃないか?」

「……なるほど。あなたにしては、まともな理由で悩んでいたのですね」

「もしかして、馬鹿にしてるのか? 私だってそれくらいは考えるさ」

「確かに、こと戦闘の直感においては、僕よりあなたの方が優秀だ。オイフェがこの戦力で心許ないと感じるのであれば、それは正しいのでしょう。……となると、やはり今回の作戦の鍵は、“彼等”をどう使いこなすか、という事でしょうか?」

「多分、そうだろうな……」


 二人は振り向いて、列をなす兵士達の更に後方、最後尾を歩く人物を見る。

 そこには黒髪イケメンの男剣士とコーラルピンク髪の魔術師の少女が談笑しながら付いて来る姿があった。


「たしか、“クワトル”と“ティンク”……だったか?」

「ええ。『ドラゴンテール』というパーティ名で活躍している現役のハンターですね」

「……あの二人、どこかで見たことあるんだよな~?」

「覚えていないのですか? 先日、プアボム公国の使者と同伴していた二人ですよ」


 カルナに言われて、「ああ、あの時か」と思い出すオイフェ。


「あの時に皇帝陛下が彼らの事を気に入ったようで、今回の作戦に特別に参加させたようですね」

「それもおかしい話だと思わないか? 皇帝陛下の人材マニアっぷりは今に始まった事じゃないけど、あの二人が皇帝陛下に(くだ)ったって話は聞いたことが無い。いや、それ以前に、国家間の戦争に兵士でもないハンターを動員する事自体も普通じゃないだろ?」

「皇帝陛下が言うには、あの二人は今回の戦争と訳アリらしいのですが……」

「それを探るのは固く禁じる、とも言ってたな……」

「更に言えば、何かあれば二人の力を頼るようにとも言ってましたね……」

「……それってつまり、皇帝陛下は私達よりもあの二人の力を頼りにしてるってことだよな?」

「「…………」」


 二人はエヴァイアから事前に聞かされたことを再確認するように、エヴァイアの言った言葉を反復して不満げな表情を見せる。


「なんか、納得いかないな……。私達近衛兵長は、選りすぐりの中から更に選ばれたエリートのはずだ。それなのに、あんな奴らに皇帝陛下の信頼を持っていかれるのは、なんかこう……不愉快だぜ……」

「珍しいですね、僕も同意見です……」


 性格が正反対で意見が一致する事など殆どなかった二人だが、この時ばかりは珍しく意見が一致したことで二人揃って何とも言えない苦笑いを浮かべ合った。

 そしてふと地図に目を落したカルナは、自分達が目的地にかなり近いところまで進んでいたことに気が付いて、オイフェにその事を伝える。


「……色々思うところはありますが、なんにしてもまずは、この作戦を成功させることを考えましょう」

「……そうだな。こうなったら私達だけの力で作戦を成功させて、皇帝陛下に改めて褒めてもらうとするか!」

「そうですね、そうしましょう!」


 皇帝から称賛を頂くことを新しい目標と定めた二人は、作戦の成功に向けて更なる気合を込めるのだった。


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