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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
最終章:覚醒の錬金術師

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150.開戦の狼煙3

 ノウエル伯爵の処刑が実行されてから数時間後、プアボム公国軍司令部の天幕に五人の人物が集まっていた。


 プアボム公国軍最高司令官を任されたヴァンザルデン。その参謀長のカールステン。

 ムーア王国の新国王となったルーカス・ムーア。その幼馴染みのシェーン・ホーク。

 そして、新緑色のローブで顔を隠した女性だ。


 彼等が集まった理由は勿論、先程サピエル法国軍が行ったノウエル伯爵の処刑についてだった。


「リチェから得た情報と先程私達が目にした光景、そしてあの“技”を照らし合わせて考えれば、先程の処刑を行ったあの大男が、四人いる教皇親衛隊の一人である“セリオ”で間違いありません」


 カールステンは自身の『植物と心を通わせる』能力を使って、サピエル法国軍の陣地内に生えている植物を通して偵察を行っていた。

 そうして得た情報と、ユノが洗脳支配した教皇親衛隊のリチェから得た情報を元に、ノウエル伯爵の処刑を行った人物の正体を正確に特定した。


「あれがそうですか……。話には聞きましたが、実際に目にすると恐ろしい相手ですね」


 シェーンの言葉にヴァンザルデンも頷いて同意する。


「特にあの“技”が厄介だ。実際に見て感じたが、あの“技”は数でどうこうなるものじゃない。闇雲に兵をぶつけたところで、さっきのような一振で全て薙ぎ払われるだけだ」

「だからと言って攻めないわけにもいきません。私が集めた情報では敵の目的は私達を足止めし、貿易都市に向かった部隊が戻って来るまでの防衛です。つまり、敵は私達と同じく『時間』を味方に付けようとしています。

 狙いが同じである以上、()()()()()()()()()()()()()()()が勝負になります」

「なるほど。……では、これから俺達はどう動くべきだと考える?」


 ヴァンザルデンの質問にカールステンは立ち上がると机上に広げられていた地図を指差し、現状の整理と把握を兼ねて説明を始めた。


「敵は街道上に私達の行く手を塞ぐように展開しています。これを避けて通ることは難しく、先に進むためには目の前の敵を突破しなくてはいけません。幸いにも敵は防衛に徹していた為、こちらの戦力は十分に整い兵力はほぼ互角と言っていいです。

 ……ですが、防衛に徹する相手に互角の兵力で挑むのはこちらの被害も大きくなると予想され、勝利できたとしてもその後の進軍に影響が出るでしょう」


 カールステンは現在地から指を滑らせて、次にサピエル法国の神都の場所を指差した。


「私達の最終目的はサピエル法国への制裁です。ムーア王国の王都を奪還した後は、貿易都市へ向かったサピエル法国を追撃し、最終的にサピエル法国の神都を制圧しなければいけません。

 ですので、この王都奪還戦で兵力を無駄に減らしてしまうこと、無駄に疲弊してしまうことは避ける必要があります」


 カールステンの説明を聞いて、全員が改めて今の自分達の状況を正しく認識する。


 そもそもこの戦争は、ブロキュオン帝国とプアボム公国がサピエル法国に制裁を加えるために“宣戦布告”をしたことが切っ掛けだ。ムーア王国の王都がサピエル法国と“王権派”に占領されるなんてシナリオは始めから想定されていなかった。

 あくまでもこの王都奪還戦は、彼等が本来描いていたシナリオに無理やり加えられた『予定外の戦闘』なのだ。

 王都をすぐにでも取り戻したい思いを強く持っているルーカスとシェーンもその事は十分に理解しているので、今は自分達の(はや)る気持ちを押さえてカールステンの考えに従っていた。


「先程も言ったように、私達と敵の兵力はほぼ互角です。本来であればもっと多くの兵力を集めるべきでしょうが、サピエル法国の電撃作戦により準備不足の急な出兵となったので、私達にはその時間的余裕がありません」

「……そこで、私達の出番というわけですね?」


 ローブで顔を隠した女性が、そこで初めて声を発した。

 各国の重鎮達が集まり重要な会議をしている重々しい空気の中で、女性の声は不思議な程とても落ち着いた声色だった。

 そんな女性の言葉に、カールステンが頷いて答える。


「その通りです。私達の所からこれ以上の兵力を集めるのに時間が掛かってしまうなら、他の所からもっと早く集める方が遥かに効率的です。

 彼女が来てくれたことにより、私達は強力な援軍を期待できるようになりました。

 ですので、私達の当面の方針は、新しい援軍の到着まで敵の注意を私達に向けさせ続けることです。そして援軍が到着次第、援軍と共に一気に攻勢に出て敵を撃破し、王都を奪還したいと思います!」


 カールステンの説明を聞いてヴァンザルデンは腕を組みながら大きく頷き、作戦案に賛同する仕草を見せる。

 ルーカスとシェーンを見れば、二人ともヴァンザルデンと同様に作戦案に不満はなさそうだった。


「よし、だったら敵の注意を引く役目は俺が務めよう! カールステンは後方支援に徹して、戦況の全体把握と敵陣の偵察を引き続き行ってくれ。

 そして王国軍だが、指揮はルーカス様に任せます。ですが、俺とカールステンの命令には従って頂きます。よろしいですね?」

「ああ、それは勿論だ。僕達はあくまでもプアボム公国軍に随伴している状態だ。僕達が王都に戻る為には君達の力が必要不可欠である以上、君達の命令には従おう。

 ……だが、一つだけ確認をさせてもらいたい」

「何でしょうか?」

「……そこの彼女の言葉通り、()()()()()()()()()()()


 ルーカスはそう言って、ローブで顔を隠した女性に目線を向ける。


「作戦自体に不満は無く、現状を打開するには最も有効的な作戦だと思う。……だが、この作戦は、そこの彼女の言う“援軍”が来ることを大前提として成り立つものだ。

 彼女達の事については先程簡単には聞いたが、どこの国にも所属していないという彼女達が、一体何処から現状を打開できるだけの戦力を持ってこれると言うのだ?

 君達が彼女達のことを全面的に信頼していることは理解している。……だが、協力して貰っている立場でこんなことは言いたくないが、僕達からすれば(にわか)には信じにくい話だ」


 そう言って女性を直視するルーカスの目は、疑心を抱えた不安の色をしていた。


 王都を取り戻す為にはヴァンザルデン達プアボム公国軍の力を借りなければいけない。しかし彼等が提示した作戦は有効的であっても、その内容はルーカスには信じることが難しいものであった。

 勝つためには信じるしかないが、その信じるに値する確証が今のところ無い。そんな相反する感情にルーカスは挟まれていた。


 王都を取り戻しムーア王国を建て直す。新しい王として……。

 その絶対に達成しなくてはならない使命の為にも、ルーカスはこの女性の事を見極めなければならなかった。


「……ルーカス様のお気持ちは分かります。絶対に成し遂げねばならないことがあるのですね? だからこそ、その鍵を握る私の事を見極め、そして信じなければならないと」

「……ああ、そうだ」


 ルーカスの言葉を聞きローブの下で笑みを見せる女性はまるで、ルーカスの心を見透かしているようだった。

 その様がルーカスの背筋にゾクリと悪寒を走らせる。


「……一つ、ルーカス様は大きな考え違いをしています。ルーカス様は今、私の事を信じようとしています。ですが、その必要は初めからありませんよ?」

「何だと……?」

「私達がこうしてこちらに赴き、ヴァンザルデン様達に手を貸そうとしている。まずその前提から間違えています。

 私の主人は国にも誰にも縛られない、自由で静かで平穏な暮らしこそを望んでいます。それを脅かそうとするのであれば、相手が国であろうと何者であろうと排除する。私達はそれを実行しに来ただけでございます」


 女性はそう言うと、静かにローブを下ろして顔を見せる。

 現れたのは綺麗な赤色の髪を(なび)かせる美女だった。その瞳はとても力強く、揺るぎない信念と静かな怒りに満ちていた。


「私達はただ、主人の平穏な暮らしを乱した相手を排除しに来ただけ。そしてその場に、たまたまヴァンザルデン様がいらっしゃり、共に協力することになっただけの事でございます。だから、ムーア王国は私達の事を信じる必要も、信頼を得ようとする必要もございません。

 私達は私達の目的の為に動く。偶然にもそれが結果的にムーア王国を救うことに繋がったとしても、私には興味のない話でございます」

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