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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第七章:世界大戦へ再び……

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150/209

140.寝耳に水2

幕間を含めて150話目となりました!

「さて、セレスティア。貴女が何故貿易都市にいるのかな?」


 私とイワンさん以外の人が会議室から出て行った後、エヴァイアの開口一番のセリフがそれだった。

 ……やっぱりバレていたか。まあ普段から服装を変えるだけで変装らしい変装をしていなかったから、私の顔を知っている人が見れば一目で同一人物だと見抜けることだろう。


「少し用事があってね」


 ここで誤魔化す意味はないので、私は素直に答えた。


「それはその格好と関係が?」

「ま、そういうことよ」

「成る程、事情がありそうだね!」


 エヴァイアは興味津々といった表情で、前のめりになり私を見る。


「よければその事情を――」

「教えないわよ」

「……」

「……」


 私はエヴァイアの言葉を途中で遮ってそう答えた。

 以前会った時に思ったけど、エヴァイアは皇帝らしく我が強く、全てにおいて主導権を握ろうとしてくる節があった。

 エヴァイアは私に強い興味を持っていて、私に事情があると知ればエヴァイアがその事情に興味を持って聞き出そうとしてくることぐらい容易に想像できる。

 だからエヴァイアと対峙する時は、主導権を握られる前に先制して出鼻を挫くぐらいの勢いで接する必要があるのだと感じた。

 ……ただ正直、皇帝という一国の最高権力者を相手にこんな接し方をするのは間違っているのかもしれないとも思う。その証拠にエヴァイアは、私の予想外の対応に呆気に取られた様な顔をして固まっていた。


(……怒らせてしまうかしら?)


 一瞬そんな考えが頭を(よぎ)ったが、結果的に言えばそれは余計な心配だった。


「――ふふふ、僕を相手にそんな強気で接して来た人は久しぶりだよ!」


 エヴァイアは笑っていた。それもとても楽しそうにだ。


「分かった。話したくないと言うなら、セレスティアが僕に事情を話してもいいと思うまで待つことにしよう」


 驚くことに、エヴァイアは怒る様子もなく大人しく引き下がったのである。


「怒らないのね……?」


 エヴァイアの予想外の反応に、私は無意識の内にそんな言葉を口走っていた。


「怒る? 君相手にかい? ははは、そんな愚かなことはしないさ! 

 確かに僕は普段から皇帝らしい振る舞いをしてるけど、権力を盾にして振り回すしか能のない他の大多数の愚かな権力者と同じじゃない。相手の力量はしっかりと(わきま)えているさ!

 セレスティア、僕はストール鉱山で君の力を見た時、君と対立することはとても愚かな選択だと確信したよ。

 ……正直に言うと、もし君と対立したと仮定して、帝国が勝てる情景が全く浮かばなかった。君と上手く付き合うには『対等で友好的な関係』を築くことが最善手なんだ。

 そう思ったからこそ、貿易都市もその選択を取ったんじゃないのかな?」


 エヴァイアはそう言うとイワンさんの方を見た。

 突然話を振られてイワンさんは少し驚いていた。


「そ、そうですな……。セレスティアさんの力について我々は把握してはおりませんが、『対等で友好的な関係』を築くということに関しては我々も同意見であります。

 “妖艶(メルキー)”にはまだ伝えられておりませんでしたのでこの場で皇帝陛下に伝えますが、貿易都市は既にセレスティアさんと協力関係を約束しております」

「やはりそうか」


 イワンさんの返答を聞いてエヴァイアは納得した表情を見せる。


「しかし皇帝陛下、何処でお気付きになられたのですか? 我々がセレスティアさんと協力関係を結ぶ話は“妖艶(メルキー)”がブロキュオン帝国に戻った後になされたもので、事が落ち着いてから伝える予定でしたのに……」

「えっ、そうなの?」


 私はてっきり、八柱(オクタラムナ)全員にその話が伝わっていると思っていたのだけど……どうやらそうではなかったらしい。


「僕が確信を得たのはついさっき、僕がセレスティアの名を口にした時だよ。

 セレスティアが会議室に来た時にその格好を見て、以前メルキーが話していた監視対象人物の『ミーティア』と特徴が一致していたから、ミーティアの正体はセレスティアだったのではと思ったんだ。

 そして僕がセレスティアの名前を口にして、セレスティアがその名前をイワンの前で否定しなかったことで大体の察しは付いたさ!」

「あっ……」


 ここで私はようやく自分の過ちに気付いた。

 クワトルからの報告にもあったように、エヴァイアには『超感覚』という能力がある。そして同時に、常人を遥かに超える鋭い感覚から得られる膨大な情報を正確に処理する明晰な頭脳も持ち合わせているのだ。

 思い違いをしていたとはいえ、名前を呼ばれて迂闊に返事をしてしまった所為で、エヴァイアは今までに得ていた情報を正確に整理して、そこから私と貿易都市との関係性を的確に見抜かれてしまった。


 やってしまったと思ったがもう遅い。

 こうなってしまっては、言い訳を並べたところで最早意味はない。

 となれば、私がエヴァイアに聞くべきことは一つだけだ。


「……皇帝陛下、一つ教えてくれないかしら?」

「何かな?」

「さっき『対等で友好的な関係』を築きたいと言っていたけど、それは具体的にはどの程度の関係性なのかしら?」

「ふむ……」


 エヴァイアは顎に手を当てて、少し思案してから口を開いた。


「具体的に言葉にするのは難しいが、簡単に言うのだったら“マイン公爵家と同等の関係”とでも言い表せばいいかな?

 僕の理想を言えばそれ以上の関係が欲しいところだけど、きっとそれ以上のものを望むのはお互いに良くないだろう。これは直感だけどね」


 私はエヴァイアの回答を聞いて思考を巡らせる。

 エヴァイアが望んでいるマイン公爵家と同等の関係性とは、それは即ち『共存関係』ということだ。お互いに親密で協力的で秘密を共有し助け合う。だけど決してお互いの一線を踏み越えはしない。そんな関係だ。

 エヴァイアの直感は当たっている。もしエヴァイアがそれ以上の関係性を望んで来たら、私は思考することなく拒否していただろう。


 これは正直に言えば、悪い提案ではない。

 偶発的だったとはいえ、エヴァイアは私に関する情報をかなり得てしまった。無理に関係を切ろうとすれば、それこそ厄介なことになる。

 それにオリヴィエと同じく、いや、それ以上とも言える権力者と繋がりを持つことが出来れば、私にも大きな恩恵がある。

 勿論、突然な面倒事が舞い込む事もあるかもしれないが、“マイン公爵家と同等の関係”であるなら、余程の事ではない限りどうするかの判断は私の自由意思であり、エヴァイアにそれをとやかく言う権利はない。逆に言えば、私も同等の面倒事をエヴァイアにお願いすることもできるということだ。


 私はそれから更に、エヴァイアと手を組む事の利点と欠点をじっくりと吟味し、そうして導き出した答えをエヴァイアに伝えた。


「……分かったわ。皇帝陛下、いえ、エヴァイアの提案を呑みましょう」

「本当かい!? そう言ってくれて嬉しいよ!」


 エヴァイアが手を差し出してくる。

 私はその手を掴み、固い握手を交わした。


「君とは長い付き合いになりそうだ。これからもよろしくお願いするよ!」

「こちらこそ。でもなるべく騒がしいのだけは勘弁願いたいわね」

「ははは、気を付けるとしよう」


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